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episode10 山神様のすみか

 「しょ…正気!?」

「あぁ、正気だよ。」


キアラルは相当驚いた様子で僕の方を見ていた。


「そ、そんなことしなくていいよ…!私が犠牲になったら済む話だし…」

「それが嫌なんだよ。」

「え…?」


どうしてこの子を助けたいかは分からない。キアラルを助けるより、村を滅ぼした方が僕はスッキリする。


けれどキアラルの命をかけた決意に心を震わされ、キアラルを守りたいと本能が働いた。


しかし村を滅ぼしかねない魔物を相手にするなんて、無謀すぎたか…、自分で言っておいて今更後悔した。


「エリオス…エリオスはその強いの…?」

「…あぁ!強いよ!」


本当はまだまだ弱い。魔物は変異種コボルトと、ゴブリン10体くらいしか倒してない。けれどキアラルの前で弱いなんて言って不安にさせるわけにはいかなかった。


でも僕にはカーレリア様の加護がある。それがあればもしかしたら勝てるかもしれない。そう自分を無理やり納得させることしかできなかった。


 キアラルの片目はまだ疑念や不安が入り混じった様子でこっちを見てきた。


「山神様は50年程度村を支配してるの、過去に倒そうとした人は呆気なく食われたのに、エリオスは勝てると思うの?」


彼女の言葉に一瞬言葉が詰まったが、何とか返事を絞り出した。


「目の前の命を見捨てるなんて、僕には出来ない。だったらキアラルと一緒に命をかけるよ。」


エリオスの言葉にキアラルは少し黙り込んだが、やがて小さく頷いた。


「分かった。エリオスを信じる。でももし死にそうになったら私を置いて逃げて。」

「え…?キアラルちゃんも行くの?」

「そのつもり、どっちにしろここにいるのはもううんざり。だから私も行く。」


あまりにも危険すぎる、ここに残れ。と言おうとしたが、キアラルの真剣な表情に言葉を失った。


「…分かった。でも置いていかないからな。キアラルを守るって決めたから。」

「…うん、ありがとう。エリオス」


キアラルはほんのわずかに微笑んで、僕の言葉を受け入れてくれた。


 「それじゃあ、山神様はどこにいるか教えてくれる?」

「うん…山神様はこの森を抜けて山の麓の洞窟で祀ってるの。」

「分かった、じゃあ案内してくれる?」

「ええ、離れないでね?」


もちろんと頷くと、キアラルはショートソードを鞘に戻して立ち上がった。


 黒の神殿を出ると、さっきの事情を知ったせいか空気が重々しく感じた。


「どっちいけばいい?」 

そう聞くとキアラルは指を指した。

「あっちの方、もうすぐ儀式が始まるから急がないと」


僕はその方向を見つめた。木々のさらに先に薄暗い山が見えた。


「よし行こう、全てを終わらせよう。」


剣の柄を握りしめて、キアラルと共に一歩踏み出した。


山神様の対決がすぐそこに迫っていた。


 しばらく歩いていると、草むらの中に何か蠢いているのが見えた。


「ひ…何かいる…!」

「僕のそばから離れないで。」


剣を構えてその草むらに集中した。…くる!


「グゥゥゥオオオオ!」


いきなり僕に何かが噛みつこうとしてきて、慌てて剣で口元を切り捨てた。


銀色の毛に覆われていて、赤色の瞳をした獣…グレイウルフか!


口元を斬られたグレイウルフは一瞬で傷が塞がり、よだれを垂らしながら威嚇している。


「エリオス…!」

キアラルは心配そうに僕の方を見てきた。


「大丈夫、勝てるよ。」


冷静を装ってキアラルに微笑んだが、実際は怖くて仕方がない。でもキアラルに不安にさせたくないし、ここで強いってところ見せないと…!


 グレイウルフはまた同じように噛みつこうと飛びついてきた。


剣を持つ手に魔力を込めて剣を輝かせ、勢いよく振り上げた。


「うぉおおぉ!!」


勢いよく振り上げた剣は、グレイウルフの胴体に刺さり、そのまま真っ二つにした。


グレイウルフはそのまま苦しげな声を漏らすことなくそのまま倒れ込んだ。


「ふぅ…何とかなったか…。」


自身が確実に強くなっているのを感じ、山神様の討伐にほんの少し自信がついた。


「エリオス…すごい…!」

「ま、まぁな。とにかく先に進もうか。」

「うん!」


エリオスの強さを知ったキアラルは、ほのかに微笑んでくれた。きっと信頼してくれてるのだろう。


 しばらく先に進んでいると、キアラルがとある方向を指差した。


そこには巨大な岩がそびえ、その根元には暗く広がる洞窟の入口が見えた。冷たい風が洞窟から吹き出し、二人を迎えるようにうねる。


「ここが…山神様の…」

「そう、入った人は二度と戻れないって言われるわ。」

「二度と…」


その言葉に一瞬お辞儀ついたが、今さら戻れない。

ここで逃げたらキアラルが生贄として死ぬだけだ。守らなければ。


「行くよ、キアラルはここに…」

「私も行く。」

「…だよな、離れないで。」


僕とキアラルは息を合わせて、一緒に洞窟の中へ一歩踏み出した。

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