episode18 英雄
「着いたよ!ここが私の生まれ育った村、"イレイス村"よ!」
山から降りて20分程度のところに小さくのどかな村に着いた。
…その間、キアラルが突然の告白をされて何も言えなかった。
今のキアラルは美人だけど、さっきまで子供扱いしてたし、いきなり好きと言われても、混乱するばかりで整理できなかった。
でもキアラルは大人の余裕なのか、何事もなかったかのように笑ってくれた。嬉しいような申し訳ないような気がしたまま村に到着した。
イレイス村に入った瞬間、キアラルは何か叫びながら走っていった。
「レザイルじいさん!」
「うぇ!?誰だ!?」
その老人はキアラルを見て相当驚いていた。急に知らない女性から自分の名前呼ばれたら怖いだろうな。
「私だよ!キアラル!キアラル・イアンサ!」
「はぁ!?キアラル!?」
キアラルをずっと見ているが、老人の目からは到底信じられないという顔をしていた。
「だってキアラルは今頃、山神様の生贄になってるはずだ!」
「山神様はもういない!この方が倒してくれたんだよ!」
と、キアラルはいきなり僕のことを手招きした。
「あぁ、どうも。」
少し気恥ずかしいと思いつつも顔を下げながら老人の元へ行った。
すると、その老人は僕の肩を掴んで揺さぶってきた。
「あんた…本当に山神様を倒してくれたんですか!?」
「あぁ、はい…。」
「本当に!?」
「ええ。」
「そ、それじゃあキアラルは呪いが解けて…!」
「そうだよ!私9歳の姿から8年分成長したんだよ!」
老人は全てを知ると、村全体に響くように大声を上げた。
「みんなぁぁぁぁあああ!!山神様がぁぁぁああああ!山神様が討伐されたぞぉぉおぉぉおおおおお!!そしてぇぇぇえて…キアラルが帰ってきたぞおおおおぉぉお!」
老人の声を聞いた村の人たちはぞろぞろとエリオスたちの元へ集まってきた。
「え?山神様が討伐された?」
「キアラル?どこ?」
「誰が山神様を討伐してくれたんだ?」
「何かの間違いじゃないのか?」
「あの少年は誰だ?」
「あの子が倒してくれたんじゃ…?」
「いやいやありえないだろ。」
情報が錯乱していて村全体が混乱に陥っていると、また誰かが叫んだ。
「皆の者!静まれぇぇええ!」
その声は図太く、一瞬で村が沈黙になった。
そして人だかりの中からエリオスたちの元に杖をついて歩いてきた。白い髭が立派なご老人、いや長老というべきだろう。多分村の長なんだろうな。
「レザイル、山神様の討伐、そしてキアラルが帰ってきたというのは本当か?」
「ええ!本当です!キアラルの呪いが解けてるのが証拠です!」
長老は成長したキアラル、そしてエリオスの方を見ると、エリオスに声をかけた。
「其方が山神様を討伐したのか?」
「はい。」
長老は僕の目をまじまじと見つめて呟いた。
「…嘘はついてないようだな。」
そう言った瞬間、人だかりの中からキアラルのことを呼ぶ声がした。
「キラアル!?キアラルが帰ってきたんですって!?」
そこから出てきたのは40代くらいで、キアラルの同じような金髪が特徴的な女性だった。
「お…お…お母さん!!」
キアラルはこの人に走っていき抱きついた。何となく察してはいた。この人がキアラルのお母さんだなと。
「キアラル…無事で良かった…。」
「お母さんこそ…なんで私のこと分かったの…?」
「私の娘だもの。姿が違っても娘だって分かるわ。」
二人の感動の再会に涙ぐんでいると、長老に話しかけられた。
「其方、山神様を倒してくれたこと。そしてキアラルをここまで連れてきてくれたこと。深く感謝する。」
「いえそんな…、僕はやりたいことをやっただけですよ。」
前はひどい村だと思っていたが、生贄の風習をとやかく言う権限なんてない。
長老さんは優しい人だし、きっと本当はいい村なんだろうな。
自分の心の中でそう納得させていると、村の中で歓声が上がった。
「英雄だ~~!!」
「長老が言うなら間違いない!」
「これでもう怯えなくていいんだ!」
「ありがとーー!」
キアラルはお母さんと抱き合いながら、僕に微笑んだ。
その姿を見て、何かのことをだんだんと実感が少しずつ胸に湧き上がってきた。
英雄…か。
前の僕は英雄なんて程遠かったのに、こんなに人に感謝されるなんて思いもしなかった。
…とりあえず今日はこの村に滞在して、明日になったら行ってみようかな。
そう…エレナの約束を守るため。そして魔剣士になるために。