表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
届け!!〜私を救った君に捧げる、唯一無二の私の青春〜  作者: ふなつさん
初愛編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

25/69

第3話⑦

頭の中が追いつかないまま、視界が滲んだ。

「……え」

 声が出たのかも、わからない。

 ただ、詩友くんの言葉が胸に落ちてきて、勝手に溢れてきた。

 涙。

 理由はよくわからない。

 安心したのか、救われたのか、それとも――嬉しかったのか。

「ちょ、ちょっと……」

 詩友くんの声が、明らかに慌てている。

「え、泣くな、いや、違、そういうつもりじゃ……」

 視界の端で、詩友くんがポケットを探るのが見えた。

「あ、これ」

 差し出されたのは、少し折り目のついたハンカチ。

「……使え」

「……ありがとう」

 受け取って、そっと目元を押さえる。

 布越しでも、まだ胸がどきどきしているのがわかる。

「ごめん、急に……」

「いや……」

 詩友くんはそれ以上言わず、少し距離を取った。

 涙が落ち着いた頃、私は小さく息を吸った。

「……ねえ」

「ん」

「もう一回、練習……付き合ってくれる?」

「当然だろ」

 即答だった。

 それだけで、胸の奥がもう一度あったかくなる。

 再び黒板の前に立つ。

「――開会を、宣言します」

「樋口」

 呼び方が戻っている。

「視線、もう少し前」

「あ、うん」

「声、今のはいい」

「ほんと?」

「次、いける」

 相変わらず指摘は多い。

 でも、不思議とさっきほど苦しくなかった。

 ……あ。

 ふと、気づいてしまう。

「……ねえ」

「なんだ」

 勇気を、ぎゅっと握りしめる。

「もう、名前では呼んでくれないの……?」

 言った瞬間、後悔しかけた。

 詩友くんは、ぴたりと動きを止める。

「……」

 耳まで赤くなってるのが、はっきりわかった。

「……呼んだろ」

「でも……さっきだけじゃん」

 沈黙。

 それから、ぼそっと。

「……瑞姫」

 心臓が跳ねた。

「……もう一回」

「瑞姫」

 お互い、顔を見ない。

 見たら、たぶんだめだった。

 先に、私が笑ってしまった。

「……なにそれ」

「笑うな」

 そう言いながら、詩友くんも小さく笑っている。

 時計を見ると、もう下校時刻ぎりぎりだった。

「やば」

「帰るか」

「うん」

 並んで校門を出る。

 夕方の空気が、少し涼しい。

「また明日も練習な」

「うん」

 一歩前に出て、振り返りながら、

「み・ず・き」

 区切るみたいに言って、詩友くんはそのまま帰っていった。

 その背中を見送りながら、私は気づく。

 今日の詩友くん、

 いつもより声が明るくて、歩くのも少し軽かった。

「……なに、それ」

 小さく呟いて、私は胸の奥をぎゅっと抱えたまま、帰り道を歩き出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ