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甘い甘い思い出を

作者: 朝川はやと

ルキくん。

私の元彼。


男性アイドルみたいな顔立ちで、茶色がかったふわふわな髪の毛の男の子。

ルキくんは私より1つ年上。

でも全くそんな風には感じられず、私が姉、ルキくんが弟、そんな関係性だった。


ルキくんは甘いものが大好きで、休日はよく2人でスイーツを食べに行った。

パンケーキ、クレープ、タルト、わたあめ、タピオカ、フルーツパフェ。

東京で食べられる有名スイーツはほとんど食べたと思う。


私は、甘いものが好きではない。

1人では絶対に食べない。

でも次から次へと、甘いものを食べた。

ルキくんが幸せそうにスイーツを頬張るから。

ルキくんは甘いものを食べると、甘い顔をする。

本当に、言葉のまんま、甘い顔。

ルキくんはとにかくかわいい。

愛されるために生まれてきた、そんな生命体。

生まれた時からスポットライトに照らされている、そんな役回り。


ルキくんは人前でも平気で私に甘えてくる。

手を握ってくる。

髪を撫でてくる。

瞳を見つめて悪戯っぽく笑ってくる。

そんなルキくんを、人前では適当にあしらった。

その分2人きりの部屋では、ミクロの細胞まで蓄積した愛しさを余すことなくルキくんに捧げた。


ルキくん、私と出会ってくれて、ありがとう。

私がルキくんを守っていく。

私がルキくんを幸せにする。

本気でそう思った。


ある日、ルキくんは浮気した。

でも、ルキくんにとっては浮気ではないらしい。

私以上に好きな人ができた。

ただそれだけ。

私たちは別れた。




光一くん。私が今付き合っている人。


光一くんはまっすぐな人。

いつも紳士で、眼鏡が理知的。

私より1つ年下。

だけど大人びていて、それでいて年上の私を尊重してくれる。


ある休日、光一くんがよく行くカフェに連れて行ってもらった。

モノトーンの落ち着いた店内で、ジャズのレコードが流れている。

ビジネスマンや読書をする女性が周りの席に座っている。


席に座ろうとすると、光一くんが椅子を引いてエスコートしてくれた。

いつもさりげなく優しい。

当たり前に思いやってくれる。

光一くんはその挙動のすべてに育ちの良さが伺えた。


2人で歩くときは、光一くんはいつの間にか車道側に移動している。

私が車に乗るときは、即座にドアを開けてくれる。

小雨が降ってきた瞬間、傘をさして濡れないようにしてくれる。


私、大切にされてるな。

ルキくんはそんなこと、しなかったな。

なんでルキくんのことを考えてるんだろう。


チョコレートケーキが運ばれてきた。

カカオパウダーのビターな味。

甘さは控えめ。

私が好きな味。

甘ったるくない。

大人な甘さ。


「おいしいね」

光一くんが言う。


「うん、おいしい」

私は応える。


ああ、なんで。


「来月から、新作のチーズケーキが出るみたいだよ。また来ようね」

光一くんがまっすぐな瞳で言う。

お手本みたいな笑顔。


ああ、なんで、物足りないんだろう。


「そうだね」

私は応える。


ああ、なんで、求めているんだろう。

甘ったるい味。

いつまでも舌に残る味。


「ちょっとお手洗いに行ってくるね」

私は席を立つ。


光一くんに背を向ける。


ああ、ルキくんに会いたい。



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