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2 初めての射撃大会

 十七になったあの年。

 ローズ・ベネットは父親に連れられて、初めて村の射撃大会に参加した。


 種目は三種類。

 ひとつは鳥撃ち。鳥に見立てた素焼きの皿を空中に投げてもらってそれを撃つ競技。

 もうひとつは獣撃ち。獣に見立てた素焼きの皿を地面に転がしてもらってそれを撃つ競技。

 みっつめは有効射程。動かない的をどこまで遠くに置いて当てられるかという競技。


 鳥撃ちと獣撃ちは、それぞれ二十回ずつ撃つチャンスがあり、百点満点で計算された。

 だが、みっつめの有効射程では、ある一定の距離を超えると百点以上の点数が稼げるようになっている。

 必然的に、上級者はこのみっつめの競技で勝負をしかけるのだった。


「絶対に優勝してやるわ。父さんなんかに、負けないんだから!」


 ローズの父親は凄腕の猟師だった。

 狙った獲物はどれだけ遠くにいても確実に仕留める。

 小さな獲物でも、大きな獲物でも。


 その父親の猟を、ローズはすぐ近くで見てきた。

 何度も父と森に入り、二方向から獲物を追い込む高度な猟もしていた。

 だからか、初参加でもローズは割と簡単に好成績をとれた。

 鳥撃ちと獣撃ちにおいては満点を取り、みっつめの有効射程に到っては百メートル先の的の中心に穴を開け、こちらも満点を取っていた。


 しかしこの年の優勝者は昨年にひきつづきローズの父だった。

 有効射程の記録はおよそ三百メートル。

 ローズは悔しがったが、それ以上に父の腕を誇らしく思った。


「さすが私の父さんね! 勝てるかと思ったのに負けちゃった!」

「ふふ。お前も、初参加にしてはよくやったぞ」


 互いの健闘をたたえ合い、ローズと父親は優勝のトロフィーと、副賞の高級牛肉セットを乗ってきた荷馬車に乗せる。

 いつも家で出る肉は、父が森で仕留めた野鳥や小動物、鹿、猪、熊などの獣肉、それから魚ぐらいだった。

 家で出迎えた母親は、戦利品の牛肉を見て「今日はいっとう豪華な夕飯にするわ!」と張り切った。

 野生と畜産の肉とでは、香りや触感がまるで異なるのだ。


 父親は猟師として一流の腕を持っていたが、実は数年前から耳を悪くしていた。

 だからだろう。ローズに早くから猟を教え後継者として育てていた。

 今日はその成果が実った日。


 出されたお茶を飲みながら、ローズと父親は、今日あったことを母親に語って聞かせる。


「……とまあ、大会の結果を見れば、ローズはもう一人前の猟師だな。あと数か月もすれば、俺の腕も追い越すだろうよ」

「そんな、褒めすぎよ父さん!」

「いいや。それだけローズが頑張ってきたってことだ。親としても鼻が高かったぞ」

「あらあら。それなら来年はローズが優勝するかもね」

「ちょっと父さん。母さんまで!」


 ローズは褒められると、顔が真っ赤になる。

 それはまるで薔薇の花びらのようだった。

 だからローズと名付けたのだと、父と母は彼女の産まれたときのことを思いだす。


「まったく、子の成長はいちじるしいものだな」

「ええ、ほんとうに」

「父さん。来年も絶対手加減しないでよ! 私との約束だからね」

「はいはい。わかったわかった」

「ふふふ」


 和やかな時間が流れる。

 ローズは、今日はなんて幸せな日なのだろうと思った。

 母親の作った甘いスコーンに、温かいお茶に、愛する両親。

 全部目の前にある。

 この時がいつまでも続けばいいのに。


 そう思っていると、突然、玄関のドアが激しく叩かれた。


「はいはい。どちらさま」


 母親があわててドアを開けると、そこには若い配達人が立っていた。

 一通の封筒を差し出して言う。


「おめでとうございます。召集令状です」


 母親はローズを振りかえる。

 その表情は硬くこわばっていた。

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