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届け!!〜私を救った君に捧げる、唯一無二の私の青春〜  作者: ふなつさん
初愛編

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第4話

応援席のベンチは、朝から落ち着かなかった。

 私は剣道部のマネージャー用の腕章を直して、グラウンドじゃなく体育館のほうを見つめる。

 白い道着の列が整って、試合開始の合図がかかるところだった。

 ……始まる。

 初戦から、相手は決して弱くなかった。

 それでも、詩友くんたちは落ち着いていた。

 一本。

 また一本。

 動きがいい。

 繋がってる、っていう感じがする。

 次鋒の位置に立つ詩友くんは、特に目立っていた。

 踏み込みが鋭くて、迷いがない。

 前に出るたび、空気が変わる。

「……すご」

 思わず、声が漏れた。

 中堅だった頃より、前に出る責任が増えたはずなのに。

 むしろ、その重さごと受け止めているみたいだった。

 ――みんなを見返す。

 前に言っていた言葉が、動きから伝わってくる。

 勝ち上がるたび、会場のざわめきが少しずつ変わる。

 強豪校として、ちゃんと警戒され始めている。

 そして、準決勝。

 ここで勝てば、上位大会進出が決まる。

 私の指先が、無意識にスカートの端を掴んでいた。

 一本、一本が重い。

 先鋒、引き分け。

 次鋒、引き分け。

 中堅、副将、大将――全部、引き分け。

 静まり返る会場。

「……代表戦だ」

 誰かが呟いた。

 任意の選手同士。

 一本勝負。

 相手校が前に出したのは、大将だった。

 二年生で、体格も一回り大きい。

 少し遅れて、こちらの監督が名前を呼ぶ。

「榊」

 詩友くんが、一歩前に出る。

 胸が、どくん、と鳴った。

 ……詩友くん。

 一年生。

 次鋒。

 でも、誰も異論を挟まなかった。

 それくらい、今日の動きが良かった。

 中央に立つ二人。

 礼。

 試合開始。

 最初の数合は、探り合いだった。

 相手の間合い、詩友くんの踏み込み。

 竹刀がぶつかる乾いた音が、体育館に響く。

 詩友くんは前に出続けた。

 下がらない。

 何度も、仕掛ける。

 でも、相手も強い。

 ぎりぎりでかわされて、一本にならない。

「……いけ」

 思わず、握り拳に力が入る。

 一瞬の隙。

 詩友くんが踏み込んだ。

 面。

 ――惜しい。

 ほんの少し、遅れた。

 次の瞬間、相手の反撃。

 鋭い打ち。

 旗が、3本全て、相手に上がった。

 会場が、息を呑む。

 ……負けた。

 詩友くんは、その場で一瞬だけ動かなかった。

 それから、ゆっくりと礼をして、下がる。

 胸の奥が、きゅっと痛む。

 でも。

 次の瞬間、周りの空気が変わった。

「よくやったぞ!」

「一年であれはすごい」

「次鋒でも、完全に引っ張ってたな」

 味方の声。

 他校の先生の声。

 観客席からの拍手。

 詩友くんは、少し驚いたように顔を上げて、それから小さく頭を下げた。

 私は、気づいたら立ち上がっていた。

 ……負けたのに。

 悔しいはずなのに。

 でも、胸の奥には、別の感情が広がっていく。

 一年生で。

 配置が変わって。

 それでも、チームを引っ張って。

 最後は、二年の大将相手に、真正面から戦い抜いた。

 見返した、って言っていい。

 私は、拍手しながら、詩友くんの背中を見つめた。

 ――すごいよ、詩友くん。

 言葉にしなくても、その気持ちは、きっと伝わっている気がした。

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