第2話⑧
帰り道、コンビニの前を通りかかったときだった。
「……あ」
思わず、足が止まる。
「どした、瑞姫ちゃん?」
垣端くんが、私の視線を追って顔を上げる。
ガラス張りの自動ドアが開いて、二人が出てきた。
詩友くんと――
玲奈先輩。
二人とも、袋を手に持っている。
並んで歩いていて、距離が近い。
私たちは、なんとなく物陰に立ったまま、その様子を見ていた。
「……珍し」
垣端くんが、小さく言う。
詩友くんが、笑っていた。
作った笑顔じゃない。
剣道部で見るのとも、私たちといるときとも少し違う。
肩の力が抜けたみたいな、自然な笑い方。
胸の奥が、きゅっとする。
そのとき。
「それ、前も言ってただろ」
詩友くんの声が、はっきり聞こえた。
……え?
「玲奈、また同じの選んでる」
名前。
呼び捨て。
一瞬、意味が分からなかった。
「ちょっと、いいじゃん」
玲奈先輩が笑って返す。
口調も、完全にタメ口だった。
「……今の」
佳苗が、低い声で言う。
「聞こえた?」
「聞こえた」
垣端くんが、即答する。
「詩友、玲奈先輩のこと、呼び捨てにしてたよな」
私の喉が、からっと乾く。
「校内でも、ああだった?」
佳苗が、私を見る。
「……ううん」
首を横に振る。
「学校では、ちゃんと“玲奈先輩”って呼んでたし、敬語だった」
「だよね」
佳苗は、少し考えるように視線を落とす。
コンビニの前では、二人が立ち止まって何か話している。
詩友くんは、相変わらずリラックスした表情だ。
「ってことはさ」
佳苗が、静かに言う。
「校内と校外で、ルール分けてるんじゃない?」
「ルール?」
「呼び方とか、距離感とか」
「……それくらい仲がいいってこと?」
私がそう言うと、佳苗は否定もしなかった。
「少なくとも、“最近知り合った”感じではないね」
その言葉が、胸に落ちる。
「詩友、昔から年上ウケいいしな」
垣端くんが、軽く言う。
軽く言ってるけど、軽く聞けなかった。
やがて、二人は別々の方向へ歩き出した。
詩友くんは、一度もこちらに気づかない。
「……じゃ」
佳苗が、歩き出す。
「今日はここで解散しよ」
「だな」
垣端くんも、頷く。
「瑞姫ちゃん、また明日な」
「……うん」
手を振って、二人と別れる。
一人になった帰り道。
さっきの光景が、頭から離れない。
呼び捨て。
タメ口。
あの笑い方。
私の知らない詩友くんが、確かにそこにいた。
不安は、もう誤魔化せないくらいに形を持ち始めている。
胸の奥で、静かに、でも確実に。




