episode2 エレナの実力
次の日…
「あいつ!学院やめたらしいぜ!」
「いやぁ、ざまぁみろだぜ。」
エリオスがいなくなった教室は、誰も気にかけないどころか、罵る者ばかりだった。
1人を除いて…。
「…エリオス君。」
頭の中で嫌なほど響く。エリオス君のついてくるなっ!!という言葉。
初めてエリオス君の怒りに満ちた表情を見て、何も言えなくなった。
エリオス君のいない学院は無意味みたいなもの。
だけど最後にエリオス君が残してくれた、’’僕の代わりに夢を叶えて’’。
エリオス君がなりたかった魔剣士。それになるのが今の私にできることかもしれない。
今はまだ乗り気ではないけど、エリオス君のために頑張ろう。
すると、ふいに耳に入った言葉が私の怒りを搔き立てた。
「エリオスがいなくなったお祝いにパーティーしようぜー!」
「いいねいいね!」「賛成賛成!」
人がいなくなってパーティーするとか、ありえない。
思わず声を荒げて男3人組に近づいた。
「あなたたち!」
「げっ、エレナ…。」
私の中の怒りがふつふつと湧き出る。
もしかしてエリオス君はこんな気持ちだったのかな。
それより、エリオス君が辞めてパーティーするとか、人間としてあり得ない。
「人が辞めてお祝いするとか、サイテーね。」
エリオス君以外に気遣う必要はない。この世の男はろくでもないから。
「う、うるせぇ!」「俺たちの勝手だろ!」
「それに、お前の偉そうな態度!気に食わないんだよ!」
今にも切りつけてきそうな雰囲気だが、
表情から恐れ、不安が読み取れた。
所詮は後先考えず吠える負け犬。
相手にする気を失せた、こんな奴に腹立つのがバカらしくなってきた。
「おい待てよ」
男の太く大きい手が、私の肩を掴んできた。汚らわしい。
「何?」
「その気に食わない態度いい加減改めろよ。」
何を言い出すかと思えばそんなことか。
「無理。」
エリオス君以外の男に優しく関わるとか、愚の根性。死んでも嫌だ。
でもなんとかしないとしつこいな…じゃあ手っ取り早くこうするしかないか。
「じゃあ私と対面試合しない?あなたたちが勝てば言うこと聞いてあげる。」
「おいマジか…」「でも相手はエレナさんだぜ…?」
周りがザワザワし始めた。いつの間に全員聞いてんだ。
「なんでも聞いてくれるんだよな?」
「えぇ、どうせあんたたちの考えることは分かってるけど。」
どうせ、私の体目的でしょ。男はそんな下等生物みたいなやつだし。※個人の意見です。
「その代わり私が勝てば私の目の前から消えて。目障りだから。」
「言ってくれるじゃねぇか。それでいいぜ。」
ほんと、どこからそんな自信湧いてくるのやら…。
そして私と男3人組で対面試合をすると、学院内で何故か話題になった。
昼の約束の時間では、対面試合の会場の周りに人だかりが出来ていた。
そんな大層なことしないんだけどなぁ。
「行くぞお前ら!あのエレナでも、3人がかりならいけるだろ!」
あいつらは謎の自信と団結力で私を倒そうと意気込んでいる。
「まぁ、様子見てさっさと終わらせますか。」
試合開始の鐘が鳴ると、あいつらは3手に分かれて私を囲んだ。
まぁ、真正面から飛びかかるほどバカじゃ無いか。
「くらえ!【エクスプロージョン】!」
「はぁぁあ!【ストーンウォール】!」
「いけぇ!【ウォーターランス】!」
私の隣から炎属性の上級魔法、爆発を起こし私もろとも吹き飛ばし、
水属性の中級魔法、槍に水を纏わせて肉体を穿つ。
頭上からは土属性の初級魔法、デカい剣を岩と見立てて相手の頭上に切り落とす。
どれもレベルがバラバラで、相手の属性のことを全く考えていない。
所詮はそんなものだな。一撃で終わらそう。
「…【アブソリュート・ゼロ】。」
唱えた瞬間、相手の魔剣もろとも周りを凍らせた。
その姿はまるで雪女のようだった。
「すげぇ…。」「これが"冷血な氷剣士"…。」
…冷血な氷剣士とは、誰かが勝手につけた私の二つ名みたいなものだ。正直迷惑。
あ、そうだった、あいつらは3人とも体全身を氷で凍らせて動けない。
「これで分かったでしょ?どんなに人数でかかってきても、本気5%くらいの私には敵わないって…。」
そう、エレナは剣を使っていない。エレナにとってこの3人との戦力差は肉食動物とネズミみたいなもの。
「ぐっ!」
さっきまでワンワン吠えてた奴とは比べ物にならないほど惨めで、実に情けない。
「というわけで私の目の前から消えてね、もし無理にでも近づいたら、今度はその不細工な顔ズラをカチンコチンにしてあげるわ。」
言いたいこと全て言って会場を出た。
…でも心の奥底ではスッキリしない。
やっぱりあの人がいないからかな…。
昨日のあの夜、彼の背中を見送った門を見つめて、深くため息をついた。
「エリオスくん…。」
…これは奇跡的に見れたとある生徒の話だが、
普段冷血で、ゴミを見るような瞳で見てくる俺らとは違って、
この時のエレナは、とても純粋で綺麗な瞳をしていたという。