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第5話 助ける


 そもそも、下から上に攻め込むってのが不利すぎるのだ。

 階段は二人並んで戦うには狭すぎるし、視線が通らないとアビーの魔法支援も難しい。


 ということは、ですよ。

 俺が先行して十階層にあがり、ボスの攻撃を引きつけるって作戦になる。


 アビーが階段をのぼって、ボスを視認し、どんな魔法を使うのが最適か考え、詠唱して発動するまで、俺一人でボスと戦い続けるってことだ。

 うん。無理。


 十一階層にいても魔力が伝わってくるような相手だぞ。

 時間稼ぎどころか、秒で殺されちゃうよ。


「もうひとつのプランとしては、ボスが倒されるまで待つって感じかしらね」


 むーんと右の人差し指を唇にあてるアビー。

 ひとつ年上なんだけど、とっても可愛らしい仕草だ。


 ともあれ、待ちの一手ってのも、ありっちゃありなんだよな。

 ダンジョンに潜ってるのは当然のように俺たちだけじゃない。上層で戦ってる連中もいる。

 これからボスに挑もうって連中だっているはずだ。


 で、そいつらがボスを倒して、次にポップする(沸く)までの三十分の間に通過してしまう。


 漁夫の利ってほどのもんじゃない。

 通過するだけで倒してないから、ボスのドロップ品だって拾えないしね。

 でも、命あっての物種っていうし。


「階段下まで移動して、ちょっと様子をうかがおう」

「そうね。一、二時間待って探索者がこないようなら、また違う手を考えましょ」


 二人で突撃ってのは、さすがに究極の悪手だ。

 できればそれは避けたいところである。


 するすると移動して扉を開く。

 やはり上に登る階段があった。


「したら、ちょっと休憩しますかね」


 俺は背負い袋をはずし、でかいため息とともに腰をおろした。

 いやあ、安全地帯って本当に良いものですね。


「セシルおっさんくさすぎ」


 くすくすとアビーが笑った。


 ちょっと裏技っぽい話だけど、上り階段のある部屋にはモンスターは沸かない。

 なのでフロアボスを倒したら、とっとと階段を降りてしまうのが吉なんだ。


 ドロップ品の他に戦利品(トレジャー)がないかなー、なんてのんびり部屋を漁っていたら三十分が経過して、またボスが出現してしまった。

 なーんていう笑えない笑い話もあるくらいだよ。


「どれどれ、十層を探索してる連中はいるかな」


 俺はスマホを確認する。

 まあ、配信をやってない探索者もたくさんいるから、全員のことが判るわけじゃないけどね。


「そして自分が配信し忘れていたことに気づくというね」


 げっそりと呟いた。

 アビーと自己紹介しあうときに切ったきりだったよ。

 俺のチャンネルの数少ない登録者たちが、コメント欄で心配してくれている。いや、面白がっている。


 オーガーに食われたんじゃね? とか。

 助けたオッサンに食われたんじゃね? 性的に。とか。


 視聴者なんて勝手なもんだよなー。

 つーかアバターは女の子だけど、俺は男だって。

 まあプロフィールには男とも女とも書いてないけどねー。


 微妙な顔をしていると、相棒が親指を立ててみせた。


「大丈夫。あたしも配信再開してないから」

「なにがどう大丈夫なのかさっぱりだよ」


 アビーはべつに配信が主な収入源じゃないから良いだろうけど、俺はけっこう死活問題なんだよ。


「あー、でもこの機会にチャンネルを作り直しても良いかもな。コンビのものに」

「そしたら、あたしも美少女アバターにして、バディものな感じにする?」

「いいね。面白そうだ」


 女の子同士のコンビはアニメなんかでも好評だしね。






 雑談をしたりアビーの新しいアバターを作ったりして時間を潰していると、上層で動きがあった。


「お。ボスに挑戦するやつがいるっぽい」

「四人パーティーね」


 ちょっとだけうらやましそうなアビー。

 気持ちは判る。

 ソロ(ぼっち)でしたからな。お互い。


 剣を構えた戦士っぽいのが四人。わりとよくある編成だ。

 魔法使いや回復術士がいないのは仕方がないよね。このへんはとにかく稀少だから。

 そして稀少さゆえに気難しい人も多いから。


 だから、俺が魔法使いで気立ても良いアビーとコンビを組めたのは奇跡みたいな確率なんだ。


 四人がボス部屋の扉を開く。


 カメラに映し出されるのはけっこう広いホールだ。

 いろんな実況配信でおなじみになっている十階のボス部屋である。


 中央部に待ち構えているのは体長二メートルほどの獣だけど、もちろん普通の動物じゃない。


 紅蓮の炎を身にまとった巨大な狐。

 火狐(かこ)である。


「まじかよ……」


 知らず、俺は乾いたつぶやきを漏らしていた。


 魔法生物だから普通の攻撃は通りにくいうえに、攻撃するたびに炎がこっちにも降りかかってくるという、かなり厄介なモンスターである。

 

 こんなのが十階層のボスで現れるなんてきいたことないぞ

 もっとずっと下層に現れる上位モンスターじゃないか。 

 そりゃあ十一階層からでも魔力が探知できるわけだよ。


「やばいんじゃねえのか……」


 魔法生物と戦うための装備でしっかり身を固めている戦士だっているが、どうみても彼らはそうじゃない。

 俺と同じ、そこらへんにいくらでもいる軽戦士(ライトファイター)だ。


「まず勝てないでしょうね。うまいこと撤退できればいいけど、そうじゃなかったらボス部屋の戦利品の一部になっちゃうわ」


 悲しそうにアビーが言う。

 ボス部屋でトレジャーがたくさん拾えるのは、それだけそこで死んだ探索者が多いから。


「ねえ、セシル。提案があるんだけど」

「あいつらを助けないか、だろ? もちろん乗るぜ」

「さすが相棒」


 みなまで言わせずに胸を叩く俺に、にこっと笑う魔法使いだった。


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