表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/12

1 伝説の狙撃兵アイアンローズ

 しわだらけの手でローズは猟銃を構える。


 三十メートル先。

 小高い丘の手前を、野鳥に見立てた素焼きの皿が飛んでいく。


 左から右へ。

 それを追いかけるようにライフルの銃口を向け、皿の少し先を狙って撃つ。

 パァンと乾いた音がして、皿が空中で粉々に砕ける。


「わあっ、あのおばあさんすごーい!」


 きゃっきゃっと、母親に連れられた幼子が、会場の柵の外で喜んでいる。

 本物の野鳥ならもっと複雑に飛ぶ。

 簡単すぎる、とローズは思う。


 終戦から六十周年を迎えた年。

 ハンネ村の射撃大会では、今年もあるひとりの老婆が優勝を獲得していた。

 ローズ・ベネット。

 村の外れの森に住む、腕利きの女猟師だ。


 若い頃は血のように赤かった髪も、今ではだいぶ薄まって、夕日のようなオレンジ色となっている。

 表彰台に上ったローズはトロフィーを受け取ると、村人たちの前で声高に叫んだ。


「悪いねみんな! 今年も優勝の座と副賞の高級牛肉セットは、私のもんだよ! アハハハ!」


 参加者たちからは、「いい加減引退しやがれババア」「いい年して大人げないぞ」などと散々口汚いヤジが飛ぶ。

 しかし、彼女が死ぬまで引退しないこと、そして彼女が生きているうちは誰も彼女の上に立てないことを、みなよくわかっていた。

 彼女の目が衰えない限り、その腕が衰えない限り、絶対に勝つことはできない。

 一方で、こんなことも思う。

 できればいつまでもその優れた技を見ていたい、と。


 ローズはあの戦争でもっとも活躍した狙撃手だった。

 戦場で多くの敵兵を撃ち、「アイアンローズ」の異名で呼ばれていた。

 ローズがいなければ、この国は負けていただろう。

 今の平和があるのはすべて、この老女のおかげなのだ。


 隣町の新聞記者が駆け寄ってきて、コメントを求めてくる。


「ローズさん、今年も優勝おめでとうございます。毎度のことですが、一言お願いいたします」

「ああ、ノートルタイムズさん。そうだねえ……」


 ローズは少し考えるふりをしてから、愛用のライフル銃を肩から下ろした。


「こいつを初めて手にしたのは、私が十五になった年だった。親の猟を手伝うために、自分の腕より長いこいつを持つはめになったんだよ。この射撃大会に出るようになったのは十七になってからだった。そこからは、六十年間ずっと参加している。出場しなかった年はほぼ無いね。ああでも……あの一年だけは、どうしても出られなかった」

「それはあの、アバルタ公国との領土戦争があった年ですか?」

「いや、その翌年だよ。だから私は、『この大会に出られること』こそが平和の証だと思ってる。この平和が長く続くことを祈って、また来年も出場したいねえ」

「なるほど。わかりました。ありがとうございます」


 去っていく記者の背中を見送りながら、ローズは昔のことを思い出した。

 初めてこの射撃大会に出場した日のこと。

 そして、役場の配達人が家にやってきた日のことを。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 元軍人で現役ハンターのローズおばあちゃん、渋くてカッコいいです。 「毎年参加している射撃大会は平和の証である」という言葉は、戦場を知る元軍人ならではという重みが感じられますね。 [一言] …
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ