キャロルの為に頑張る美里
領地で数日過ごし、領地の使用人も引き連れ大所帯で王都の屋敷に入る。
家族もどきが驚いて屋敷から出てきた。
あら?!
出てきたのは、父もどきと義母もどきの二人だけだった。
アーシアお姉様はまだ帰ってないのかしら!? まぁ〜どうでも良いが。
私の後から、お祖母様が馬車から降りてきた。
「!!!!」
家族もどきは驚いている。
なぜなら、ここ10年程会っていないからだ。お母様が亡くなると、お祖母様は領地に引きこもっていたから。
「お前達は全員領地に行きなさい。
この伯爵邸に残るのは許しません。」
「執事長以外の使用人もです。」
流石大帝国のお姫様だけある。
圧が凄いのだ。
「それと、社交がしたければすると良いですよ。夜会の参加も認めます。
しかし、伯爵邸に一歩たりとも入るのは許しません。解りましたね?」
家族もどきは何も言えない。
何をしても、お祖母様が口を出さなかった為に勝手に安心していたのだ。
明日までに荷物を纏めて、明後日には領地に向かうように決められた。
荷造り頑張れ〜!!
家族もどきの荷造りで騒がしいので、王都の高級な宿に泊まる。
2日間お祖母様とゆっくり宿で過ごしながら、伯爵家をこれからどうするか話し合う。
領地は金の鉱山がある為、領地の収入は安定してはいた。
だが、もどき達の散財で蓄えがない。
領地の農作物の不作も続いていた。
天候は不作になる程荒れる事はなかったはずなのに⋯。
お祖母様に、農地の視察に行く事。
日本で家族と自給自足の畑をしてきた経験が活かせるなら知識を出す事を伝えた。
暫く領地を巡ると、最初の時点で原因は判明した。連作障害だった。
同じ場所にその野菜を植え続けると良くない事。
魔力のみで畑を肥沃にするのも良くない。
土自体に栄養を蓄えさせるようにする事を、簡単に領民に説明をする。
1年は我慢をして貰う。
鉱山の収入を無駄遣いしなければ、1年くらい我が領地は耐えしのげるのだ。
贅沢ばかりする家族もどきは、領民の敵だった。
2年間、領地を豊かにする為に頑張った。
作物だけでなく、酪農も始めた。前世から大好きだった「アイスクリーム」を作ったのだ。
キャロルの魔法のおかげで、失敗は沢山したが念願のアイスクリームを完成させた。
今日はアイスクリームをお披露目するのだ〜!!
お祖母様とトニー。そして婚約継続中のカールも呼んだ。
アイスクリームはとても好評だった。
氷菓子はあるにはあるが、滑らかで甘いアイスクリームは喜ばれた。
アイスクリームで、また嫌がらせを考えついてしまった。美里はお祖母様とカールとで案を練った。
美里が考えた嫌がらせは、領地でしか売らない!だった。
孤児院の仕事にして、孤児院を出る子供の受け皿にして働き先を作った。
王都に住む貴族には当分手に入らないようにした。
(嫌がらせになるといいなぁ〜。)
美里の嫌がらせは、2年経っても続いていた!
王都の貴族にアイスクリームの噂が伝わるが、販売するのがキャロル(美里)であり、王都では販売しないと知ると歯がみするしか無かった。
販売は隣国を優先した。
勿論、収入は上がった。隣国でも孤児院の受け皿として仕事場を作った。
収入も安定し、隣国での私の評判もあがる!
そんなある日、王城からお茶会の招待状が届いた。
王妃様からだった。
お祖母様に相談すると、参加を促されお茶会に行く。
領地運営する方がお茶会より楽しいのに⋯⋯。
案の定、アイスクリームの販売をして欲しいとの要望だった。
私もいつまでも嫌がらせする気もなかったけど、即答するのは癪に障るので持ち帰り案件にした。
お茶会の会場を出ると、2度目ましての再現。カールがいた。
また例のお店に行き、個室で話をする。
「今日の呼び出しは、アイスクリームの販売についてですか?」カールに聞かれ、
「うん。販売するのは良いの。嫌がらせも十分出来たからね。」
ただ⋯⋯。
「キャロルが本来いる筈だった立場を、私は取り返せたかな?
下に見られていたキャロルに、やり返された人達はキャロルにした事を後悔してくれたかな?」
カールは気が付いていた。美里はキャロルを思い、本来のキャロルが居るべき立場を築いていたからだった。
カールはキャロルへの贖罪として、美里の嫌がらせの効果を上げるために助力していた。
「キャロルの本来の立場は十分過ぎる程に取り戻せてます。大丈夫ですよ。」
カールが優しく答える。
美里は「良かった」と安堵を漏らす。
カールは贖罪の一つとして、自分が今までキャロルにした仕打ちの理由を社交の場で正直に話していた。
それはプライドの塊の貴族としては、あり得ない事だった。
カールはしばらくは女性陣からは、冷たい態度をとられていた。
カールはその事をちゃんと受け止め、キャロルを蔑ろにした自分を責めていた。
美里は少しずつ変わるカールに好感を持つ。
ただ、日本での美里の恋愛は好きになったら自分から行くタイプであったので、この静かに成長する思いが恋愛なのか友情か解らなかった。
アイスクリームの販売を王都でする事になる。
美里に擦り寄る貴族も出て来たが、丸っと無視。
「面倒臭いなぁ〜。放っといて欲しいのに⋯⋯。」
「仕方ありません。アイスクリームを美里の領地で食べてしまった人が、自慢話で広めてしまいましたからね。」
「王都での販売には、公爵家の名前を利用しても構いませんが。美里の場合はそれも要らないでしょうね。」
少し言葉に寂しさが乗っていた⋯⋯。
兎に角、貴族が面倒臭い。
販売を通じて利益を得たいと、躍起になっているから。
「躍起になっても無駄なのにね。」
カールに伝えると頷いてくれた。
今日は孤児院に向っている。
アイスクリームの製造や販売の話をする為だ。
王都には孤児院が3つある。
それぞれの院長や孤児の年長者を集めて、製造や販売の説明、利益率や孤児の仕事の就職先にと次々と提案した。
来月にはアイスクリームの販売を開始する。
アイスクリームだけでは収入は安定しないだろうと、乳製品のデザートの販売をいずれする予定。
小分けにして、飽きられない様に収入が安定するようにしたかった。
「日本でもっと覚えとけば、もっと役に立てたかな⋯⋯。」
珍しく美里が愚痴を漏らした。
「美里は頑張り過ぎるくらいにやりましたよ。大丈夫です。孤児院の運営も上手く行ってますし、美里は少し休暇を取った方が良いですよ。」
そう提案され、
「そうね。少しゆっくりしようかな。」
カールはニッコリ微笑み頷いた。
(カールは落ち着いて来たよね。色々頑張ってるから成長早いな⋯⋯。)
美里は次の日はお祖母様とゆっくりお茶会をする予定だった。
だが、疲れもあり高熱を出してしまう。
数年振りの熱にうなされ、眠り続けた⋯⋯。
美里が夢現に目を開くと、あの草原だった。
少し歩くと人影が見えた。
美里は走り出し、その後ろ姿に抱きついた。
「キャロル!会いたかった!」と。
抱き着かれた人物が。
「み、美里っ苦しいのよっ!」
と、腕をバシバシ叩いた。
抱き着かれた人物は、キャロルだった。
お互い顔を見合わせ、泣きながら笑い合った。
草原に座り込み
「久し振り」と、挨拶を交わす。
「キャロル元気にしてた?あっちはどう?私の家族と一緒にいる?仕事は?」
矢継ぎ早で質問攻めをして来る。
苦笑いしながら、キャロルは最初から話してくれた。
キャロルは山で滑落する事はなかった。
滑落しそうな時に他の登山者が気が付いて、咄嗟に手を引っ張ってくれた。
滑落しそうな恐怖と、見た事ない風貌の人々にキャロルは大混乱。
山小屋まで行き、周りの人に言われるまま美里の家族の迎えを待った。
キャロルを美里と思っている家族は、心配が凄かったらしい。
大人し過ぎる美里に、滑落の恐怖だろうと何も聞かず側に居てくれた。
家に帰るが、キャロルは世界の違いから美里と入れ替わたのではと同じことを考えた。
家族に美里との事を話す。
家族は「美里が多分望んだのだろう。キャロルさんをこっちで幸せにして欲しい!!と、美里が願ったに違いない。ならば、私達はキャロルさんを大事にするだけ。」
と、あっさり受け入れたらしい⋯⋯。
(もう少し寂しがれ!!そう思うわたしは悪くない!!)
少し拗ねる私の心は隠した。
「仕事は滑落の影響として、暫くお休みしたの。そうしたら、美里さんの恋人さんが来て。直ぐに人が違う事に気が付いたの。凄いよね!!」
(翔也は性格の違いに気が付いただけじゃないのかな?友達から始まってるから、私の性格を知り尽くしてるし⋯⋯。)
「あのね。ん~~と⋯⋯。」キャロルがなかなか話を続けない。
「翔也と恋人同士になった?」
ニヤリと笑う。
「!!」
見抜かれたキャロルは驚いたが、直ぐに「ごめんなさい。美里さんの恋人なのに、優しくされて⋯⋯。好きになったの。」
謝罪を何度もして、泣きながら頭を下げる。
「キャロル。大丈夫だよ。翔也の女性のタイプはキャロルみたいな性格って知ってたから。」
キャロルは美里を、バッと見る。
「翔也は私の性格を嫌ってた訳じゃないよ?普通に恋人同士だったし。」
「でも、翔也は本当は女性を甘やかしたい。構い倒したいタイプなのよね〜」
と笑いながら告げる。
「翔也もきっと私に悪いとは思っているはずだけど、私はいない。キャロルがいる。じゃあ辛い思いをしたキャロルを幸せにする!って考えて結論を出したと思う。」
「翔也は私を見捨てた訳じゃないよ。私の性格を知っているから、どこに居てもわたしは私の幸せを手にすると信じてくれてると思う。
ならば、私から託されたキャロルを大切にしよう。って思ったのかもよ!?」
キャロルは泣きながらも、美里の目を見続ける。
「だから、大丈夫よ。辛かっただけ、日本で幸せになって!!
キャロルが元の世界で手に出来なかった家族や恋人との愛を堪能して良いのよ。」
そう伝えた。
「ありがとう」とキャロルは微笑んだ。
最初に見た微笑とは違う、穏やかで幸せそうな笑顔に美里は嬉しくなる。
次は美里の番ね!キャロルに元の世界の話をせがまれる。
キャロルに嫌がらせをして来た殆どの人に、やり返した事。
王家に対しての話にはキャロルが青褪めた。
笑って「ガツン!とやり返してやったわよ!」親指を立てて笑顔で伝えた。
勿論カールの事は全て伝えた。
キャロルに気持があった事を伝えた時は、苦笑いになっていた。
随分前にキャロルはカールへの気持が消えていたから。
「美里はカールと恋人同士?」
と聞かれ、否定した。
「良い人だとは思うし、好感はあるけど⋯⋯。恋人か〜。」悩む。
「翔也さんと美里の恋愛話になった時に言われたの。美里は好きになるきっかけさえあれば、猪のように相手に行くから心配ないって。私は余り意味が解らなかったけど。そうなの?」
美里は過去の恋愛を思い出す。
「そうかも!キャロルが安心するように、私はちゃんと恋愛するわ!だから、キャロルは気にしないで翔也に幸せにしてもらうのよ。」
それから、お互いの家族の話を教え合い時間が過ぎて行く頃。
握り合ってた手が透けてきた。
お互いお別れを認識する。
「予想だけど、入れ替わりを戻すのか継続か今決断しなさいって言われてる気がするの」キャロルがそう話す。
「私もそんな気がする。キャロルはどうしたい?私は実際どちらに行っても自由にやるだけだから、キャロルに決めて欲しい。」
キャロルは「我が儘を言っていいなら、私は日本にいたいっ⋯⋯」
「でも、私はただ美里を大切にしていた人が居るから大丈夫。だけど、美里は?
美里は私の立場の為に戦ってくれて、大変な思いをしてる⋯⋯。」
私の手を強く握りしめた。
「なら、このままね!キャロルが申し訳ない想いをする必要は無いわよ!
日本にいる時より、好きに十分に生きてるから。それに、お祖母様やトニーにカール。強い味方が私にはちゃんといるから!」
「お互い幸せになろうね。」
頷き合い、抱きしめ合った瞬間に目が覚めた。
ぼぉーっとする意識の中で目を覚ます。
右手に温もりを感じ視線を向けると、カールが手を握っていた。
「美里。目を覚ましたのですね。」
泣きそうな顔で私の右手を両手で包みこんだ。
「エリザベート様を呼んで来ますね。」
そう言うと手を離そうとする。
カールの手をギュッと握りると、カールが驚いて私に視線を戻した。
「キャロルに会ってきたの」
カールにキャロルとの会話を、これからの私の話をしようと心に決める。




