女の涙に理由を問うは野暮。
先生は、来て最初に声を掛けたのは巻野君。
ビビの発した話を鵜呑みにしたか?
「巻野、何した!」
「ぃゃ、にらまれたから……」
返す言葉に詰まる巻野君。
当然だった。睨まれた後は話の流れで雨ふらしってあだ名をもじって今日の雨を香苗のせいじゃないのかと言っただけ。
それをどう説明しろと言うのか、他人事にならこう説明出来るが、自分事として説明するのに語彙力を要するも小四の成績も中の下男子にその語彙は無い。
「ITが雨ふらしってバカにして泣かせましたー」
こんな時の馬鹿ほど先生にとって都合のいい生徒はいない。
「巻野、」
「ぃゃ、バカにしたとかじゃ……」
「でも言ったんだろ!」
「まぁ、はい。言いました」
「だったら謝れ!」
「……ごめん」
納得は行かないが、した事には謝る巻野君。
先生は注意してやったぞアピールに香苗を見るが、何とも困った顔をしている香苗にアピール不足を疑う先生の頭の中には、自分の間違いという概念は無い。
寧音も巻野君が先生に問われている中、香苗がそんな巻野の普段から言ってる戯言程度で泣くようには思えなかった。
別の理由。
考えられる理由なんて一つしかない!
時宗君をまたも睨む寧音。
時宗は香苗に言われたバーカの一言ばかりを思い出していた。
が、その瞬間。
先生がアピール押しに香苗に確認を求めた一言に、時宗の求めた答えが示された。
「ぉぃ、雨宮。巻野も謝ってるし、許してやってくれるか?」
「まっ! あまみやだったのかっ!」
「何言ってんだ時宗? お前も何かやったのか?」
元々訳が解らず引いていたこの状況に、時宗君の言ってる意味に気付いて余計に冷める香苗の心……
自分が涙を零したせいで起きてる事だとは解ってる。
だからといって時宗君が悪いんじゃないのも、巻野君なんてほぼ関係ないのに謝らされている事も解ってる。
けれど自分の泪に罪もなく、誰のせいとか問う話でもない。
なのに……
そう、誰が言い出したのか自分の泪に責任者を問う者こそが真の悪人。
ふと、香苗は泪を拭って悪人の顔を見た。
先生に媚びを売るかの如く自信満々に告げ口し、誉め称えられたかのように6班の席で唯一の善人といった面をして、立ち上がってるせいか上から目線にみんなを下に見るその腐った眼が実にウザい。
いつまで経っても返事もなく、涙を拭くも何かを凝視する香苗の視線を辿って中畑を見る先生。
何かを察する先生の頭に過ぎるは、体裁を気にする先に生まれただけの卑しい公僕。
「まあいい、ほら、時間無いからみんな早く書いちゃえよ!」
書くと描くの違いも忘れて急かして書かせる図工の授業に、絵の何たるかなんて教えも説けず、落書き程度に香苗の涙の件も流された。
腑に落ちない当事者を置いて去って行く先生。
へらへら笑う腐った輩に6班みんなの視線が注がれていた。
「ん? 何?」
「ウザっ!」