美里の幸せ
「キャロルに会ってきたの。」
その言葉を聞くと、カールは側に置いてあった椅子に座る。
「お話を聞かせてくれるのですか?」
少しだけ緊張した面持ちで、問いかけられた。
私は頷き、話し始めた⋯⋯。
キャロルは自分の想像通り、私の家族に大切にされている事。
仕事も頑張っている事。
そして、私の元恋人と仲良く過ごしている事。
全部話をした。
カールも安心したように、
「良かったです。」と、漏らした。
「美里。一つ聞いても?」
何やら神妙な顔つきになるので、私は姿勢を正しカールを見つめた。
「キャロルの今の恋人は、その⋯⋯。美里の元恋人ですよね⋯。良かったのですか?」
はて?良かったのか⋯⋯とは?
私が不思議そうに見ると。
「美里はあちらでは、年上だったでしょ?その⋯⋯。結婚も近かったのではと。」
あぁ~そうか。
「結婚を誓い合った相手なのに、キャロルに譲って良かったのか。って事?」
カールは申し訳無さそうに、体を小さくして頷いた。
(私を気遣ってくれてるのね。本当に成長したよね〜。)シミジミ⋯⋯。
「確かに翔也とは恋人同士だったし、あのまま付き合っていたら普通に結婚したと思うわ。」
「でも。翔也は本当は女性を甘やかしたいタイプなのよ。大事に、大事にしたいの。
でもね、私は自分が強いでしょ?翔也にはキャロルの方が相性が良いと心の底から思うよ!」
ニッコリ笑う美里に、
「私がキャロルにした事は許される事ではありませんでした。
でも、美里がキャロルの為に頑張る姿を見て、嘆くだけではダメだと。自分はもっと頑張らなければと。」
「美里に、ダメ男だと言われ自分のダメさを変えようと頑張ったつもりです。」
私は、ウンウン頷いた。
実際にカールはちゃんと反省して、キャロルの立場を護ったのだからね!!
そう伝えた。
カールが姿勢を正して美里を見つめる。
「美里さん。私は貴女を3年近く側で見て来ました。
美里さんが両親や恋人と離れて1人知らない世界でキャロルの為に頑張る姿を見て来ました。
味方が少ないこの世界が辛く無いわけないと。
少しでも、辛さを和らげられたらと。自分なりに頑張ったつもりです。
スパダリ?でしたか。私はまだまだそれには遠いかもしれませんが⋯⋯。」
「これからも、貴女の側で支えて行きたいと思っています。美里さん。優しく強く、でも寂しがり屋を隠す貴方が好きです。」
瞳を揺らし、必死に言葉で伝えるカール。
キャロルを試すのではなく、きちんと言葉で伝えていれば⋯⋯。
と、後悔し反省してる姿を見てきた。
カールの今の言葉は本心だろう。
ちゃんと、私(美里)を見てくれる人がいる。
それだけで胸はぽかぽかする。
「私はキャロルの事に必死だった。でも、キャロルと会って幸せにしてるのを見て、やっと私の役目は終わった気がするの。」
「だから、これからはカールとの婚約もキチンと前向きに考えるわ。カールをちゃんと見る。」
カールは目を見開き、嬉しそうに笑う。
仔犬が尻尾をフリフリ状態だな〜。
(可愛いなぁ〜!!)
無自覚にも、この瞬間に美里の恋愛スイッチが押された。
カールに抱きつき、頭をよしよしする。
カールは子供扱いにを嫌がるも、美里のよしよしからは逃げなかった。
「実際は、仔犬を可愛がる様だった。」
トニーの覗き見の感想である。
キャロルの寂しさを一番知っているトニーにも、再会した時の話を全て伝えた。
「キャロルはあっちの世界で幸せにちゃんとなっていたわ!私の家族は絶対にキャロルを不幸にはしない。
だから、トニー。安心してね。」
トニーは涙を堪えられずに、暫く泣いていた⋯⋯。
キャロルの辛さを、寂しさを一番間近でトニーは見てきたもの。キャロルの幸せを一番願っていたのは、トニーだと、美里はそう思っている。
「トニーの心にいる不幸な少女を、少しは幸せな少女に変えれたかしら⋯⋯。」
美里がトニーに尋ねた。
「はい。美里様。ありがとうございます。
貴方様のお陰で、キャロルお嬢様もようやく幸せを手に入れたようで安堵致しました。」
いつも軽口なトニーが畏まって話しかける。
美里は少し姿勢を正した。
「美里様。貴方様が持っていた大切な人達を手放し、何も感じない筈はないのです。それなのに、お嬢様の為に奮闘して下さった。
その事は決して私は忘れません。
これからは、私は美里様の幸せの為に尽力します。」
「美里様も幸せになって下さいね。」
微笑みながらも泣き顔のトニー⋯⋯。
美里は我慢できずに泣き出した。
(ほんの少しだけ、寂しかった。知らない人に知らない世界。
大好きな家族と恋人とは離れ離れ。
私はキャロルがされた仕打ちを許せなかった。ただそれだけなのに。トニーもカールも私の幸せを願ってくれる。寂しかった思いに気が付いていてくれた。)
美里は堪えきれずに涙を流した。
「ありがとう。トニー⋯⋯。
貴方の軽口のお陰で、寂しさを乗り越えれたの。ありがとう。」
2人で泣きながら笑い合った⋯⋯。
それからの美里は、自分がこの世界でやりたかった事をやり始めた。
美里の作物に関する知識は、自国にも大帝国でも取り入れられた。
前世の記憶を手繰り根菜は干して非常食に加工した。
風魔法で乾燥させ真空状態にする。乾燥も袋に詰める作業も、貧民層の平民への仕事として斡旋した。
平民の魔力量は貴族より少ないが、ちゃんと魔法が使える。
乾燥野菜は、冒険者達にも喜ばれた。
真空状態なので、荷物がかさばらないので丁度いいらしい。
雪深い辺境ではとても喜ばれた。
契約に関しては、美里に知識が無かったので。カールが率先して貴族達と交渉してくれた。
美里が何かを作り出し、カールが契約を担当する。役割分担で、仲良く領地運営をして行く。
美里の可愛がりにカールが慣れた頃、形勢が徐々に逆転して行った。
カールが美里に対し、甘々攻撃を開始した。
美里はグイグイ来られた事が無かった為、ジタバタと落ち着かない。
そんな初心を出す美里が可愛くて、カールはどんどん溺愛していく。
そんな二人を見て、お祖母様が。
「いい加減結婚しなさいっ!!」
と、一喝してあれよあれよで⋯⋯。
本日は結婚式である。
美里は嫌がらせする相手、全てにやり返しを終えた。
キャロルの立場をきちんと確立した。
やり切りました!満足です!!
結婚式の準備は2人で行う。
こちらのウェディングドレスは相手の瞳の色を使うが、美里は白にした。
カールに白色である意味を伝えたら、大変な目にあった⋯⋯。
仔犬を脱ぎ捨て、成犬となったカールの相手は精神的にゴッソリ何かが持って行かれた気がする。(式の日まではちゃんと清く!です。)
お祖母様に見守られ、私は今日女伯爵となる。カールは婿入し、私の補佐をしてくれる。
隣国との橋渡し役も、私ではなくカールが行う。
カールの立場を考え、私が指名した。
隣国の王太子とカールは王太子の婚約破棄をお手伝いした事がきっかけで、なんだかんだで仲良しなのだ。
面倒臭い王太子の相手を、カールに丸投げした感じでもある。
晴れ渡る空を見上げ、あの日再会したキャロルを思う。
(キャロル!私もちゃんと恋愛したわよ。貴女も幸せにね!)
心で囁き、カールの待つ祭壇へと歩む。
(いつかあの草原でまた会えたら、私も幸せになったよ! そう報告したいな⋯⋯。)
幸せへの道をカールと大切に歩き、これからの自分の未来に希望を乗せる。
❀おしまい❀
作品を読んで頂き、ありがとうございます❀
誤字報告がありましたので、訂正しました。
気を付けてますが、毎度毎度⋯⋯。
報告は助かります。
ありがとうございます❀
〜追記〜
2話で美里の名前を間違えてまして、報告頂き訂正しました。
が、機能をそのまま使用してしまい、大変申し訳ない文章になってしまいました。
報告により、訂正しました。
読み手様には感謝しております。
❀報告ありがとうございました❀




