5 目覚め
目覚めは突然だった。
「ごほっ、ごほ」
咳き込んだら、メイドがあわてて側に来た。
背中を起こしてさすってくれる。
ああ、ここは寝室。このメイドの名前はメイ。
ああ、そうだ。
思い出した。
手術したのね。
魔力核を移植する手術が行われて、
そして、私は……。
「うっ、ごほ、こほっ」
メイドの1人が急いで部屋を出て行った。両親を呼びに行ったのだろう。
メイに渡されたコップの水をゆっくりと口の中に入れて飲み込んだ。
咳が落ち着いたころ、父と母が急いで部屋に走ってきた。
「リリアーヌ、ああ、良かった」
「リリアーヌ、大丈夫なのか?」
心配そうな顔をした両親が呼びかけるけれど、私は違和感を覚えて少し戸惑った。ぐるぐると包帯が巻かれた手で、顔を触る。顔にも布が巻かれている。どうして?
「か、鏡」
しわがれた声で、メイドに鏡を持ってくるように頼んだ。
「!」
顔全体に包帯が巻かれている。
白い布の中で、紫色の大きな瞳だけがぎょろっと鏡の中から私を見返した。
鏡から目を反らすと、腕も足も全てに包帯が巻かれていることに気が付いた。この感触ではきっと、全身が包帯で包まれている。
驚く私を、両親が慰めてくれた。
「大丈夫よ。手術の副作用で、今は全身が紫色に変色しているんですって。魔力核が体に馴染むまで、外気に触れないほうが良いとかで、魔法医が魔法布を巻いていったの。それが自然に取れる頃には全部元通りになっているそうよ」
魔法布。これが?
「ごほ、喉が……、ごほっ」
「ああ、喉の痛みも魔力核移植の副作用らしい。1ヶ月ほどで元の声に戻るとか。心配しなくていいと言っていた」
無事に私が目覚めたことを心の底から喜んでいる両親の様子をじっと観察した。娘のことを愛している両親。だから私はゆっくりと笑顔を作った。いつものリリアーヌならこんな風にほほ笑む。たとえ包帯で見えなくても。
何にも問題はないって風に、優しく、気高く、自信ありげに。
「こほっ、だいじょうぶよ。お父様、お母様。心配しないで」
それを聞いて、両親は「ああ」と安心したように息を吐いた。
「良かった。本当に良かったわ。目が覚めたら心配ないって医者が言っていたわ。もう、こんな怖い思いはさせないでね。大切なリリアーヌ」
「ああ、リリアーヌ。大切な娘よ」
そうね。リリアーヌはこの家でとても愛されている。
リリアーヌの言うことは何でも叶えてもらえる。
魔力人形を殺して魔力を奪うこともためらわない。
私は素晴らしく恵まれているリリアーヌなんだ。
「早く体を治さないとね。早く、行かないと」
「リリアーヌ?」
包帯で覆われた両腕をさする両親に私は宣言した。
「早く、聖女にならなきゃね。私の聖水が必要とされているんですもの。殿下に期待されてるものね」
そう、それなら私は必ず大聖女になってやる。
大聖女になって、誰からも求められる存在になる。
王子様の隣に立つには、この聖の魔力があればいい。
「私、精一杯、がんばるわ」
だって、リリアーヌとして目覚めた私は、ジュエなのだから。