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睡眠不足



 香恋に告白された後、俺は返事を出さなかった。


 いや、返事を出せなかったのが正しいだろう。香恋もそれを見越していたのか、返事はすぐ出なくてもいいと言ってくれた。


 俺は香恋が帰った後、入浴を済ませ、いつもより2時間程早くベッドに入る。


 とにかく、何も考えられない状況に身を置きたかった。


 電気が消されたことで部屋が暗くなり、静寂な空気感が自室に流れる。


 俺はそんな中、目を閉じて眠りに着こうとする。


 3時間後。時刻は午前2時。


 全然眠れない。逆に時間が経過する度に目が冴えている気がする。


 内心の動揺からか落ち着かず、とても寝れる状態ではない。


 その後、サウンドを流したり、羊を数えたがそれらの効果は発揮されなかった。


        •••


 日付が変わり、2月15日土曜日。時刻は午前7時30分。

 

 最終的に、俺は一睡もできなかった。


 外はベッドに入ったときと大きく異なった形となり、その証拠にカーテンから日の光がわずかに差し込んでいた。


 俺はとうとう観念し、ベッドから身体を起こす。


 いつも感じる身体の固まりが一切ない。


 俺は寝間着から部屋着に着替え、自室を退出する。


 通常通り階段を降り、リビングに到着する。


 リビングからすぐ近くにあるキッチンではお母さんが朝食の準備をしていた。


「あら、宏君!おはよう。自分1人で起きてくるなんて珍しいわね。って、どうしたのその目!?」


 お母さんは俺と目が合うと準備そっちのけて駆け寄ってくる。


 俺の頬に右手を当て、入念に目の状態を確認する。


「ちょっと•••寝つけなくて」


「大丈夫!何かあったの?誰かに嫌なことされたの?」


 お母さんが心底心配そうな表情をこちらに向ける。


「何もないよ。ただ寝れなかっただけだよ」


 俺は無理やり笑顔を作り、お母さんを安心させるよう試みる。


 俺で心配されないだろうと内心思っていると、突如、お母さんに抱きしめられる。


 柔らかい感触が頭に伝わる。


「宏君。無理したらダメよ。作った笑顔なのはバレバレなんだから」


 そう言い、お母さんは俺の腰に回した腕に力を込める。


 苦しくない程よい締めつけ。


 俺はその力具合とお母さんの優しさに安堵し、身体全体から力が抜ける。


「•••お母さん」


 1言つぶやき、お母さんの胸に身を委ねた。


 数分後、俺はお母さんに昨日起こったことを赤裸々に話した。


 朝本さんに告白されたこと。夏都さんに告白されたこと。香恋に告白されたこと。その結果、ひどく心が動揺し、その影響で寝付けなかったこと。


 すべてを話した。


「それは、確かに動揺するわね」


 うんうんっとお母さんは何度か頭を縦に振る。


「情けない話だけど、動揺した上、まだ3人に返事をしていないんだ」


 俺は顔を俯ける。


 リビングの床が目に入る。


「宏君!」


 お母さんの声に反応し、肩をビクッとしてしまう。


「残念ながら、息子の悩みを私が解決することはできないわ。本当にこれは残念」


 お母さんは真剣な表情をこちらに向ける。


「だから、宏君が決断しなければならないのよ。そのために、自分の気持ちに正直になりなさい。宏君が本当に好きなのは誰なのかを良く考えてね」


 自分の気持ちに正直になる。


 お母さんの声が耳に入って数秒後、この言葉だけが俺の脳内で幾度となく反芻した。

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