第7話 バトル! バトル!!
小部屋に入らなくてもモンスターに遭遇することはある。
当たり前の話で、ここがモンスターにとっての住処であり職場なのだ。そこに敵対勢力である人間が入り込んできたのだから、そりゃあ叩き殺そうとするだろう。
熱烈歓迎って話にはそうそうならない。
「豚鬼だ! 数は四!」
二十メートルくらい先からドスドスと駆けてくるモンスターどもを認め、俺は声を張り上げた。
ダンジョン内がもうちょっと明るければ、もっと遠くからでもどんなモンスターが判るんだろうけどね。
「後方敵影なしよ。セシル」
すぐにアビーの声が返ってくる。
直線路で、現在のところ挟み撃ちされる心配はない。
「よし。迎え撃つぞ」
「了解。意思もちて踊れ地竜のアギト! 切り裂け! 地竜牙!」
詠唱とともに、ぴっとタクトで床を指す。
すると床から二十センチくらいの刃が五本生え、高速でオークどもに襲いかかった。
ぎゃっと悲鳴をあげて倒れる。
ダメージ自体は大きくないだろうけど、足をざっくり切られてしまっては立っていられない。
なかなかえげつない魔法である。
「意思もちて踊れ風竜のアギト! 剣に宿れ! 風竜牙!」
次の魔法で、俺のブロードソードが光を帯びた。
魔力を付与することによって、切れ味と耐久力を大幅にアップしたのである。
「さんきゅ!」
礼と同時に走り出す。
相対距離は十メートル強。一気に詰めるのだ。
でないとオークどもが自然回復してしまうから。
踏み込みから一閃で一匹の首をはね、返す刀でもう一匹を袈裟懸けにする。
噴き出した血は途中から砂に変わった。
あと二匹!
最低限の動きで胸に長剣を突き込む。
致命傷だがなんとオークは両手で剣を握った。
剣を引く俺との間に一瞬の均衡。
しかしすぐに砂に変わっていく。
「ちっ」
俺は舌打ちとともに右に跳ぶ。
半秒前まで俺がいた場所を、赤さびだらけの斧が上から下へと通過した。
回復しやがったか。
ざっくり切り裂かれた足が十秒もしないうちに治ってるんだから、とことんまで常識の通じないやつらだよ。モンスターってのは。
けど、俺にだけ注意を向けていていいのかな?
避けた俺を追いかけようとしたオークは、音もなく飛来したいくつもの魔力弾に貫かれて絶命した。
きょとんとした表情のまま。
まあ、なにが起きたか判ってないだろうね。
種を明かせば、注意がそれた瞬間を狙ってアビーが無詠唱で撃てるマジックミサイルをはなっただけ。
牽制程度の威力しかない魔法だけど、何発も当たればオークだって殺せる。
「ナイスアシスト。助かったぜ」
「セシルも、グッドキル」
ぱぁんとハイタッチを交わす。
もちろんしっかりとカメラに写るようにね。
十階層のボスはスルーできた。
たまたま、ものすごい強者そうな人がすいーっと突破していったので、その後ろについて行くかたちで通過することができたのである。
さもしいというなかれ。
しなくて良い戦闘はしないってのが鉄則なんです。
もちろん、その強者っぽい人がピンチになったら助けに駆けつけるけどね。
そういう状況でもない限り、獲物の横取りはマナー違反でもあるんだ。
「横取りされて怒れるくらいの強者に、はやくなりたいよね」
「そいつは言わねえって話だぜ。アビゲイルさんよ」
経歴三ヶ月と、経歴一年三ヶ月のコンビである。
世間様からみれば、まだまだペーペーだ。
前回、火狐を倒せたのだって不意を突けたってのが大きい。あのクラスと戦ったら、勝算は良くて三分だろう。
せめてあいつに余裕で勝てるようにならないと、ダンジョン下層に挑むなんて夢のまた夢だ。
「ゆーて、弱い敵ばっかり戦ってても成長はないんだけどね」
それもまた、厳しい現実ってやつである。
ダンジョンに現れるモンスターで最弱クラスといえば、小鬼とか犬頭小鬼だ。
単体だったら素人さんでも勝てる程度の強さである。
じゃあそいつらばっかり相手にしていて強くなれるかって話だ。
このあたりはスポーツや格闘技と同じで、自分と同じかより強い相手と戦わないと、何の経験にもならない。
実戦感覚って意味でね。
基礎トレーニングはまた別の話。
「まあ、十二階層から十五階層までのモンスターに鍛えてもらおうじゃないの」
「ついでに戦利品もゲットしよう」
そういってアビーが指さすのは扉。
俺は軽く頷き、ばんと扉を蹴り開けた。
そしてすぐに飛び退く。
「意思もちて踊れ火竜のアギト! 荒れ狂え! 炎竜牙!」
俺の右側三センチのところを通過した光弾が、炎の舌を四方八方に伸ばしながらが小部屋の中を暴れ回る。
炎の中に崩れていくモンスターの影。
ちゃんと見えるわけじゃないけど、大きさと形から想像して蛇魔人かな?
普通に接近戦をやったら、かなり厳しい相手だ。
でも、アビーの魔法の前にはなすすべもないって感じ。
「あと三秒!」
魔法の効果が切れるまでの時間だ。
「了解!」
相棒の声に応じて、口の中でカウントダウンする。
三、二、一!
「GO!」
かけ声とともに俺は部屋の中に躍り込み、苦悶する蛇頭の魔人を一刀で斬り伏せた。
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