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値千金?

「女子の前でカッコつけてどういうつもりだ?」


 山西先輩は俺に向かってそう聞いてくる。


 顔には出てないが俺に対してかなり憤りを感じているのだろう。


 そのため、声には冷たさと棘があった。


「まさか、カッコつけてなんていませんよ」


 俺は思っていることを率直に話す。


「じゃあ、なんで俺の邪魔をした?」


 山西先輩は俺の言ったことが理解できなかったのか、次なる質問をしてくる。


「朝本さんが困っているのが見ていてわかったからです。別に邪魔をしたわけではありませんよ」


 堂々と言葉を返すが、心中には少しの不安が漂っている。やはり、まだ俺は山西先輩のことが恐いのだろう。簡単には克服できない。


「それに、困っている人を見つけて知らないフリをするなんて俺にはできませんから」


 今まで知らないフリを周りからされてきたからこそ出る言葉だった。


「・・そうか・・」


 山西先輩はそう言うと、突如、右足を俺の胸めがけて出してくる。


「っと」


 俺はそれに反応して胸を庇うように右腕で蹴りの衝撃をうける。


 右腕にはビリビリっと痺れるような痛みが走る。胸にくらってたらこの程度では済まなかっただろう。


「よく反応できたな。誉めてやるよ」


 山西先輩は少し関心したのか俺に誉め言葉を送る。


伊達だてに先輩に殴られてきてませんからね」


 俺は薄っすらと笑顔で答える。


「ぐっ」


 右足の太ももに鈍器が当たったような激痛が走る。山西先輩の左足の蹴りがクリーンヒットしたのだ。


 俺は痛みを抑えるかのように蹴られた太ももの部分を抑える。


 だが、抑えた瞬間スキができる。そこを逃さず山西先輩の右ひざが俺の腹に容赦なく入る。


「がはっ」


 腹に激痛が入るのと同時に血でも吐くのではないのかという乾いた感覚が口の中に押し寄せてくる。


「どうした?さっきみたいに反応してみろよ」


 山西先輩は俺が痛みに耐えるために俯いて腹を抑えている最中に右拳を握って俺の頭を遠慮なしで本気で殴る。


 俺は吹っ飛んで地面に転がる。頭は殴られた衝撃で熱く、ズキズキという効果音の似合う痛みがする。


「ぐっ」


 痛みに耐えながら山西先輩を見上げる。


 逆に、山西先輩は冷酷な表情で俺を見下している。


 この状態から俺は何もすることができずボコボコに殴られた。


 そして、5分後。


 俺はボコボコにされうつ伏せ状態で倒れている。


 体中が痛くて動けない。少しでも動かせば痛みが生じ、それは激痛になる。


「あー、すっきりした」


 山西先輩はそう言った後、俺の背中にのっけていた足を退かす。


 退かした足があった場所のほかにも俺の制服には泥や小石が媚びりついている。


 「カシャッ」とシャッタ音が耳に入ってくる。山西先輩が俺の倒れている姿をスマホに撮ったのだろう。部活の仲間やクラスメイトに見せるために。


「明日また、萌叶ちゃんを誘うか」


 山西先輩はそのような独り言をつぶやく。


 こいつ、あれだけ嫌がられててまた誘う気かよ。


 俺は心中で毒づく。


 やはり、この人に勝たなければダメなのかな。


「またな。俺にボコボコにされた。弱い赤森君」


 山西先輩は高笑いしながら路地裏から出ようとして歩を進める。


「待ってくださいよ」


「あ?」


 俺は体中が痛む体を無理やりに起こして立ち上がると、弱った顔をしながらも山西先輩を睨みつける。


 痛みが体のあちこちにある。あー、体、痛い。


 山西先輩は視線だけ俺に寄越している。


 「うおおっ」


 俺は右拳を握って前方の山西先輩にめがけて走って殴りかかる。


 だが、その拳は空を切る。山西先輩に軽く躱されたのだ。


 グシャッと俺の左頬に山西先輩の右ストレートがめり込む。左頬に痛みが発生して歯にまで痛みの衝撃が来る。


「顔、殴っちまった。まあ、いいか」


 山西先輩の口調は軽かった。俺がもう抵抗してこないと思ったのだろう。


 だが、そうはならない。

 

 俺は左頬の痛みを無視して山西先輩の腹めがけて突っこんでいく。


 山西先輩は油断していたのだろう。俺の突っこみを躱すことができなかった。


 俺は体にありったけの力を込める。山西先輩はされるがままの状態だ。


 そして、近くにあった壁に頭をぶつけ山西先輩は気絶する。


 気絶してズルズルと壁に沿って座り込む山西先輩を確認すると、俺は少し離れて倒れこむ。


「はは。ダサッ」


 俺は独り言を吐露する。


 もう動けない。


 まぶたがどんどん重たくなって視界がおぼろげになる。




「いました。こっちです」


 そのような声が耳に入ってきた。これは幻聴だろうか。


 俺にはそれを確認する力がない。


 重たくなっていた瞼は限界に達したのか、完全に閉じられ俺の目の前は真っ暗になった。 

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