背後関係。
それは三年から四年になる際にクラス替えが無く、変わり映えもないクラスメイトに安堵とマンネリ感を同時に感じる教室で
それまであまり話さなかった香苗と寧音が、四年生になって席が前後になった四月の話……
――BUTUBTUBUTUBUTUBUTU――
寧音はいつも通り次の授業の準備をしていると、後ろの席の香苗がブツブツと何かを唱えるように呟いているのが聴こえて来た。
振り返って見れば香苗は机に両の肘を付き組んだ手を睨み呟く姿、それが寧音には自分を成仏させようとする念仏のようにも思えて恐ろしくなり、思わず香苗の手を掴み叫んでいた。
「私、本物のユウレイじゃないのっ!」
物凄く驚いた顔をする香苗を見て、次の言葉が浮かばなかった。
当の香苗は自分が帝王の子供であると知って数日が経ち、それをプラス思考に自分はお姫様なのだと理解した翌日の事で、時宗君を王子に迎える為にどうすれば良いのかと妄想の世界に花を咲かせ
……良からぬ打算的計画をブツブツとしていた最中。
香苗が驚いたのは、突如として妄想の世界から叩き起すかのような寧音の度アップに加えて、初めて聴いた寧音の大声。
その、あまりにも綺麗な瞳と声に妙な色気を感じてしまい、子供ながらに自分の女としての才に負けを感じて引いていた。
寧音が時宗君を狙っている訳でもないのに取られてしまうように思えて、妄想の打算的計画が崩れ去って行くのと同じく香苗の表情は崩壊して行った。
「かなえちゃん! 私、生きてるの! のろわないから! じゅもんとかいらないから! かなえちゃん? ねえ! 死なないで!」
「……しずねちゃん、のろいってきくの?」
「え? いや、だから私は…………ん? いや、のろわないで!」
授業後、次の体育に更衣室へ行こうと立ち上がり振り返れば、香苗は未だ放心状態だったと知り慌てて目を醒まさせようと肩を掴み揺さぶってみた。
「かなえちゃん! ここにいたらヘンタイ男子にねらわれちゃうよ!」
「……んがっ!」
その一言にハッとし覚醒めた香苗だが、肩を掴まれている事にゾッとする。
「は、はいご……」
「ハイゴレイじゃないから!」
寧音の鋭いツッコミに気持ち良さを感じ始めていた香苗は、少しずつ寧音の面白さに惹かれ恋敵として見る事はなくなっていた。
とはいえ、寧音の魅力を知りその人柄に惹かれれば惹かれる程に脅威に感じる、女としての性が香苗の心に巣食う闇の様に……
等と言える程には考えてもいないからこそ、香苗は寧音と仲良くなっていった。
ある日の教室で机の脚に引っ掛かり転んで足を擦りむいた寧音を気遣い、保健室へと向かおうとする折にも……
「あ、しずねちゃんこれって……じばく?」
「ジバクレイじゃないから!」
事ある毎に幽霊ネタをかましては、寧音のツッコミを待っていた。
その鋭さ故の快感に身を寄せて……
「あのさ、香苗ちゃん、寧音ちゃん、地縛霊って、その自爆じゃないよ」
「え?」
「そうなの?」
その楽しさに入ろうと千夏も人気に違う趣味嗜好を曝すような台詞で声をかけて来るほどに、それまでクラスで静かに過ごしていた寧音の学校生活は、明るく笑いの絶えない生活へと様変わりしている。
そうして香苗は、寧音に恋のヒミツを話すまでの間柄になっていた。