帝王の子トム。
先生「こら、そこ! 何やってる? 遊んでんなら席戻すぞ!」
IT「すいませーん、ビビ、中畑君が緑の絵の具を画用紙にぶちまけたんですー。」
ええ? と、口をパクパクさせITに顔を向けるビビを捨て置き、機転を利かせたITの話にビビの画用紙を覗き込んで納得する先生。
先生「それ、失敗なら新しい画用紙を使え!」
ビビ「……はーい」
悔しいながらもトムの話の続きが聞きたくて返事をするビビ。
暫くはまた描いてる振りに、本当に描かないと間に合わなくなる可能性に筆を走らせながらも周囲の確認に余念はない。
適当ながらも意外な才能にも思えるトムとITの下絵は、絵の具をパレットで混ぜ色を作れば完成が見えている。
ビビの元絵は一枚目も二枚目も何をやっても様にはならない事を物語るが、誰が観ても下手クソと分かる絵に興味も持たれないだろう事を考えれば完成は間近。
そうこうしてる間に先生が廊下側の1班の机で誰かと話始めていた事に、目敏いITがチャンスを見逃す筈もなく色を塗りつつ小声で話す。
IT「で、トムはその帝王の所に行くのか?」
トム「行かないよ! てか家まで知らんし!」
ビビ「ママにきいてもらおうか?」
みんなの冷たい視線がビビを刺す。
覗きババアの友達になるビビの母親といいビビといい、さっき絶対内緒を決めた話に何故に母親に聞くのかの気が知れない……
いや、知りたくもない!
自分の言ってる意味すら解ってないのか、何故痛い視線を向けられているのかすらも微妙な反応に、おちょぼ口でおどけてビビるビビに仕方なく……
IT「ビビ、ナイショの意味分かってんのか?」
ビビ「え、分かってるよ! あ、ママにも言っちゃダメなのか……」
呆れ顔をされて尚、アホ面を向けて来るビビのウザさにため息が漏れる。
IT「ビビ、お前は今から絵書き終わるまで会話禁止な!」
ビビ「え、何で?」
IT「それも禁止だっての! いいからビビは書いてろ!」
有無をも言わさず黙らせたITにグッジョブをやるトムを見てビビに構わず話を戻すIT。
IT「でも、あのババアの話だろ?」
トム「ああ、だからオレもあやしいと思ってさ。母ちゃんにきいたんだよ」
IT「え? マジで?」
トム「そしたら、そうだって……」
IT「ぇぇええええ! マジか!」
トム「でも、母ちゃんスゲーおこってさ! オレにもそれゼッタイ人には言うな! って……」
IT「そりゃ、トムの母ちゃんおこってとうぜんだよな! サイテーだな、あののぞきババア!」
ビビ「あ、ピーピングだ!」
IT「おい、何勝手にしゃべってんだよ! てか、何だそれ?」
ビビ「のぞきおばさんがいるママ友のグループ名」
IT「どうでもいいわ! だまって絵書いてろよ!」
そう言って話を戻そうとトムの席へと顔を向けようとしていたITだったが、何か可笑しな違和感に顎の先だけトムの方に向けるが頭が残り首を傾げた状態に……
そんなITの違和感の正体が不意に背後から声をかけて来た。
先生「そうだな。黙って絵を描いていような!」
IT「……はい」