episode11 山神様
episode11 山神様
足場が悪く、ゴツゴツした岩肌ばかりで、
かすかに湿った土の匂いが漂っていた。
しかし、先に進むとさっきの風景とは一変して、人工的に整備された足場に変わった。その先に禍々しい石の祭壇が置かれていた。
「これが…祭壇?」
「私も初めて見たわ…」
キアラルは祭壇に近づき軽く触れた瞬間、洞窟に重々しい音が鳴り響いた。まるで…いや間違いなく何者かが大きな図体を引きずって近づいてきてる。
「くる…!」
僕は剣を構えた。焦る気持ちを抑えようと必死で意識が保つのが精一杯だ。
洞窟の奥からゆっくりと姿を現した。
洞窟の岩肌と同じくらい肌に覆われていて、僕の4,5倍ほどデカかった。
まさに山神様と言われるほどの恐ろしさを兼ね備えている魔物だ。
「"人間…生贄を連れてなぜ我に刃物を向ける…"」
洞窟中に重苦しい低音が鳴り響く。
山神様の声か…!理性を持っている魔物は初めて見た…。
キアラルは僕の背中に引っ付いて怯えている。僕が守らなければ…!キアラルを殺そうとして?魔物だから…!
「キアラルちゃんを守りにきた。そしてお前を討伐する!」
山神様に対して叫んだ。これは根っからの本音だ。もちろん山神様に対して恐怖は感じているが、怒りも感じている。
キアラルほどの少女に、これほどの恐怖と覚悟をさせるお前が憎いから…!
「"生贄は村の平和のため。村の者は数百年それを受け入れているのだ"」
村の平和…?どういうことだ?
キアラルに聞こうとすると、キアラルが山神様に対して声を荒げた。
「嘘よ!山神様は最初に村に魔物が入ってこれないよう結界を貼ってるって。でも私が村にいた頃よく魔物が入ってきて何人も犠牲になった!」
キアラルの言葉にしばらく洞窟内が静寂に包まれた。
すると、洞窟内にまた重苦しい声で響く。
「"結界はすでにない。生贄は勝手に村の者が寄越してくれるのだ"」
「は…?」
山神様の勝手な発言に、恐怖が消えた。その代わりに自分の中で燃えるほどの怒りを感じた。
「ふざけるな!!何人も犠牲にさせておいて村を脅かすだけの魔物が、勝手に都合良く解釈するな!!」
心の奥底からの怒りを山神様にぶつける。
すると山神様は静かに巨体を揺らして僕たちを見下ろした。
「"ならば我を討ってみるとよい。だがお前らが負けた暁には、あの村は我の怒りを売った罰として魔物を送りつけよう。」
山神様の言葉に一瞬揺らいだ。僕のせいで村が滅びるかもしれないということに。
そのまま何も返せずにいると、キアラルは僕の手を握ってくれた。
「大丈夫エリオス、このまま放っておいても村は魔物に怯える日々が続くだけ。だから村のことは気にしないで。」
キアラルは微笑んで僕に勇気づけてくれた。
「キアラルちゃん…。」
励まされた僕はもう一度山神様に剣を構えた。
「山神様…いや、山神!お前を討つ!」
「"ふん…愚か者が…その言葉後悔させてやろう"」
そう言うと、山神の巨大な手がゆっくりと動き始めた。
手はまるで岩そのものみたいで、当たれば即死するだろう。
「キアラルちゃん!離れて!」
「う、うん!」
キアラルは急いで僕の背中から離れていった。
何とかかわさないと…!
しかし、その手は僕の方ではなく、僕の後ろ側へ通り過ぎていった。まさか…!
「キアラル!!」
「え?きゃあ!」
急いでキアラルの前にいくと、すぐ前に山神の手が迫っていた。
もうキアラルを連れて避ける暇がない…!
一か八かやってみるしかない…!
「【攻撃力上昇】!うぉぉおお!」
山神の手に向けて思いきり剣を振り上げた。
パリィィン
僕の手の中で刃が弾ける音がした。
「キアラル!!【防御力上昇】!」
急いでキアラルと僕に防御力上昇をかけてキアラルを抱えて山神に背を向けた。
「ぐわああああぁぁあ!!」
キアラルと共に吹き飛ばされ、地面に叩き落とされた。
防御力上昇のおかげで即死は免れたか…でも痛すぎる…キアラルは…?
「うぅ…エ、エリオス…?」
キアラルは幸いエリオスに守られていたため、大怪我はしていなかった。
「よ、よかった…逃げろ…キアラルちゃん…」
キアラルの隣でエリオスは意識を失った。