表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
届け!!〜私を救った君に捧げる、唯一無二の私の青春〜  作者: ふなつさん
初愛編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/69

第2話⑪

選挙当日。

 朝から胸の奥が、そわそわして落ち着かなかった。

 制服に袖を通して、鏡の前に立っても、なんだか現実感がない。

 ――本当に、私が。

 総務の立候補者として、演説する日。

 廊下を歩いていると、視線を感じる。

 応援の言葉も増えたけど、それでも心臓は正直だった。

 「緊張してる?」

 声をかけてきたのは、玲奈先輩だった。

 生徒会室の前。

 いつもの余裕のある笑顔で、私を見下ろしている。

 「……してます」

 正直に答えると、玲奈先輩はくすっと笑った。

 「大丈夫。樋口さんは、ちゃんと前を向いて話せる」

 「それに」

 少し声を落として、耳元で言う。

 「今日は味方が多い日だから」

 その言葉に、少しだけ肩の力が抜けた。

 控室に入ると、詩友くんもいた。

 椅子に座って、腕を組んで、いつも通り無表情。

 ……なのに。

 「樋口」

 名前を呼ばれて、顔を上げる。

 「緊張してるだろ」

 断定。

 「……まあ、ちょっと」

 「だろうな」

 それだけ言って、少し間を置いてから。

 「でも、原稿通りでいい」

 「余計なこと考えると、噛む」

 相変わらず、言い方は不器用。

 でも。

 「樋口は、ちゃんと準備してきた」

 その一言で、胸の奥が温かくなった。

 「……ありがと」

 詩友くんは、ふっと視線を逸らした。

 演説は、あっという間だった。

 壇上に立つと、思ったよりも静かで。

 原稿を読む声が、体育館に響いていく。

 みんなの顔を、ちゃんと見られた。

 最後まで、噛まずに話せた。

 席に戻るとき、足が少し震えていたけど、どこか達成感もあった。

 放課後。

 昇降口で、玲奈先輩がわざとらしく腕時計を見る。

 「じゃ、私はちょっと用事」

 そう言って、にやっと笑う。

 「二人で帰りな」

 有無を言わせない感じで、去っていった。

 ……仕向けたな。

 詩友くんと、並んで歩く。

 夕方の風が、少し冷たい。

 無言。

 気まずいわけじゃないけど、何を話せばいいか分からない。

 しばらく歩いたところで。

 「……コンビニ、寄らないか」

 詩友くんが言った。

 「え?」

 思わず、声が裏返る。

 詩友くんから、寄り道の提案なんて、珍しすぎる。

 「別に、用事があるならいい」

 「い、行く」

 即答だった。

 コンビニの明るい照明が、少し眩しい。

 アイスコーナーの前で、詩友くんが立ち止まる。

 「……好きなの、選べ」

 「え?」

 「今日、頑張ったご褒美。奢る」

 一瞬、言葉を失った。

 「……ありがとう」

 迷った末に、無難なアイスを取る。

 会計を済ませて、店の外へ。

 「はい」

 詩友くんにアイスを渡されて、私は思い出した。

 「それ、詩友くんもでしょ」

 財布を出す。

 「私も奢る」

 「いや――」

 「いいから」

 詩友くんは、少し考えてから、同じようなアイスを取った。

 二人で、並んで歩きながら、アイスを食べる。

 夕焼けが、道をオレンジ色に染めている。

 「……明日だな」

 詩友くんが言う。

 「結果発表」

 「うん。楽しみだな」

 そう言うと、詩友くんは少し驚いた顔をした。

 「不安じゃないのか」

 「不安もあるけど」

 「でも、ここまで来たから」

 正直な気持ちだった。

 「……そうだな」

 角を曲がるところで、足を止める。

 「じゃ、また明日」

 「うん。また明日」

 別れて歩き出してから、気づく。

 胸の中にあるのは、不安よりも、期待だった。

 明日が、少し楽しみだと思えている自分に。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ