帝王の子供の謀略図。
寧音は時宗君の発言に苛ついていた。
親友の香苗の気持ちを知るだけに、香苗の名前すらも覚えていないかの如くの時宗君の一言は、負のオーラを満開にして呪い祟るかのような寧音の姿が、見てもいないのに時宗君の背筋を凍らせる。
「んっ!? 何だろ?」
不意に襲った嫌な感覚に、時宗は悪寒を走らせている寧音の存在に気付く事もなく、隣のIT(巻野)が雨宮さんを雨ふらしと言って馬鹿にするのを見ているだけで……
〈やめろよ!〉
等と言っている自分を想像してみるも、それは無理だと諦めた。
それよりも、さっき聞いた雨宮さんの名字の読み方に、返事は冷たくバカ呼ばわりに雨宮さんが何故に怒っていたのかが解らず考えていた最中。
時宗は、雨宮さんの事をIT(巻野)と同じ様に雨ふらし等と呼ぶ事はしたくない。
けれど、女子が呼んでる様に香苗ちゃん等と下の名前で呼ぶのも何か違うし、恥ずかしい。
で、上の名前で呼ぼうにも雨宮さんの読み方が微妙に判らず、時宗の頭の中では呪文の如くに廻っていた。
〈マかメかマかメかマかメかマかメかマかメかマかメかマかメかあまあめあまあめあまあめあまめあめまあまめあめま……アメマ?〉
そんな事とは思う筈もなく、初めて恋の相談をされた寧音はそれをまるで自分の事のように想い、香苗の為にと時宗君に負の念を送っている。
その寧音の隣で香苗は未だ、時宗君に充てて想い描いていた王族と庶民のラブロマンスが崩壊し、姉弟関係へと変換された事に禁断の恋的なストーリーを思い描ける程の知識も無く、手詰まり……
香苗は時宗君への気持ちの置き場に困っていた。
近くなるのに遠退く想いは、考えれば考える程に空虚な場所へと感情が追いやられて行くようで、萎える気持ちを狙って部屋の隅にある暗い陰が手を招く。
座っているのも部屋の隅だが、ここは窓際族の6班の席。
晴れていれば暗い処か眩しく暑い陽の当たる場所。
けれども今日は雨の一日、厚い雲が心までをも灰色にして涙を零す。
目の前が潤んで歪み、魚眼レンズで見ているような世界に変わる。
黄色を塗ったばかりのバナナがレモンに見える画用紙に、描いた時宗君には色は無く、肌色を作るには何を混ぜるか……
パレットに零す涙が色を薄める。
「ぁれ? ぉぃ、雨ふらし……」
「ああ、ITが雨ふらし泣かせたーっ!」
「えっ! どした、あまめ、あめ、あまめか、あめま?」
「ふんっ! って、かなえちゃん? え、ちょっと、どうしたの? え、かなえちゃん?」
皆ウザいビビはさておき、宮すら忘れた時宗君の動揺に寧音は呪い勝った気になるも、隣を見れば香苗の涙に何が何やら寧音も動揺。
最も動揺するは巻野君。
何故に睨まれていたのかも分からぬままに返した台詞で泣かれた可能性を指摘するビビのウザい煽りが妙に腹立たしいが、ビビの事より香苗に対してどうすれば良いのかに対応に困っていた。
そんな動揺の連鎖は騒ぐビビの声で先生の目にも知られてしまい……