第3話⑤
生徒会室を出た瞬間、肩の力が一気に抜けた。
「……開会の言葉、かあ」
廊下を歩きながら、小さく呟く。
決まった直後は「はい、やります」って普通に返事したのに、今になってじわじわ実感が追いかけてきた。
全校生徒の前。
グラウンドの真ん中。
マイク。
想像しただけで、胸の奥がそわそわする。
「ちゃんと言えるかな……」
変なところで噛んだらどうしよう。
声、裏返らないかな。
そこまで考えて、足が止まった。
「樋口」
後ろから、落ち着いた声。
振り返ると、詩友くんが立っていた。
生徒会室から出てきたところみたいで、資料を片手に持っている。
「どうしたの?」
できるだけ普通に聞いたつもりだったけど、声が少しだけ高かった気がする。
「開会の言葉、担当になったって」
「あ、うん……」
もう噂になってるんだ、と思いつつ、視線を逸らす。
「……ちょっと緊張してる」
正直に言うと、詩友くんは少しだけ目を細めた。
「樋口なら大丈夫だろ」
短い言葉。
でも、間がちょうどよかった。
「そうかな」
「そう」
即答。
「生徒会で話すとき、声通ってるし」
思わず目を瞬かせる。
「……見てたんだ」
「見てる」
それだけ言って、詩友くんは少し間を置いた。
「前にさ」
「?」
「俺のことで、言ってくれただろ」
一瞬、心臓が跳ねる。
「あれ、助かった」
詩友くんは視線を前に向けたまま言う。
「だから」
少しだけ、言葉を探すみたいな沈黙。
「明日から、開会の言葉の練習」
「え」
「付き合う」
頭が、ふっと軽くなった。
「……いいの?」
「うん」
「忙しいでしょ」
「時間つくる」
さらっと言うから、余計に驚く。
「ありがとう……!」
思わず声が弾んだのを自覚して、慌てて咳払いする。
「でも、ほんと助かる」
「別に」
詩友くんはそう言いながら、少しだけ歩き出した。
「ちゃんと聞いてやるから」
その背中を見て、胸の奥がじわっと温かくなる。
驚いたのは本当。
でも、それ以上に。
……めちゃくちゃ嬉しい。
顔に出ないように、必死で抑えながら、私はその後ろを追いかけた。
「じゃあ、明日よろしくね、詩友くん」
「おう」
短い返事。
でも、その一言で、明日の緊張が少しだけ楽しみに変わった気がした。




