3時間目
授業終わりに先生に呼ばれ、ネチネチとした説教を聞かされた挙げ句に宿題を増やされたITとトムは、話す気力も例の記憶も失くしてしまったのか静かにそれぞれの席へと戻って行った。
ビビはといえば、何故最低と言われたのかにも解らずに、ケラケラ笑って二人の元へと向かったが、二人共に席を立たずにいる事からドッチに行こうか迷っていた。
ちなつ「ジャマなんだけど」
脇に掛けたトートバッグから絵の具セットを出そうとするも、ビビが立ち止まっていて取るに取れず数十秒程は待っていた。
ビビ「え? あ、ごめーん」
そう言ってどいたビビは、クラスの男子から許した顔を向けられた気に、少し安堵していた。
けれどそれは許しでは無く、脱落者への微笑みだと気付く事も無く。
今日のトムは相変わらず暗くて近寄りたくない感じがしてITの方を向くビビだったが、授業前のあの眼光が気になって一人で行くのに気が退けた。
どいたは良いけど行き場がなくて戻るビビ。
――KIIINNKOOONNKAAANNKOOONN――
図工の時間
普段なら校庭の花壇やらにも出て自由に行動出来る事も多いが、今日は雨。
班の机を給食時間みたいに合わせて、先生が持って来た何だかよく分らない色の剥げたりんごやバナナの置き物を班に一つをみんなで描けと配って回る。
〈つまんない〉
心一つにみんなが思う物足りなさに、誰かと思えばITが手を挙げた。
先生「何だ?」
IT「両方書きたいんで5ハンと6パン合体してもいいですか?」
唐突なITの出来た意見にみんなが戸惑う。
先生「おぉぉ、おう! いいぞ。何だ、巻野は絵を描くのが好きなのか?」
IT「いや、りんごとバナナが書きたいだけです」
先生「……そっか、あぁじゃあみんな描きたい物が在る所に行って描いていいぞ!」
喜び席を移動する生徒達は、勿論仲の良い友達とお喋りしたいから。
ITの機転が利いて、トムの元にITとビビが集まり、窓側後ろの6班の机には三人組と他女子2人の計5人。
ノッポのビビは座高が高いからと黒板側に座らせ先生の目隠しに、ITが教室全体を見渡せる窓側に座り、トムは元の一番後ろの席で机を動かす事もなくそこに居た。
最初は絵を描いてる振りに先生の目を盜みつつ、コソコソ話が出来る程度にまでなった辺りでITが口火を切った。
IT「で、トム例の話は?」
最初からそれが聞きたくて来たのくらい解ってただろうに、本人が忘れていたのか不意に聞かれたような反応をするトム。
トム「……あ、おぉ。あれな!」
ビビ「おもらしトム」
ITが何も言わずにビビの絵の具セットから緑を取ると源液そのままビビの画用紙に塗りたくる。
ビビ「あ、何すん?」
IT「ウザい。で、トム!」
ビビが緑をどうするか悩む中、トムがようやく覚悟を決めて口を開いた。
トム「オレさあ、本当は父ちゃんの子じゃないんだってさ!」
え? という顔をするしか出来ないITとビビ。
IT「……え、と、だって……まあ」
ビビ「オレもパパはオレのパパじゃないぜ!」
トム「ああ、それは知ってる。お前の父ちゃん外人なのに、お前ブタだもんな」
IT「それはオレも知ってた」
何となく気不味さは消えたが腑に落ちないITが思い切って聞いてみる。
IT「でも、何で、どうやって知ったんだよ?」
トム「ウチの近所ののぞきババア知ってるだろ?」
IT「ああ、あのキモいしゃべり方の?」
ビビ「それ、ウチのママ友だろ?」
トム「知らね! そうなの?」
IT「ビビがウザいのそれのせいか!」
ビビ「いや、オレかんけいねえし! ママが入ってる何かの」
IT「ウザい! ビビの話なんかどうでもいいよ! そんで、トム」
トム「ああ、そののぞきババアがさ、他のオバチャン達に話してんの聞いちゃったんだよ」
IT「お前の父ちゃんの話?」
トム「……うん。オレの本当の父ちゃんの話をな」
急に暗くなるトムとIT。
性質の悪いババアは何処にでも居るけど、他人の家のプライベートな話を何が楽しくて近所中に話して悦に入るのか、聞いてて気分が悪くなる以外にない。
ビビ「それで、トムのパパは何人なの?」
その問いに今日一番の重苦しい顔を見せたトムに、ITも息を呑む。
トム「ゼッタイ言うなよ!」
のぞきババアが近所中にばら撒いているのに内緒話にする意味が解らないが、そこに気付かぬ三人にとっては重大なるトムの思いに答えようと首肯いていた。
トム「オレ、帝王の子供なんだって!」
ビビ「……テイオウって?」
IT「どっかの王だろ!」
自分で言っておいて今更に、帝王のイメージはゲームやアニメの中で知るヤバい奴を頭に描き始めれば……
窓側後ろの6班の席から数名の怒号が漏れた。
「……ぇぇええええええええっ???」