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29 アルフレッド

 私はアルフレッド。この国の第二王子だ。

 倒れた兄上の代わりに、魔物を討伐してこの国を守っている。


 先日郊外に現れた魔物はワイバーンだった。街の被害は甚大だったが、私と騎士団の活躍で死者は少なかった。怪我人は聖女オディットが治癒魔法で治した。聖女オディットの評判はとても良い。


 つい先日までは、虹色の聖水を作る我が婚約者リリアーヌを大聖女に推す声が多かったのに。巷の評価はすぐに変わる。


「それが……、リリアーヌ嬢が使った聖水の代金を神殿騎士が取り立てに来たそうです」


 侍従がゴシップ誌を取り出して見せた。


『守銭奴聖女、患者一人に金貨100枚請求。悲劇! 支払えなかった親子は奴隷落ち』


 見出しが目に入り、愕然とした。

 金貨100枚だと? 患者から金をとるのか?


「治癒魔法は無料だけれど、聖水は神殿に権利がある販売物だというのが神殿側の主張でして、リリアーヌ嬢はこのことは知らないと思われます」


 侍従が説明してくれた。


「そうだ、リリーがそんなことを許すわけがない。神殿はどこまで金に汚いのだ。なぜ、そんなに金を求める!」


 ああ、かわいそうに。リリーは心優しい聖女だのに、こんな記事を書かれてしまって……。そういえば、魔物討伐の後始末で忙しく、最近リリーに会えてないな。聖水は使いの者が届けてくれているのだろうか。具合の悪い兄上のもとに全部持っていくように言っておいたが。


「リリアーヌ様からの聖水は届いておりません。なんでも、体調が優れないため寝込んでいるとか」


「なんだと? そんなに悪いのか?」


 そういえば、魔物が出た日に母のお茶会で倒れたのだったな。だめだな、忙しいからと見舞いにも行かずにいた。こんなことでは婚約者失格だ。


「神殿に見舞いに行く。菓子と花束を用意してくれ」


 すぐに会いに行こう。もともと体の弱い人だ。今までも、無理をして聖水を作ってくれていたのだ。私が守ってあげなくては。


「その必要はありません」


 突然部屋に入ってきた母に侍従が敬礼をした。


「母上、どうしましたか? 今から婚約者のリリアーヌに会いに行くのです」


 母は眉をしかめて、持っていた紙の束を机にたたきつけた。


「これを読みなさい。守銭奴聖女ですって。そんな者を王族に迎え入れることはできません」


 さっき見たゴシップ誌だ。


「違います。それは神殿の陰謀で、リリーには何の咎もありません」


「真実はどうであれ、世間での評判は良くありません。それよりもこっちを御覧なさい。先日の魔物討伐の折の記事です。聖女オディットこそ大聖女にふさわしいとあります。オディットを妃になさい」


「なんてことを!」


 ついこの間まで、母はリリーと結婚しろと言っていたじゃないか。口約束だが婚約もした。なぜ、急に豹変するのだ?


「聞けば、リリアーヌ嬢は魔力を失い聖水すら作れなくなったというではないですか。それに、犯罪行為に加担しているとの証言もあります」


「なんのことです? 魔力を失った? 犯罪行為?」


 何を言っているんだ? リリアーヌがそんなことするわけがない。

 疑いの目を向けた自分に、母は扉を開けて客人を招き入れた。

 入ってきたのは、聖女オディットだった。


「アルフレッド様! 聞いてください! リリアーヌ様はひどいことをしていたんです。魔力がなくなったのは、きっと、バチがあたったんです!」



 オディットが証拠だと言って持ってきた元執事の日記を読んで愕然とした。

 そこに書いてあったのはデュボア侯爵家の非道極まりない行為だった。それに加担していたリリアーヌの残酷さだった。


 なんということだ。私が今まで見ていたリリアーヌは全て嘘だったのか。優しく気高いリリアーヌは作り物だったのか。


 衝撃のあまり、目の前が真っ暗になった。

 頼むから誰か嘘だと言ってくれ。

 私の愛するリリアーヌにこんな二面性があったなんて思いたくない。理想の女性だと信じたリリアーヌはどこにもいなかったのか? どうしたらいいんだ。

 がっくりと気落ちした私を支えてくれたのはオディットだった。


「かわいそうなアルフレッド様。リリアーヌ様に騙されていたんです。私が、アルフレッド様を支えます。側で一緒にいます。アルフレッド様の力にならせてください!」


 手を握って励ましてくれるオディットを呆然と見つめた。

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