episode19 キアラルの夢
その日の夜…
村は何百年も続いた山神様討伐によるお祭り状態だった。
村の中心のキャンプファイヤーを囲み、村の皆が踊ったり酒飲んだりで賑わっていた。
正直、僕はあまりこういうのは好きではない。だから少し離れたところで座って果実ジュースを飲んでいた。
すると、キアラルがエリオスの隣に座ってきた。
キアラルは片目に眼帯をつけて、さっきの古びかしい服とは一風変わって白いワンピースを着ていた。
「エリオスはこういう場所苦手?」
「まぁ…好きではないかな。」
「そう、まぁ私も。こういうのはエリオスを讃えるべきなのに、みんな忘れてる。」
キアラルはどこか切なそうな顔をしていた。別に僕は讃えられなくていいんだけどな…。
すると、キアラルは微笑みながら尋ねてきた。
「そういえば、エリオスはどうして旅をしてるの?」
「た…び?」
「あれ?違う?」
そっか、この年齢で外を出歩くのは旅人とか冒険者くらいか。キアラルは旅人と勘違いしてたんだな。
今の僕は魔剣学院に戻るために、魔物と戦っていた。
けれどもう魔物と戦う必要性はなさそうだ。
…キアラルになら教えてもいいかな。
「実は、魔剣学院に戻るために森の中で戦ってたんだ。」
「魔剣学院!? エリオス魔剣学院に通ってたんだ!」
予想以上の反応に驚いた。魔剣学院にいるだけでそんなすごいことか…?
すると、キアラルはショートソードを取り出して自慢げに話し始めた。
「私も、魔剣学院に行きたいと思ってたんだ!」
「え!?」
キアラルみたいな人が魔剣学院に!?
「私、強くなりたい…。エリオスみたいに魔力はないけど…。でも剣だけはたくさん練習したんだ!魔剣学院でたくさん学んで強くなって…!」
「だめだ!」
「え…?」
キアラルの希望に満ちた瞳が一瞬曇る。
キアラルの希望に満ちた表情を見て、否定したくなった。彼女の姿に自然と自分の状況を重ねてしまった。
現実は甘くない。才能ない者は切り捨てられる。それを僕は知っている。
「キアラル…僕は弱くて魔剣学院を辞めさせられたんだ…。」
「え…エリオスが弱い…?そんなに魔剣学院は強い人に溢れてるの…?」
「そういうことじゃないんだ…。」
僕は魔剣学院を出てから今に至るまで、一部始終を話した。
魔剣学院を退学になったこと。
朝になるまで待ってた洞窟の中で死にかけたこと。
神の加護を授かったこと。
強くなるために森の中で戦ってたってことを。
すべてを話すとキアラルは深刻そうな顔をしながら話しかけてきた。
「そんなことがあったんだ…。エリオスは恵まれてたんだね。」
「そう。だから…」
僕の状況は特殊なだけ。だからキアラルには諦めてほしい…。
そう思ってアドバイスをしようとしたが、キアラルは決意を固めた表情で言った。
「でも私は強くなって、家族を守りたい。もう魔物におびえる生活はしたくない。」
キアラルのまっすぐな目に、僕は心を奪われた。
キアラルの固い決意に、僕は何も言えなかった。彼女のまっすぐな想いは、自然と過去の自分と重ねたからだ。まだ現実を知らない、純粋に魔剣士を目指す自分に。
そういえば昔、エレナは剣術が乏しく、魔力も微小しかない僕を応援してくれた。なんなら一緒に魔剣学院に来てくれた。
なぜそこまでして応援してくれるのかは分からないが、自分より劣っている人を純粋に応援できる人はそうそういないだろう。
なのに僕は、キアラルの今の現状だけを見て無理だと断ってしまった。キアラルの実力は前の自分と似てるというのに。
エリオスは深く息を吸い込んだ後、まっすぐ彼女の方を向いた。
「キアラル、魔剣学院は実力がない人は厳しいところ。それでも行きたいなら僕は協力するよ。」
キアラルの目は驚きと喜びに満ちた。
「ほんと!?エリオスが協力してくれるの!?」
「あぁ、僕の実力で魔剣学院に入れるかわからないけど。」
「やった!!じゃあ今のうちに準備してくる!」
「待って!今すぐ行くわけじゃ…。」
「待ってられない!明日行くんでしょ!」
キアラルは嬉しそうに飛び跳ねながら祭りのほうへ走っていった。
僕、明日魔剣学院行くって言ったけなぁ…見透かされてんな…。
キアラルの向かった方向をぼんやりと見ながら少し呆然とした。
キアラルの夢に対しての情熱、純粋な決意に心が揺らいだ。
キアラルを強くできるかわからないが、きっと彼女は折れない。彼女ならきっと何かを成し遂げられる。そんな気がした。