番外編⑤
ファミレスを出ると、夜風が思ったより冷たかった。
「さっむ」
賢正が肩をすくめると、隣を歩く佳苗がちらっと見る。
「上着、薄すぎ」
「かーちゃんが寒がりなだけだろ」
「はいはい」
そう言いながら、佳苗は何も言わずに一歩近づいた。
自然すぎて、賢正は一瞬遅れて気づく。
「……近くね?」
「嫌なら離れるけど」
「嫌とは言ってない」
佳苗は小さく息を吐いて、前を向いたまま言う。
「賢、今日お疲れ」
「急にどうした」
「体育祭。ずっと動いてたでしょ」
「まあな」
当たり前みたいに返したけど、胸の奥が少しだけあったかくなる。
「かーちゃんもだろ。裏で色々やってたの、見てた」
「……ふうん」
佳苗は素っ気ない。
でも、歩く速度が少しだけ揃えられている。
「瑞姫ちゃんのこと、心配してたでしょ」
「別に」
「嘘」
即答すると、佳苗が一瞬だけ視線を向けた。
「……賢って、変なとこ鋭い」
「彼氏なんで」
軽く言うと、佳苗が足を止める。
「……調子乗らないで」
そう言いながら、袖をきゅっと掴んだ。
ほんの一瞬。
すぐに離したけど、確かに触れた。
「今の、デレ?」
「違う」
「絶対そうだろ」
「……うるさい」
でも、佳苗の耳は少し赤い。
駅前の街灯の下で、二人の影が並ぶ。
「なあ、かーちゃん」
「なに」
「また、四人でどっか行こうぜ」
「……うん」
短い返事。
でも、声はやわらかい。
賢正は笑って、歩幅を少しだけ合わせた。
手は繋がない。
でも、離れもしない。
そんな距離感のまま、二人は夜道を歩いていった。




