第2話⑨
第二回の立候補者の集まりは、前回よりも静かだった。
人数が、少し減っている。
――大野の姿は、なかった。
立候補が認められなかった、という話はもう広まっている。
理由も、なんとなく察しがついた。
私は、少しだけ肩の力を抜いた。
教室に入って、席に着く。
詩友くんは、少し離れた場所。
目が合いそうで、合わない距離。
そんなことを意識していると。
「樋口さん」
後ろから、声をかけられた。
振り返ると、そこにいたのは――玲奈先輩だった。
「この前のこと、大丈夫だった?」
一瞬、言葉に詰まる。
前回。
大野に絡まれたこと。
気にかけてくれていたんだ。
「はい、大丈夫です」
私は、慌てて笑う。
「先輩たちもすぐ止めてくれましたし」
「そう」
玲奈先輩は、ほっとしたように息をついた。
「よかった。ああいうの、選挙の場では本当はあっちゃいけないから」
真面目で、でも柔らかい言い方。
取り繕ってないのが、すぐに分かる。
「ありがとうございます」
自然と、そう言っていた。
「気にかけてくれて、嬉しいです」
「当然だよ」
玲奈先輩は、少し笑った。
「立候補した以上、みんな同じ立場なんだから」
……優しい。
思っていた以上に。
生徒会長だから、しっかりしている。
年上だから、余裕がある。
それだけじゃない。
ちゃんと、人として気遣ってくれる人だ。
胸の奥が、ずしりと重くなる。
――勝ち目、ないかも。
そんな考えが、頭をよぎってしまう。
説明が始まり、みんな前を向く。
でも、さっきの会話が、ずっと残っていた。
玲奈先輩は、きっと誰に対してもこうなんだ。
だからこそ、信頼されて、生徒会長なんだ。
私とは、違う。
そのときだった。
近くの席で、立候補者同士が小声で話しているのが聞こえた。
「ねえ、聞いた?」
「なに?」
「生徒会長、彼氏できたんだって」
その言葉に、心臓が跳ねる。
「まじ?」
「らしいよ。結構最近」
頭が、一気に冷える。
彼氏。
最近。
校外での距離感。
呼び捨て。
タメ口。
全部が、一つにつながる。
……ああ。
相手、詩友くんなんだ。
確信に近い感覚だった。
私は、ぎゅっと手を握る。
胸の奥が、痛い。
怒りでも、嫉妬でもなくて――
ただ、落ちていく感じ。
玲奈先輩は優しくて、頼れて、生徒会長で。
詩友くんと、同じ場所に立っている。
私が割って入れる余地なんて、最初からなかった。
説明の声が、遠くに聞こえる。
私は、前を向いたまま、ただ耐える。
この気持ちを、誰にも見せないように。
でも、心の奥では。
何かが、静かに折れそうになっていた。




