episode48 迫る惨禍
――――――エリオスSide―――――
エリオスとリオンはダンジョンの奥へとさらに進んでいた。
進むにつれて魔物が現れるようになり、二人は協力して次々へと倒していた。
「下がってください、【風迅】」
目の前一帯のコボルトがリオンの風迅で吹き飛ばされ、そいつらは気絶した。
「ふぅ…、明らかに数が増えてきたね。」
「それにコボルドの肌の色も不自然です。ほら。」
リオンはコボルトの肌を剣先で刺した。
確かにコボルト特有の濃い灰色とはかけ離れて、紫色へと変色していた。
「確かに…やっぱりこのダンジョン。特にこの辺りは安全ではなさそう。」
エリオスは身構えたまま、周囲の気配を探る。
「……魔力の流れも、おかしい。地下全体に、薄く禍々しい気配が染みついてる」
「ぼくも感じます。空気の流れにノイズが混じってる……“人工的な異変”ですね」
リオンは目を細め、コボルトを観察する。
「本来、訓練用のダンジョンにこんな魔物は配置されない。ましてや突然変異種なんて…」
エリオスは無言で頷き、【心眼】で先の危険を探ろうとした
――その時だった。
「……っ!」
突然、視界に“揺れ”が走る。
遠くの闇の中、何かが蠢いた――明らかに“普通の魔物”ではない気配だ。
「エリオスさん……今、何か感じましたね?」
「ああ……嫌な気配がする。かなり強いのが、いる」
二人は視線を交わし、無言で頷き合うと、慎重に先へ進んだその時だった。
「ぐっ…!!」
リオンは突然頭を抑えて膝をついた。
「リオンくん!?大丈夫!?」
リオンは荒く息をしながらエリオスに目線を合わせた。
「頭が…割れるほど痛い…!それに…!異常な…魔力を…感じます…。」
「魔力…?」
エリオスは再び奥の暗闇に目を凝らしながら気配を感じ取った。
「禍々しい魔力を感じる…それに魔力の流れが感じ取れない…。」
「エリオスさんは平気なんですか…?」
「うん…もしかしたら神の加護があるおかげかも。」
エリオスの体を包む金色の微光が、どこか柔らかく周囲の闇を押し返していた。
エリオスはリオンの身の危険を感じ、手を差し伸べた。
「ここは戻ろう。リオンくん」
「……すみません。」
いつも好奇心で前に進んでいたリオンは、悔しそうにしながら背中を向けた。
それほどに、禍々しい魔力に体が耐え切れないのだろう。
「…いや待って、」
「え…?どうしたんですかエリオスさん…。」
神の加護の自由さを忘れてはいけない。きっと思ったことができるはず…!
「すーっ…【神域展開】!」
神剣を地面に突き刺し魔術を唱えると、リオンを巻き込んで金色の魔方陣を展開した。
その瞬間、苦しんでいたリオンの顔色が徐々に和らいでいった。
「すごい…痛みが無くなっていく…これは…?」
周りの禍々しい洞窟とは真逆に、領域内は明るく照らされて空間そのものが浄化された。
「思った通り上手くいったみたいだね!"神の加護を周りに共有する能力"だよ。」
エリオスは静かに微笑みながら剣を引き抜き、魔方陣の中心に立つ。
リオンから見ると、エリオスが神々しく輝いて、まるで神のようだった。
「神の加護…本当に万能ですね。」
「あぁ、僕もできるとは思わなかったよ。」
エリオス自身も"この力"の全域は理解していない。
だが、エリオスの守りたいという気持ちが形になったのは確かだ。
「ありがとう、エリオスさん。ぼくの気持ちを尊重してくれて。」
「こちらこそ、リオンくんがいなければここまで来ようとしなかったよ。」
二人は微笑み合い、再び前を向いた。
しかし、その時だった。
「っ…!リオンくん!下がって!」
エリオスが叫んだ瞬間、神域展開の外で、黒い影が地を這うように現れた。
体すらまともな形を成せず、まるで黒いスライムのような大型の魔獣が赤い目でこちらを見ていた。
「あれは…いったい…!」
リオンは剣を構えつつも見たことない魔獣に震えていた。
一方でエリオスは既視感を感じて記憶を探っていた。
その既視感を解消したのに時間はかからなかった。
「!!…なんでこんなところに…"ヴァイル汚染魔獣"が…!!」
エリオスの声が震えた。
それは、ただの恐怖ではない。
学院の図書館で見た、あの忌まわしい資料の映像が頭を過ったからだ。
ヴァイル大災害――世界の均衡を崩しかけた、かつての脅威。
その中心にいた“神にすら届く存在”が放った、魔力の濁流。
それに触れた魔物や生物が変異し、暴走した姿――それがこの、“ヴァイル汚染魔獣”だ。
「う、嘘でしょう……? そんなものが模擬ダンジョンに……!」
リオンの顔から血の気が引く。彼は冷静な思考を武器にしてきたが、それすらも刈り取られるほどの恐怖だった。
目の前の魔獣は、まるで人の形をあざ笑うように、
ぬるぬると黒い身体を波打たせ、赤い複眼をギラつかせながら結界の縁に滲み寄ってくる。
「エリオスさん…」
「あぁ…リオンくん。やるしかない。リオンくんはサポートにまわって。僕が前線に出る。」
「了解です。二人でここを止めましょう。」
リオンは決意して剣を構え、エリオスの金色の魔剣が一段と耀きを放った。
ダンジョンの奥底で、大きな戦いが始まろうとしていた――。




