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Scene 3:夜、残る者と帰る者
18時。
水城はヘッドホンを外し、PCをシャットダウンする。
「お疲れさまでした」
「……ああ、お疲れ。もう帰るのか?」
「はい。明日の資料はもう共有フォルダに入ってます。チャットも、緊急でなければ明朝に確認します」
「……了解」
ドアの閉まる音。
空いた席に、蛍光灯の白が落ちる。
風見は椅子に背を沈め、ため息をついた。
「……さて、片付けるか」
心の奥で、水城の静かな帰宅を思い出す。
「いつも通り……だけど、少し変わった空気だな」
そう思った瞬間、扉の向こうから軽い足音が近づき、ドアが静かに開いた。
「お疲れ。ちょっといいか、風見?」
「あ、部長……はい、どうぞ」
部長は資料を片手に、机の横に立つ。
その視線は自然と、風見のディスプレイの上に積まれた書類に落ちる。
「例の追加資料、まだか?」
「はい、すぐ取りかかります」
「あれ?水城は?」
「もう帰りました」
「なんだそりゃ。最近の若いのは、ほんとに——」
部長の声は続くが、風見の耳には、水城の静かな“退職音”が残響のように響いていた。
心の中で、風見は水城の意思の強さに少し感心していた。




