7 戦地へ
軍用車に二時間ほど揺られ、ローズたちはようやく国境付近へとやってきた。
目の前には大きな湖がある。
さらにそれを小高い山々が取り囲むようにして連なっている。
すでに戦争が始まって半年が経過していた。
ローズたちの国は湖の半分近くまで侵攻していたが、戦線は常に一進一退を繰り返していた。
「知っての通り、我らは現在、三手に分かれて侵攻している。『湖北地域』、『湖』、『湖南地域』だ。順次投入される部隊は、都度劣勢となっている場所に向かい、現地での指示に従うこととなる。我が大隊は『湖北地域』に向かう!」
大隊長である中佐が、居並んだ新兵たちの前でそう説明する。
国境にはすでにモデリア王国の「前線基地」が設置されていた。
ここでは、後発部隊の行く先を割り振ったり、武器や食料などを最前線へ送ったりするのである。
ローズたちは休憩が終わると、また軍用車に乗り込み、湖北地域へと向かった。
左手には湖、右手には小高い山々がつづく。
平地はずっと畑か、なにもない草原だった。そこに無数の塹壕が掘られ、激しい戦いの跡が残っている。
ある程度進むと、立ち上る煙が見えてきた。
銃声となにかが爆発する音。
車が止まり、新兵たちは現地の指示を受けて、それぞれの現場に向かう。
ローズは擬態服――ギリースーツを渡されて、狙撃部隊の仲間たちとともに山を目指した。
木立の合間に隠れて、最前線で戦っている味方の援護、および敵の狙撃をするように言われる。
「よし、我々の位置が敵にバレるまでは、一人でも多く敵の戦力を削げ。観測手、周囲の動向は俺が見張る。みなは最前線の動きだけを見ているように」
「はっ、ザイード軍曹!」
ザイード軍曹が指示を出すと、観測手のリーダーであるミリア一等兵がみなを代表して応えた。
ローズは仲間たちとともに木立の間に伏せ、小銃に弾を詰めていく。
珍しく手が震えていた。
初めて猟をしたときのことを思い出す。
あの時も、緊張していた。でも鹿を仕留めたら次からは震えなくなった。
(人でも同じかしら……)
そんなことを思いながら、銃を構える。
スコープの先に右往左往している兵士たちが見えた。
えんじ色の軍服が我が国の兵。濃い緑色の軍服が敵国の兵。
走っていく方向が違うから、見間違えることはあまりないと思うが、それでも立ち上る煙に紛れるとわかりづらかった。
ローズは引き金に指をかける。
震えているが、やるしかなかった。
バン、バンッと隣から発砲音がしはじめる。
観測手の指示に従って、仲間が敵を撃ち始めたのだ。
「ローズ、集中しなさい!」
後方に立つミリア一等兵が叫んだ。
新人の中ではローズが一番筋がいいということで、ミリア自らがローズの観測手に名乗りをあげてくれていたのだ。
ミリアは先発部隊の生き残りだった。
後発の教育を任されて兵営に戻ってきたという。
「ローズ、敵が一気に攻め込んできています。早く撃たないと、我が軍の歩兵たちがやられてしまいますよ」
「はい」
「撃って!」
「はい」
ローズは力を込めて引き金を引いた。