episode16 エリオスvs山神
久々の現実世界での自分の本当の生身はとても痛かった。山神の攻撃をまともにくらったからだ。
とりあえず回復…、今なら普通の回復魔法使えるよな…?
「【回復】…よし。」
"回復"を使ったことで骨折や出血が一気に止まった。
前は魔力が足りず、"小回復"しか使えなかったが、神の加護で増えた魔力なら余裕で使えた。
キアラルは泣きながら僕の腰にしがみついていた。
もうあまりキアラルをここにいさせるわけにはいかなそうだ。
「キアラルはここから出て、あとは僕に任せて。山神は必ず倒すから。」
「……うん、分かった。」
いつもみたいに断られるかと思ったが、深く考えたあと了承してくれた。
キアラルは洞窟の出口へ走っていった。
「"我の腕を斬るものは初めてだ…名はなんという。"」
「…エリオスだ。」
「"エリオスか…覚えといてやろう。これから先我に立ち向かってくる愚か者に向けて名を教えてやろう。"」
何を言っているんだ?まさか山神は僕を殺して、これからも生きるって言ってるのか?
「いいや、死ぬのはお前だ。冥土に僕の名前を土産にやっただけだ。」
「"人間は愚かだな、この我の巨体を倒そうなんぞ、不可能だというのに。"」
そういうと山神は洞窟の岩壁から岩を壊して手に取り、エリオスに向けて投げてきた。
「【心眼】」
心眼を唱えると、岩の落ちてくる場所が分かるようになり、避ける場所が把握できた
エリオスは落ちてくる岩を見極めて華麗に避けていった。
「"人間如きが…!"」
山神は焦りが出てるのかさらに岩を投げてきた。
しかし少し落石が多くなったくらいで、余裕で躱せた。
…こんなに弱かったか‥?
影との戦いに慣れすぎて、あの頃苦戦した山神は弱く感じた。
正直影と戦う方がよっぽど苦戦した。山神が全く怖くない。ただデカいというだけだ。
「"なぜ…なぜ人間が我と対抗できるぁぁ…!"」
山神は怒りを込めてもう片方の腕でエリオスに殴りかかってきた。エリオスは山神の巨腕が迫ってくるのを冷静に見極めた。
「【瞬閃】」
エリオスはまた新たな魔術を唱えた瞬間、山神の拳がエリオスのいる地に直撃した。
「"所詮は人間だな…"」
焦りを取り戻したようで、エリオスの死に様を拝もうとこぶしを上げたが、そこにエリオスはいなかった。あの攻撃を避けられたのに驚いていた。
次の瞬間、山神の肩から声がした。
「…そんなに驚く事か?」
エリオスは冷ややかな声で言い放った。
彼の中にあった恐怖も焦りも恐れもなかった。
「"貴様…!いつの間に…!"」
エリオスが唱えた魔術、瞬閃は、目的の場所に一瞬でワープできる技だ。エリオスは山神の肩に向けて言い放ったのだ。
怒り狂う山神が再び技を繰り出そうとするが、エリオスは一歩も譲らない。むしろ逆に攻め込むつもりだ。
「【落撃】!」
剣を下へ思いきり叩きつけると、穴ができるほど深く穿いた。
相当な痛みなのだろう、山神はその場で膝をつきもがき苦しんだ。その姿を僕は肩から降りて見ていた。
「"ぐおぉぉおおお! 人間に…負けるものがァァがああ!"」
肩を抑えながら地面にいるエリオスを、自分自身で転がって潰そうとした。この巨体ならどんな技でも斬れないと思ったのだろう。
人語を話す魔物だから理性あるなとは思ったけど、所詮は脳筋だったか…
右手を空に掲げて魔力を溜めた後言い放った。
「【流星一閃】」
右手を下ろした瞬間、煌めく魔術で出来た刃が山神に無数に襲いかかった。山神の体は鋭い音と共に岩の破片が飛び散っている。
「"ぐ、ぐおおおぉぉお…なぜこんな強い…!"」
苦しみながらも山神は声に出してエリオスに尋ねた。
エリオスは言うべきか少し悩んだが、もうすぐ死ぬ相手なら構わないと思い伝えた。
「教えてやる、僕は魔術の神、カーレリア様の賢者だ。」
「"な…!お前…!カーレリア様の力を持っていたのか!"」
「カーレリア様を知っているのか?」
「"当然だ、カーレリア様は世界四神の内の一人。魔物である我も存じているお方だ。"」
学院の講義で何度も学んだ。
世界は4人の神を中心に構築されていると、それを魔物も知ってるとは意外だった。
…あとこいつ、自分で魔物だと言ったな…山神山神誇ってたくせに…。
じゃあもう、これ以上話しても時間の無駄だし、片付けるか。
「そろそろ終わらせようか、山神。」
「"ふっ…倒される相手がカーレリア様の賢者なら納得だな…"」
山神は体を起こし、エリオスに向けて構えた。
何となくこれが最後の戦いだと察した。
「"来い!カーレリアの賢者!"」
「あぁ!お前を斬る!」
エリオスは静かに剣を構え、山神もまた最後の力を振り絞り巨体を支えた。洞窟の中でしばらく沈黙が続いた。
カランッ…
どこかで石が落ちた音がした瞬間、洞窟内が轟音で響くほど、山神がエリオスに向かって走り出した。
一方でエリオスは深く深呼吸をした後、山神に向かって足を蹴りだした。
「"くらえぇぇぇ!"」
山神は巨体を生かしてボールのように転がってきた。
あれなら多少の攻撃も無視して突っ込んでくる。中途半端な攻撃じゃ確実に死ぬな。
ならまたあの技を使うか。魔力切れにならないように調節して…!
「スゥ…【攻撃力上昇】!【光神天撃】!」
洞窟内が光に包まれながら、山神の回転を止めるほどの威力が刺さり、巨体にヒビが入った。
「"な…!我の体が…!"」
「うおりゃああぁぁぁ!!!」
剣を振り切ると、山神の巨体は真っ二つになっていて、山神はそのまま倒れこんだ。
山神の体は洞窟と同化するかのように普通の岩に変わっていった。
「もう終わりだ。山神。」
山神の表情はとても悔しそうにしていたが、すぐに微笑んだ。
「"エリオス…非常に納得いく死に方だった…。"」
「あぁ、お前のおかげで強くなれた。」
山神がいなかったら一度死にかけることはなかったし、強くなれなかった。そこは感謝するべきだろう。
「"ふ…これからおぬしがどれだけ強くなるか期待しよう。"」
「あぁ、期待してろ。」
「"生意気なガキだ…じゃあな、カーレリアの賢者…"」
そういうと、山神は生命力を持たないただの岩へと同化して消えていった。
「終わった…。」
その場で深く深呼吸した。余裕があってもさすがに疲れは溜まっていた。
そして元々山神だった岩に近づいて触れると、ほんのり温かい気がした。
「…またな。」
軽く別れの言葉を告げた後、その場を後にして立ち去った。