episode41 準禁書、ヴァイルの手がかり
授業が終わり、昼休憩中、僕は真っ先に図書館へ戻った。
ヴァイル大災害まで残り30日程度あるが、不安は募るばかりだ。
だから情報を出来る限り集めて不安を解消するしかない。
そう思い図書館で歴史書区間でヴァイル大災害のことが書かれてある本を探していると、後ろから誰かが抱きついてきた。
「チャーンス!捕まえた!」
背中に柔らかな感触と、明るい声。
突然、誰かに後ろから思いっきり抱きつかれた。
「き、キアラル!」
キアラルが満面の笑みで背中に抱きついてきて離れない。
「キアラル!早く離れないと…!」
ま、まずい!また縛られ…ってもういる!!
キアラルの後ろに例の黄金の糸が伸びていた。
「い、いるううぅうぅぅぅううう!!??」
「やったぁ!これでエリオスと…って…え?」
なぜか縛られたのはキアラルだけだった。
僕は呆気に取られていたがひとまず安心して息を吐いた。
「え?な、何で!?なんで私だけ!?」
キアラルは縛られたまま辺りをキョロキョロして、僕に涙目で見つめてきた。
すると、聞き慣れた声が影から聞こえた。
「図書館規則・第35条、同意なく人に接触しない。――よ。」
「な、なにそれぇ…。」
フェリル先生が口角を上げて顔をのぞかせていた。
「これは今日作った規則よ。あなた、朝あまりにも狙ってたからもしかしてと思ったけど。こんなに上手くいくなんてね。」
「っ!?//////」
キアラルが一瞬で真っ赤になり、顔を俯かせていた。
その時だった。どこかから目線を感じて周りを見渡すと、ニヤニヤしていたエレナと目が合った。
「キアラルさーん、今度は何をやらかしたんですか?」
「こ、これは…!」
優雅に本を抱えながら歩いてくるエレナの目元には、明らかに“勝者の余裕”が滲んでいた。
「こ、これは…! べ、別にやらかしたわけじゃなくて!ちょっとエリオスに…その…ご挨拶を…!」
「へぇ~、図書館で“ご挨拶”って、ずいぶんと熱烈なんですねぇ?」
「ち、ちがっ……フェリル先生もなんか言ってやってくださいよぉっ!」
「ルールは守らなきゃねぇ、キアラルさん?」
フェリル先生は涼しい顔で言い放つと、用事が済んだかのように何を言わずに立ち去った。
「ちょ、ちょ!誰かほどいて~!」
キアラルが床をゴロゴロしながら助けを求めていて、仕方ないと手を伸ばそうとした瞬間、エレナに腕を掴まれた。
「え?エレナ…?」
どうしてっと言おうとすると、エレナは涼しい笑顔で微笑んだ。
「ちゃんと反省させないと…ね?」
「で、でも…」
「ね?」
エレナの圧に負けて、伸ばした手を引っ込めた。
「ちょっ!裏切り者~!」
キアラルは縄にぐるぐる巻きにされたまま、床をバタバタと蹴って悔しがっていた。その姿はもはや小動物のジタバタである。
「そ れ よ り も!」
エレナは持っていた本を僕に渡してきた。
「こ、これは…」
「ヴァイル大災害の歴史書よ。出来る限りこれが近い情報みたい。」
僕が読んできた本より圧倒的に古い、それに分厚い。明らかに違う雰囲気を感じた。
僕は受け取ったその古ぼけた本をゆっくりと開いた。
「…これは…。」
当時の状況や人々の苦しみ、それに紙がところどころ焦げている。コピーとかじゃない、まさしく本物の雰囲気を漂わせていた。
「これ…魔剣学院の図書館にあったもの…?」
「えぇ、けれど歴史書区域ではなくて、”準禁書区域”にあったわ。3階の。」
準禁書…それは盲点だったな。それは一般の図書館でギリギリ置ける禁書のことを指す。
これを読むのに身体に影響はないが、精神に作用する可能性がある。それが準禁書だ。
僕がページをめくっていると、エレナはそっと僕の隣に腰を下ろした。
「私も最初はただの古文書かと思ったの。でも……読んでるうちに、頭の奥がざわざわしてきて……。ページをめくるたびに、何かが脳に流れ込んでくるような……そんな感覚がしたのよ。」
「……それ、大丈夫だったのか?」
「大丈夫じゃなかったら持ってこないわ。でも、あまり長く読むのはおすすめしないわよ。あなた、前より“感じる”ようになってきたでしょう?」
「感じる……?」
その時だった。
本のページに触れていた指先が、ぴくりと震えた。
それと同時に視界の隅が、黒く滲み始めていた。
「うっ…!」
「エリオス君!閉じて!」
慌てて本を閉じて深呼吸をした。
視界は鮮明に戻っていたが、指先が軽くしびれていた。
「はぁ…はぁ…これ本当に準禁書か…?」
「分からない…私も途中で気分が悪くなったわ…。」
これ以上読むのは危険だと察したが、これを読まずにヴァイル大災害を迎える方が危ない。
「エレナ、僕はこれを読むよ。」
きっと止められる…そう構えたが、意外な返答が帰ってきた。
「えぇ…でも無理はしないで。」
「え…?止めないの?」
思わず聞くと、エレナは静かに首を振った。
「止めても無駄でしょ?エリオス君は止められないってわかってるから。」
「エレナ…」
胸の奥がじーんと熱くなる感覚がした。
一人じゃない。エレナとキアラルも、そしてブラッド先生も。
仲間と一緒に、戦える。
そのことが、どれだけ心強いか……僕は噛み締めるように笑った。
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「…ねぇ、私のこと忘れてるよね!!早く助けてぇ~!」
その頃キアラルは縛られたまま半泣きで助けを求めていた。




