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17 カトリーヌ

 私はカトリーヌ・デュボア。私には二人の子供がいる。聖女となった美しい娘リリアーヌと長男のセドリック。


「分からないのよ! どうやって接していいのか分からないわ!」


 セドリックの世話を乳母に任せきりにして、全く関わろうとしないことを夫のフィリップに責められて、私は叫んだ。


「分からないって、どういうことだ? ずっと欲しがっていた私達の男の子じゃないか。我が家の後継ぎだよ。健康で可愛い、どこにも問題のない完璧な男の子だ」


 フィリップの言葉に私は返事をしなかった。


 夫は何も分かってない。


 セドリックは夫によく似た健康な子供だ。召使いたちはかわいい元気な赤子だと褒める。でも、彼らはこの1年で新しく雇った者ばかりだから、あれを知らないからそんなことを言えるのよ。もしも、あれのことを知っていれば……。


 妊娠中は問題なかったわ。リリアーヌが健康になって、やっとあれを処分できて、夫が望んだ後継ぎを産めるのだから。これで、何も問題ない家庭が戻ってくるんだと楽しみにしてたのに。でも、


「あれのことが頭から離れないのよ! あれを思い出すから、見たくないのよ!」


 私は顔を覆って泣いた。


 どうして、彼は平気なの? あれが生まれた時と同じように、小さくて、よく泣くのに。


「カトリーヌ、その話はもうやめようと言っただろう。あれは人形だ。セドリックは人形じゃない」


「あれも私から生まれたのよ! あれとセドリックは何も違わないわ。あれだって本当は人間だった。ただ、リリアーヌのために、人形だと思い込んだだけなのよ!」


「カトリーヌ! それを言うな。もう、忘れようって言ったじゃないか。リリアーヌは健康になった。だから、あれのことなど気にするな」


 そんなの無理よ。

 セドリックを見るたびに思い出す。あの時、リリアーヌが紫色の肌で泣き叫んだ。それまでは聖水で命を繋いでいたけれど、魔力譲渡が必要になった。

 リリアーヌと全く同じ、かわいい顔の赤子に針を突き刺すのをためらって、そして……。


 迷いを断ち切るために仕方なかったのよ。生まれた時のリリアーヌと同じ姿にためらうのなら、同じ顔じゃなければいいと、杖を取り出し火魔法を使った。

 そしたら、あれを人間と思うのは簡単にやめられた。

 醜い人形だと思えた。


「無理なのよ。もう、無理よ。セドリックには乳母がいるわ。健康な赤子だから乳母に任せて、私は側にいなくてもいいでしょう?」


「君がそこまで嫌がる理由が分からない。元気で何も問題のない子供だぞ。今度は心配することなく、かわいがれるじゃないか」


 男親にはわからないのよ。あれもセドリックも生んだのは私。人形なんかじゃなかった。リリアーヌと同じ魔力を持つように魔法医が操作しただけで、私とフィリップの本物の子供だったのに……。セドリックと何も違わない。ああ、どうして私はあんなに恐ろしいことをしてしまったの?


「明日はリリアーヌが帰ってくるから、君もリリアーヌを見たら元気になるだろう」


「……ええ、そうね」


 リリアーヌ、かわいそうな私の子供。健康に産んであげられなかったから、申し訳なくて、私の全てを与えて愛したわ。何でもわがままを叶えてあげた。一度も叱ったことはない。かわいそうな子にそんなことできるわけないじゃない。

 だから、あの子はわがままに育ってしまった。みんなが褒めるように心優しい子なんかじゃない。時々、使用人を追い込んで意地悪をしたり、優しいふりしてあれを追い詰めていたことは知ってるわ。でも、それを含めて、愛していたの。不健康に産んでしまった罪悪感をいつも感じて、弱さからくる意地悪さも全て愛してあげたわ。


 でも、魔力核を移植してからのあの子は……。健康になって、私が愛してあげる必要がなくなったからかしら? 今までとはどこか違って見えたわ。成長して親離れしたからか少し遠く感じられるわ。領地から帰って来た時に違和感を感じたの。

 私の愛したリリアーヌはどこに行ったのかしら。こわくて神殿に確かめに行く気がしなくて、ずっと会えなかった。


 代わりに、生まれてきたセドリックを愛そうとしたけれど、無理なのよ。どうしても、あれを思い出してしまう。


 ああ、明日リリアーヌに会えば気が晴れるかしら? かわいそうなリリアーヌにのために、あんなことまでしたのよ。幸せになったリリアーヌを見たら、きっと私は間違ってなかったって思えるわよね。そうしたら、少しはセドリックを見ても胸が痛むことがなくなるかしら?

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