表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/12

7 戦地へ

 軍用車に二時間ほど揺られ、ローズたちはようやく国境付近へとやってきた。

 目の前には大きな湖がある。

 さらにそれを小高い山々が取り囲むようにして連なっている。


 すでに戦争が始まって半年が経過していた。

 ローズたちの国は湖の半分近くまで侵攻していたが、戦線は常に一進一退を繰り返していた。


「知っての通り、我らは現在、三手に分かれて侵攻している。『湖北地域』、『湖』、『湖南地域』だ。順次投入される部隊は、都度劣勢となっている場所に向かい、現地での指示に従うこととなる。我が大隊は『湖北地域』に向かう!」


 大隊長である中佐が、居並んだ新兵たちの前でそう説明する。

 国境にはすでにモデリア王国の「前線基地」が設置されていた。

 ここでは、後発部隊の行く先を割り振ったり、武器や食料などを最前線へ送ったりするのである。


 ローズたちは休憩が終わると、また軍用車に乗り込み、湖北地域へと向かった。

 左手には湖、右手には小高い山々がつづく。

 平地はずっと畑か、なにもない草原だった。そこに無数の塹壕が掘られ、激しい戦いの跡が残っている。


 ある程度進むと、立ち上る煙が見えてきた。

 銃声となにかが爆発する音。

 車が止まり、新兵たちは現地の指示を受けて、それぞれの現場に向かう。


 ローズは擬態服――ギリースーツを渡されて、狙撃部隊の仲間たちとともに山を目指した。

 木立の合間に隠れて、最前線で戦っている味方の援護、および敵の狙撃をするように言われる。


「よし、我々の位置が敵にバレるまでは、一人でも多く敵の戦力を削げ。観測手、周囲の動向は俺が見張る。みなは最前線の動きだけを見ているように」

「はっ、ザイード軍曹!」


 ザイード軍曹が指示を出すと、観測手のリーダーであるミリア一等兵がみなを代表して応えた。

 ローズは仲間たちとともに木立の間に伏せ、小銃に弾を詰めていく。


 珍しく手が震えていた。

 初めて猟をしたときのことを思い出す。

 あの時も、緊張していた。でも鹿を仕留めたら次からは震えなくなった。


(人でも同じかしら……)


 そんなことを思いながら、銃を構える。

 スコープの先に右往左往している兵士たちが見えた。

 えんじ色の軍服が我が国の兵。濃い緑色の軍服が敵国の兵。


 走っていく方向が違うから、見間違えることはあまりないと思うが、それでも立ち上る煙に紛れるとわかりづらかった。

 ローズは引き金に指をかける。

 震えているが、やるしかなかった。


 バン、バンッと隣から発砲音がしはじめる。

 観測手の指示に従って、仲間が敵を撃ち始めたのだ。


「ローズ、集中しなさい!」


 後方に立つミリア一等兵が叫んだ。

 新人の中ではローズが一番筋がいいということで、ミリア自らがローズの観測手に名乗りをあげてくれていたのだ。

 ミリアは先発部隊の生き残りだった。

 後発の教育を任されて兵営に戻ってきたという。


「ローズ、敵が一気に攻め込んできています。早く撃たないと、我が軍の歩兵たちがやられてしまいますよ」

「はい」

「撃って!」

「はい」


 ローズは力を込めて引き金を引いた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ