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結び


 次の日。月曜日。時刻は20時。


 外は冬至を過ぎたというのにひどく冷気が漂っている。


 俺は学校を終了後、やるべき義務を果たした後、1度自宅に帰る。


 自室の中に適当に荷物を投げると、足早に自宅の廊下に向かう。


「どうしたの宏君。こんな時間にバタバタして」


 お母さんがこちらを気にする。


 今は遅めの食事の準備をしているようだ。


「ちょっと。用事があってね!」


 俺は視線だけお母さんによこす。


 お母さんは前髪を軽くいじると澄んだ瞳を作る。


「そう。じゃあ、頑張ってね。ご飯用意して待ってるから」


「うん。わかった。できるだけ早く帰る!」


 お母さんはおそらく俺のこれからの行動を理解したのだから。


 だから、この時間でも快く外出を許可してくれたのだろう。


 俺は制服のまま靴箱に入った靴を取り出すと、勢いよくドアを引く。


 そして、駆け足で近所の家に到着する。白を基調とした一軒家が今では太陽の不在のためか、暗く陰りがある。


 俺は1度その一軒家のドアの前で立ち止まると、深く深呼吸をする。


「ふぅーーーー」


 息が体内からゆっくり吐き出される。それと同時に、お腹のへこむ感覚が生まれる。


「よし!行くぞ!!」


 この行いは今日の放課後において2回も実施された。


 ピーンポーーン。


 ドアフォンから効果音が放出される。


 数秒程して。


「はい」


 聞き覚えのある声はドアフォンから吐き出される。


「なに?なにか用?」


 声の主はいつもの凛とした声を用いてドアフォン越しからそう問い掛けてくる。


「ああ。伝えたいことがあるんだ。今、ドアの目の前にいるから、ちょっと出てきてくれないかな?」


 俺はドアフォンに顔を接近させる。


「・・・・・。わかった。ちょっと待ってて・・・」


 ドアフォンの電源の切れる音がすると同時に、俺はドアフォンから離れる。


 ガタンっと音がすると、ドアの内側の方から電気の光が誕生し、そのすぐ後にドアが開け放たれる。


 肌色のコートにピンクのカーディガン、濃い茶色のジーパンを身に着けた女性によってそのドアは閉められた。


「ごめんね香恋。寒いよね」


 俺は無意識に笑顔を示す。


「ううん。大丈夫。それで用はなに?」


 香恋の表情からは緊張が垣間見える。


 彼女も結末はどうであれ、おおよその見当は付いているのだろう。


「・・・」


 2人の間で静寂な間が生まれる。居心地の悪く、心情に悪い間。


 心臓の音が鳴りやまない。


 ドクンッドクンッと俺自身を攻撃しているかのように。


「香恋。香恋!」


 俺は1度俯いてから再び顔を上げる。目を大きく見開いた香恋の瞳を捉える。


「遅くなってごめん!」


 俺は深々と頭を下げる。


「何も知らない人間にとってはたった1日かもしれないけど、待っている人間にとってはすごい長かったと思う」


 俺は誠心誠意を込めて言葉を紡ぐ。


「それで、返事をさせて欲しい」


 俺は頭を上げる。


 香恋は身構えるかの如く口をきつく結び、両腕を胸の前でクロスさせる。


 その光景は自分の身体を抱えているようにも見える。


 俺は呼吸を整える。


 緊張からか寒冷なのに額には汗が多量に浮かぶ。それが契機となり身体中に熱が篭る。


 まるで、熱いお風呂に浸かっている感覚だ。


「香恋。・・・俺も香恋のことが好きだ。本当に好きだ!だから、俺と付き合ってください」


 俺はかつてない真剣な眼差しを露わにする。


 それは彼女を決して離さない。


 香恋は頰を紅潮させ、目を俺から逸らす。


 そして、そのまま目線を地面に滞在させる。


「・・・いやだ」


 香恋は弱々しい小さな声でつぶやく。


「えっ・・」


 俺は目を剥き、焦って口を半開きにさせてしまう。


 マジか。俺フラれたのか。やっぱり、待たせたからかな。


「・・今のままじゃ付き合えない。長い間待たせたんだから、本気で好きかを行動で示してくれないと・・」


 香恋は目線を下方から少し上げる。


 なるほど。これは試されているな。ここは男としてどーん行かないと。


「わかった。行動で示すよ!!」


 俺は香恋に接近する。


 2人な距離がゼロになると、俺は香恋の額や頬に軽く当たる髪を彼女の耳に掛ける。


「ちょ、ちょっと待って敦宏。な、なんかそれは速い気がする」


 香恋が慌てながら何かを伝えようとしているが、俺には聞こえない。現在、そのような精神状態ではない。


「んっ!?」


 香恋の吐息が俺の唇を軽く撫でる。


 暖かい温もりを感じた後、一度、香恋の唇から自身の唇を遠ざけ、瞳を閉じて、再び唇を塞ぐ。


「んんっ!?」


 香恋から普段聞けない声が漏れる。


 唇から香恋の体温が上昇していることが知覚できる。


 どのぐらい唇を合わせていただろうか。


 それは短い時間だったかもしれないし、案外、長かったかもしれない。


「プハッ」


 俺と香恋の唇の距離は拡大する。


 身体は酸素を求めつつ、俺は香恋の瞳を一直線に見つめる。


 彼女の瞳は鮮やかに潤んでおり、頬はりんごと遜色ないぐらい真っ赤である。


「こ、これでいい?」


 恥ずかしさと不安から確認を取ってしまう。


「・・・うん。・・・うん」


 香恋は頬の色はそのまま、小刻みに頭を数回反復させて返事をした。


 外の気温は非常に低い中、俺と香恋の体感温度は他者とは異なる熱さを内在する。


 まるで、別次元に身体を預けているかと錯覚するほどに。




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