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21 王妃

 王妃に招待された日、持っているドレスの中から一番品質のいい物を身に着けて王宮へ向かった。

 侍女のメアリーと護衛の神殿騎士は部屋の前で待たされて、私だけが王妃の部屋に案内された。


 王妃は私にテーブルに着くように促し、侍女が紅茶を注ぐ間、何も言わずにじっと私を観察していた。


「アルフは結婚相手にはあなたを選ぶと言っていたわ」


 王妃は熱い紅茶を一口だけ飲んでそう言った。


「銀色の髪に銀色に光る紫の瞳の初代大聖女と同じ色合いね。あなたの作る聖水も初代大聖女と同じ虹色だそうね」


「はい。王妃様に献上いたすべく持ってまいりました」


 聖水のビンを渡すと王妃はそれを手に取り、日に透かせてじっと見つめた。そして、思案するような顔をして、また沈黙した。

 私は王妃の行動をただ黙って待っていた。


 王妃を味方につけなければ、大聖女になってアルフ様と結ばれるのは難しい。魔法の使えない私の武器は聖水と家柄だ。アルフ様は私に好意を持ってくださるけど、もっと味方が必要だった。


「今の大聖女は力が弱っているわ。もうすぐ交代するわよ」


 王妃は聖水を見つめたまま呟いた。


「あなたに彼女の代わりをしてほしいの」


 それは、つまり、次の大聖女に私を推してくれると言うこと? 私を選んでくれるのね。

 ほっとして、私も勧められるまま紅茶を一口飲んだ。


「あなたはアルフのためなら何でもすると言ったそうね。それを今から見せてちょうだい」


「はい、王妃様」


 返事をしてから、何をしたらいいのか疑問に思う。今から?


「ついてらっしゃい」


 王妃に続いて部屋から出ようと立ち上がったら、頭がクラクラした。どうして? 机に両手をついてふらつく体を支える。


 王妃の護衛騎士が私の腕をつかんで持ち上げた。


 私は王妃に薬をもられたようだ。


 そのまま動かなくなった体を抱き上げられる。

 本棚の後ろにある隠し扉をくぐり、薄暗い通路を通って私は運ばれた。王妃が開けたドアの向こうは第一王子の部屋だった。


「母上!何を?」


 護衛騎士に抱きかかえられた私を見て、驚きに目を見開いた第一王子が、ベッドの中から王妃に問いかけた。


「その人はこの前の聖女ではないですか。何をされているのですか?」


「おまえを助けるためです。今の大聖女はもう、魔力がほとんどないでしょう。この子なら多くの聖の魔力を持っているわ。少しぐらいお前に分けてもらっても構わないでしょ」


「そんな! もう、こんなことはやめてください。大聖女の魔力を奪ったのも、僕が母上を止められなかったから、僕の責任です。もう、やめましょう。無関係な方を巻き込むのは」


「無関係じゃなくなればいいのよ。この子はアルフの妻の座がほしいのよ。今の大聖女と同じよ。王弟殿下の妻の座を欲した男爵令嬢を大聖女にしてやったお返しをもらっただけだわ。親族からの魔力譲渡は違法じゃないもの」


「その人は侯爵令嬢ですよ! それに、まだアルフと結婚してないでしょう。お前たち、何をしている。母上を止めるのだ!」


「結婚するまで待ってたら、あなたは死んでしまうのよ!

 それに、この子はもともと魔法が使えないの。魔力譲渡したってバレやしないわ」


 ああ、私はまた、魔力人形にされるの? 今度は第一王子に魔力譲渡しなきゃいけないの?


「だめだ! 侯爵令嬢相手にそんなことは許されない。おまえたち、早く父上を、陛下を呼んでくるんだ!」


 さすがに、私の身分を知った侍女たちが王妃を止めた。王妃の手に持った太い針は私の胸を突き刺すことはなかった。





「お前は何をしているのだ!」


 アルフ様がそのまま年を取ったような国王陛下は、王妃をしかりつけた。

 王妃はその怒声にもひるまずに叫び返した。


「何をしていると思いますか! 私は我が子の命を救っているんです!」


「その聖女は侯爵令嬢だ。わが国で最も資産を持つ侯爵の一人娘にそのようなことは許されない」


「では、今すぐアルフと結婚させてください。その娘が王族になったら、魔力譲渡させてもいいでしょう」


「そのような勝手が許されるわけないではないか」


「だったら、あなたはヴィルフレムに死ねというの?!」


「だからと言って、侯爵を敵にまわすわけにはいかない」


「口をふさげばいいだけでしょ。命令したらいいのよ。王命を出してちょうだい!」


 ふう、と陛下は大きく息を吐いた。そして、黙って座っている私の方を見た。


「そなた、王妃が盛った薬の影響はまだあるのか?」


「まだ、しびれは残っていますが、こうして話はできます」


 私はゆっくりと口を動かした。手足はまだしびれているけれど、なんとか動かせる。


「そうか、なら王として命じる。ここで見聞きしたことを誰にも話すな。その名をもって、誓約魔法で誓え」


「……はい。私、リリアーヌ・デュボアは今日王宮であった出来事を決して誰にも話さないと誓います」


 陛下が手に持った魔導具の宣誓書に私の名前が記入された。これで、私は魔力譲渡のことを誰にも言うことはできない。

 陛下はそれを確かめてから、私に手を振った。


「そうか、もう帰っていい」


 後ろで王妃が泣きわめいていたけれど、侍女につかまりながら、足を引きずって部屋を後にした。


 第一王子はこのままでは死ぬだろう。治癒の力をもつ聖の魔力譲渡は延命にしかならない。第一王子と同じ光の魔力を譲渡しない限り、魔力核は治療されないのだ。光の魔力は王族しか持たない希少な魔力だ。でも、魔力譲渡は失敗すれば命の危険を伴う上に、魔法が使えなくなるので、陛下も王子も譲渡しないのだ。

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