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第2話 魔法使い


 走りながらブロードソードを抜き放つ。

 大声を出したことでオーガーが俺に気づき、残虐そうな笑みとともにこっちに向き直った。


 エサが増えたとか思ってんだろうなぁ。


 けど!

 そう簡単にはやられないぞ!


 一挙動で距離を詰め、下段からすくい上げるような斬撃を放つ。

 身長差があるから上からは攻撃できないけど、こういうでかぶつは案外足下がおろそかなんだよな。


 オーガーは受けず、後ろに跳んで距離を取った。


 よし。

 狙い通り。


「逃げろ! はやく!」


 女の方を見ずに叫ぶ。

 ぶっちゃけ、守りながらは戦えない。

 全力で戦っても勝敗は四分六分くらいなんだ。


 どすんと重い足音をたててオーガーが踏み込んでくる。

 振り下ろされる棍棒を俺はサイドステップで回避して、その腕に一撃を与えた。けど、分厚い皮膚と筋肉に阻まれて赤い筋を一本残しただけだった。


 ったく。なんて防御力だよ。


 いまので、せめて武器を落とさせたかったんだけどな。

 怒りの咆哮をあげ、オーガーはぶんと棍棒を横に振った。

 スウェーバックしてかわすけど、風圧で前髪が二、三本もっていかれる。


 やっべえ。

 食らったら一発で終わっちまう。


「あと十秒稼いで!」


 そのとき後ろから声がかかった。


 つーかまだ逃げてなかったのかよ。

 あと、十秒とか簡単に言ってくれるなよ?

 オーガーを相手に、その時間を稼ぐのはかなり命がけだからな?


「十秒だな!」


 しかし俺は逆らわず、オーガーの注意を引きつける戦い方にシフトする。つまりヒットアンドアウェイで、相手を苛つかせるという戦法だ。


 長くは保たない。

 きっちり狙い撃ちされたらアウトだから。


 ただ、オーガーってのは力は強いけど頭の良いモンスターじゃないから、短時間ならかき回せるって計算だ。

 紙一重で攻撃をかわしつつ、ちくちくと嫌がらせのように攻撃する。


 無限とも思える十秒。


「意思もちて踊れ地竜のアギト! 貫け! 地竜牙(アースファング)!!」


 詠唱とともに床から生えた錐のような二本の石筍が、交差するようにオーガーを貫いた。

 魔法である。


「すげ……」


 磔刑にでも処されたような姿のオーガーが血反吐をはいて息絶えるのを見ながら、俺は呟いていた。






 女は魔法使いだった。探索者のなかにはそういう連中もいるって話は聞いていたけど、じっさいに見るのは初めてである。

 俺たちみたいな接近戦系と違って、ものすごく希少な存在だから。


 ダンジョンの外の世界における超能力者に存在とおんなじくらいの希少さかな? この言い方でだいたい理解してもらえると思う。


 ちなみに俺は本物の超能力者なんぞ、十八年の人生で一人も見たことがない。


「助かったよ。ありがとう」

「それはこっちのセリフよ。助けてくれてありがとうね」


 俺が笑いかけると、女も微笑を浮かべた。

 血と泥で薄汚れてはいるけれど、茶色の髪と挑戦的な輝きの黒い瞳がすごく印象に残る。


「あたしはアビゲイル」

「セシルだ」


 どっちも日本人にしか見えないのに、あきらかに英語圏の名前で名乗り合うのは、少しばかり滑稽だ。

 まあ本名ってわけにもいかないんだけどね。


 もしそっちを名乗るとしたら、少なくとも配信されていないときに限られるだろう。


「それでね、セシル。提案があるんだけど」

「手を組まないか、だろ? こっちからお願いしたいところだった」


 皆まで言わせず、俺はにやりと笑った。


 魔法使いってのは接近戦が得意じゃない。これはまあロールプレイングゲームなんかでも常識である。

 魔法を使うには集中力が必要だし、発動するまでのタイムラグもあるからだ。

 だから前衛がしっかり守った方が良い。というより必須だろう。


 一人でダンジョンにいたアビーがおかしい。ただ、他人の事情を根掘り葉掘り詮索しないってのは探索者の不文律だ。

 語りたいことがあるなら、自分から話してくれるさ。


 そして、オーガーが現れる階層での探索は俺にとって荷が重い。仲間がいれば心強いのである。


「ただ、深層に進むってのは無理だぞ」

「判ってる。あたしもそろそろ戻ろうと思っていたところだったのよ」

「なら利害は一致するな」

「地上に出るまでよろしく」


 俺が差し出した右手をアビーが握り返した。


「ちなみに、セシルのFAMを訊いて良い?」

「もちろん。二十七だよ」


 新米にしてはなかなかの数字だと思う。

 戦闘能力値修正(ファイティングアビリティモディフィケーション)。通称で『FAM』って呼ばれてる俺たち探索者の強さの指標だ。


 筋力がいくつー、体力がいくつー、敏捷がいくつー、なんていうゲームみたいな細かい能力値じゃないし、ぶっちゃけ細かくしたって意味がないんだよね。

 筋力五の人と六の人の違いってなにさって話になるからさ。


 なので「何の訓練も積んでいない戦闘経験もない一般的な二十歳の男性の平均的な戦闘力との比較」という、非常にざっくりとした物差しが使われているんだ。


 基準は十。これが二十歳の一般人。

 俺はその二.七倍強いってことだね。

 けっこう強いだろ?


「あたしは六十四」


 そして一瞬で鼻っ柱を折られました。


 魔法使いってそんなに強いんだ……。

 そりゃそうか……。


 魔法が発動しちゃいさえすればオーガーを一発で殺せるんだもんなぁ。



 


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