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第8話 堅実セシル


 うっわ。

 見るんじゃなかった。


「堅実すぎてつまらんて……」


 げっそりとつぶやく。


 俺たちのチャンネルのことだ。

 蛇魔人みたいな強敵を倒したんだから、さぞ視聴者からの反応も良いだろうとおもって確認してみれば、火狐を倒したときにぐんと伸びたチャンネル登録者数は、むしろ減ってるありさま。


 コメントは、戦闘がつまらないってのが多い。


「ああー、やっぱりこうなったね」

「やっぱり?」


 横からひょいっと画面をのぞき込んだアビーに、俺はオウム返しした。

 やっぱりとはどういうことだろう?


「あたしの配信も、最初はけっこうチャンネル登録多かったんだよね」


 ふうとため息。

 戦闘を重ねるほど、勝てば勝つほど人気はなくなっていったという。


 理由は今と同じ。

 堅実に勝つのがつまらないということらしい。


「そんなばかな」

「結局、魔法は強すぎるってことなんだと思う」


 よほどのことがない限りぎりぎりの戦いにはならないし、そもそもそういう戦いにしないために魔法を使うのである。


「視聴者好みには戦えないから」

「そりゃそうだ」


 こちとら命がけでダンジョンに潜ってるんだ。

 リスクってのは排除するものであって、わざわざ背負うものじゃない。

 それをつまらないといわれてしまったら、ちょっと立つ瀬がなさすぎる。


「ま、好みに合わせて戦いを面白くするわけにはいかないさ。こういう声は無視だな」


 肩をすくめ、俺はスマホを収納に戻した。

 命がかかっていないならね。多少のエンタメ性を盛り込むのは手だと思うけど、なにしろここは負けたら死んで食べられちゃうような場所だから。


「アバターを全裸にするとか」

「それ需要あるかー? 中身がオッサン疑惑がますます深まるだけの気がするぞー?」


 美少女が全裸で冒険。

 そんなシチュエーションを喜ぶやつは、いるのかもしれないがかなりの少数派だと思う。

 まして、視聴者に見えてるのはあくまでもアバターだし。


「でも、なにかか考えないと、このチャンネルもあたしのチャンネルと同じになっちゃうよ」


 たしかになー。

 それもまた可能性としては充分にあるんだよなー






 そしてそんなつまらない戦いを繰り広げながら十五階層まで降りたとき、俺たちふたりの戦利品は一千万円分を超えた。

 具体的には魔石が三つと、細々としたアイテム類である。


「アビーが配信じゃなくて討伐がメインになって理由がわかる気がする」

「でしょー?」


 チームとしての貯蓄を除いておいて、二人で等分して四百万ずつって感じかな。

 配信でこの額を稼ごうと思ったら、どんくらいの再生数が必要なんだか。


 視聴者の機嫌なんかとるより、ガンガン敵を倒してアイテムをゲットしたほうがよほど儲かるよね。

 もっとも、それをするには実力ってもんが必要になるけど。


 魔石を落とすレベルのモンスターってのは、オーガーなんかより強い。こないだ俺の同期四人組が全滅寸前だった火狐くらいの強さを想定してもらえれば、ひとつの目安になるだろう。


 俺一人だったら絶対に勝てない。

 アビーだけでも難しい。


 戦士と魔法使いっていう理想的なコンビだからこその戦果だ。


 まあ、回復術士(ヒーラー)斥候(スカウト)がいればもっと良いんだけど、欲を出したらきりがない。


「まだまだ余力あるけど、このあとどうする? セシル」

「予定通り十五階層をうろうろして、下への階段を発見したら戻ろう」

「堅実ぅ。だからつまんないっていわれるのよ」

「わるうござんした」


 べーっと舌を出してやる。

 もちろんカメラボールに写るように。

 十八歳の若者がやるには幼すぎる仕草だけど、視聴者に見えてるのは赤い髪の美少女だからね。


 懐は充分に温かくなったし、ここまでの地図作り(マッピング)もバッチリだ。ここで無理をして死んでしまったら何にもならない。


「大昔のロールプレイングゲームの標語で、こんなのがあったそうだ。「まだいけるは、もう危ない」ってね」

「国民的人気だったやつでしょ。お父さんがやってたって言ってた」


 アビーが頷く。

 撤退するなら余力のあるうちにってくらいの意味だ。

 ゲームが元ネタなんだけど、俺たち探索者にとっても心に留め置くべき言葉なんだよね。


「とはいえ、本音を語ればとっとと魔石を現金化して銀行に入れてしまいたいって部分もある」


 一人あたま四百万だよ?

 不用心に持って歩いて良い金額じゃないって。

 そんだけあればかなり良い武器だって買える。いっそ親に温泉旅行くらいプレゼントしたって良い。


「まあたしかに、小さいお金ではないけどね」


 苦笑するアビーである。

 ちなみにこの人、最大で十個も魔石を持ち帰ったことがあるらしいです。


 三千万ですよ。

 家建ちますよ。

 魔法使い、やばいですよね。


 まあそのときは六人パーティーだったそうだから、一人一人の取り分としては、いまの俺たちとあまり変わらないだろうけど。


「この後も、ご安全に」

「ご安全に」


 ちょっとふざけた感じで指さし確認したとき、遠くから悲鳴が聞こえた。


「…………」

「…………」


 思わず顔を見合わせる。

 まったく、どこでフラグを立てちゃったんだか。



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