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第6話 再アタック


 俺とアビーが初登場した動画は、もう五十万再生を超えているという。

 でも、一円の収入にならない。


「俺たちが配信した動画じゃないから!」


 もうね。

 がっかりですよ。


 いろんな設定をまだ作り込んでなかったんで、俺とアビーのカメラボールは撮影してなかったんだよね。

 だからあの映像は、あくまで四人組のものなんだ。


 あ、もう三人組か。

 リーダーは死んじゃったからね。


「三人とも冒険者を辞めるっていうし、これからお金も必要だろうし、仕方ないんじゃないかな」


 優奈(ゆうな)が微笑する。

 アビゲイルの中の人ね。


 あの後、ダンジョンを脱出した俺たちは、改めて本名を名乗りあった。

 俺が井原(いはら)北斗(ほくと)という名前であることを知られたし、彼女が秋田(あきた)優奈という名前であることも知った。


 あと、互いの連絡先も交換した。


「そうかぁ。やめちゃうのかぁ」

「もともとリーダーだった人に引っ張られて探索者になったみたいだしね」

「こうして俺の同期が、また減ってしまったわけだ」


 俺たちが助けた三人の話である。 

 あれから三日ほど。こうして俺と優奈は毎日待ち合わせをしては、食事だのお茶だのをともにしていた。


 デートじゃないよ?

 バディになるわけだから、連携力を高めるために互いの癖とかを把握しておいた方が良い。

 それには一緒にメシを食うのが一番って話さ。


 他にも戦闘スタイルの確認や、チームとしての方針決めなど、やるべきことは多いんだよね。


 毎日レストランにカフェってのもそこそこの出費だけど、まさか家に呼ぶわけにも行くわけにもいかないから、こればっかりは仕方がない。


「カメラボールの契約は北斗のだけで良いよね。どうせあたしのチャンネルなんかほとんど視聴者いないし、潰しちゃおう」

「あっさりしてるなぁ」

「アバターも変わったから良い機会でしょ」


 筋肉ムキムキのアゴの長いオッサンから、青い髪と瞳をもった美少女に。

 ちょっと幼く見える感じのやつで、俺的には優奈本体のずっと魅力的だと思う。

 こんなこっ恥ずかしいこと、口に出せないけどね。


 ただ、俺のアバターである風のセシルとは赤と青で良い対比になってる。


「面白いのは、オッサンアバター使ってたときより今の方が、中身はオッサンだろうって言われることよね」


 すごくSNS映えしそうなクリームソーダを飲み、優奈が微妙な顔をする。

 味の感想か事象の感想か判らない。

 まあたぶん両方だろう。


 俺が食ってるパンケーキだって、見た目はすげーシャレオツだけど味は普通だもん。


 御苑ちかくのオープンカフェ。

 おしゃれピープルどもがたっくさんうろついてるエリアだ。


「美少女の中身が美女だなんて、そんなうまい話が信じられるほど、日本の景気は良くないってことだろうよ」


 適当に社会情勢と絡めたことをいっておく。

 ただ褒めるだけってのは照れくさいからね。


「素直に褒めたら、ここの会計くらい持ってあげたのに」

「ぬかったぜ」

「まだまだだね。風のセシル」


 くだらないやりとりをしながら、俺たちは席を立った。





 ダンジョン実況をやるなら、じつは夜の方が良い。


 理由は簡単で視聴者が多いからだ。

 平日の日中なんかだと仕事や学校があるからね。リアルタイムで見てくれる人はどうしても少なくなってしまうんだ。


 もちろん録画配信もしてるけど、ダンジョンから配信の場合は圧倒的に実況が人気なのである。

 緊迫感が違うからね。


「今日は十五階層を目指そうと思う」


 ふよふよと浮かんでるカメラボールに向かって俺はきりっとした表情で言った。

 その横で、アビーがこくりと頷く。


 視聴者には、美少女二人がやや緊張した面持ちを浮かべている姿が見えているはずだ。

 ちょっと久しぶりの実況スタートである。


「道順は頭に入ってる?」

「もちろん」


 アビーの確認に頷く。

 前回滑り落ちてしまった十一階層から出口までのルートはきっちり憶えている。それを逆にたどれば、そこまではたどり着けるって寸法だ。

 しかも途中で十二階層への階段も発見してるしね。


「それなら、ちゃっちゃと進みましょ」

「OK」


 歩き出す。

 俺が前で、アビーはややさがった位置だ。

 学校からの帰り道じゃないんだから、横に並んでおしゃべりしながらってわけにはいかない。


 愛用のブロードソードをいつでも抜けるように左手を添え、アビーは右手に指揮棒(タクト)のような細い棒を持ち、常に全方位を警戒しながら。


「小部屋はどうする?」

「十階層までは無視でいいさ」


「メタボだね。セシル」

「太っ腹とメタボリックシンドロームを同じ意味で使うのは、すごく間違ってると思うんだよ。アビー」


 小部屋に入ると宝箱が生成されている可能性がある。

 その中には戦利品(トレジャー)って呼ばれてる金銀財宝や謎テクノロジーの産物が入っていて、地上に持ち帰るとすごく良いお金になるんだ。


 ただ、宝箱が生まれた部屋には、それなりに強いモンスターも生まれる。

 つまり戦利品がほしければ戦って勝利しろって話。


 ところが!

 浅い階層に現れる宝箱の中身なんてたかが知れてるんだよね。

 リスクとリターンがまったく釣り合わないの。


 十体の骸骨戦士(スケルトンウォーリア)をなんとか倒して、喜び勇んで開けた宝箱の中身が一万円くらいの価値の銀貨が一枚だけ、なーんて話も珍しくないんだ。


 こんなんで食っていいけるわけがない。

 だからこそ配信しようって話になったのかもしれないけどね。

  



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― 新着の感想 ―
[良い点] 毎度テーブルトークRPGっぽいノリが楽しいです [一言] アビゲイルの元アバターはアルド·ノーバをイメージしてます?
2023/06/21 07:23 フィズバン
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