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新学期

 季節は9月。長い長い夏休みが終焉を迎え、今日から新学期である。


 生徒たちは、久しぶりに友人と会ったためか、興奮気味に雑談に時間を費やしている。周囲からは、口々に男女の声色が入り乱れるように木霊している。


 俺は、その喧噪の中、1人ぽつりっと自分の席に着き、本を読んでいた。表紙を隠ぺいするようにブックカバーを包装しているため、その紙の質感が手の指にまじまじと感じる。


 時刻は、8時20分。もう少しでホームルームが開始されるだろう。


 俺は、しおりを机の右端に置くと、本に没頭する。俺が今、手に持っている作品は、ラブコメであり、王道とは一線を画したストーリーと設定になっているため、新鮮味を感じられ、おもしろい。


「よ~し。これからホームルームを始めるぞ。全員自分の席に着け!」


 担任が、教室のドアを豪快に開放するなり、教室全体に呼び掛ける。


 ガタンガタンっと物体と物体がぶつかる音が耳を塞いでも聞こえてくる。


 担任は、クラスを一望すると、「一見した感じ、全員いるな」と口走りながら、顔を綻ばせる。そうすると、一応念のためか、生徒の名前を出席番号順に呼び、出席をとる。


 わ行の名字の人間が返事をしたところで、出席は終了する。


「通常なら、ホームルームはここで終了なのだが、今日はそうはいかない」


 担任が決め顔で意味深な発言をする。クラス全員が動揺した表情を出し惜しみなく表に出す。


「みんな驚くなよ。今日からこの学校に籍を置く転校生が今現在、教室の外にいる。そして、これからそいつに自己紹介をしてもらう予定だ」


 一瞬の間を一同が生み出した後、自らその空気の均衡を打ち破る形で、生徒たちの声が絶え間なく渦のように室内にしゃんぼん玉みたいに浮上する。


「どんな人かな」


「男子かな女子かな」


「かわいい女子がいいな」


「王子様のような男子が転校生であって欲しいなー」


 心の中を通して吐き出された言葉が口々に喉を使って生み出される。


「では、入ってくれ」


 担任は周囲の思いを汲み取り、転校生に教室に入るように命令する。


 ガラッと静寂の教室に普段誰もが気に留めることのない音波が身を置いている人間達の鼓膜をやんわりとくすぐる。


 ある男子が戸を跨った。紺色の長い髪、紺色の鮮やかな瞳、小さい鼻、厚い唇をした身長170センチぐらいの背丈をした高青年。顔立ちは非常に整っており、どこを見ても欠点は存在しないように思える。そして、俺は、彼の身体を舐めるように観察している最中、驚愕の表情を包み隠さず出してしまう。


野水大和のみず やまとといいます。これから宜しくお願いします」


 野水となった男子は、黒板に名字と名前を板書する。


 クラス全体が図ったように騒がしくなる。男子女子、両者ともに大はしゃぎだ。


 そのような場の中、俺と転校生の目が偶然合う。転校生は、数秒程度目を見開いた後、絵になる笑顔でこちらに微笑んでくる。


 俺も不自然な笑顔を創る。


 野水大和。中学校の同級生であり、何をやっても完璧にやってしまう男。そして、バスケにおいて格の違いを見せつけてきたバスケ部員。


 この男が転校してきて、俺の学校生活は大きく変化することになるが、このときはそのようなことなど思いつきもしなかった。

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