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体力測定

「はぁっはぁっ・・・・」


 石灰の粉で引かれたラインに沿い、俺は全力疾走で走る。


 数秒間、全力疾走をし続け、ゴールと指定されているラインを勢いのまま駆け抜ける。


 ゴールを超えたと認識できた後は、全力疾走をやめ、スピードを徐々に落としていく。その結果、ゴールから1メートル進んだところでスピードが完全に落ちて、身体が立ち止まった状態になる。


 立ち止まった際には、身体を深く前屈みにし、顔を俯かせた上、両膝を手で掴む姿勢を反射的に作ってしまう。全力疾走したためだろう。


 立ち止まった直後、身体全体から汗が噴出し、身体が熱い。その上、身体が酸素を欲しているのか、呼吸も「はぁーはぁー」といった荒くなる。その際に、心臓がドクンッドクンッと激しく波打つような音が耳の奥から聞こえる感覚がする。


 数10秒ほど経過すると、呼吸は落ち着きほぼ正常な状態に戻る。そのため、俯いた顔を上げた後に上半身も上げる。


「赤森の50メートルのタイムは7秒7

なー」


 ストップウォッチを右手に持った体育教師がタイムの結果を俺の鼓膜を刺激するには十分すぎるようなやや大きな声でコールをする。


「はーい。わかりました。赤森君のタイムは7秒7っと」


 かわいらしい女性の声が聞こえてくる。


 ・・・え・・?


 場所を移動して次はハンドボール投げの記録を測定する。測定するために、俺は指定された場所に立ち、その場所から精一杯の力を体に乗せて、右手に持ったハンドボールをできるだけ遠方に投げる。


「ふんっ」


 投げた際にそのような声が息と共に口から洩れでた。


 一方、ボールは自分が思った以上に飛ばず、10メートルと書かれたラインを少し超えた地点でボトンッと落下する。


「今の、12メートルね」


 凛として堂々とした声が耳の中に入ってくる。俺はその返答に言葉を返さずに、膝を折り曲げ、身体を前屈みにすることで付近に転がって置かれているボールを両手で手中に収める。それにしてもひどいな。12メートルって。


「相変わらずボール投げは苦手なのね」


 やや棘のある声。うん?



 また、場所が変わり、次はグラウンドに存在する小規模の砂場に俺はいる。面積は9m²程度しかなく、砂場の砂は灰色で手で触れてみると、さらさらしており手触りが良く、気持ちがいい。


 まぁ、それはさておき。俺は立ち幅跳びの記録を測定するため決められたスタート地点に向けて歩を進める。そして、スタート地点に着くなり、両腕を振り子のような形で上下に勢いに任せて振りかぶる。このような動作を行うことによって立ち幅跳びは良い記録が出やすくなるのだ。


  何回か腕を振りかぶることで十分に力を蓄えられたような状態になり、そこから自分なりにタイミングを図る。数秒後、タイミングが掴めたため、両腕をより力強く前に振り上げ、前方に全力でジャンプする。


 身体がふわっと宙に浮き、両足が着地点に突き刺さる。着地した場所には俺の靴の足跡が深く2つでき、足跡ができたため、両足の靴の周りには灰色の砂が散乱した状態になっている。


 俺は足跡が付いたことを認知するなり、その場から離れ、砂場の中から退散する。


 俺が退散してほんの数秒後、記録係?がメジャーを用いて記録を測定してくれる。


「赤森君の記録は2メートル9センチだね」


 かわいらしく幼い声が聞こえてくる。高校生の割には幼い声。


 ・・はい?


          ・・・



「これでお前の体力測定は終了だ」


 体育の先生が俺にそう言葉を掛ける。ここで、一旦、説明するが。俺は山西先輩の件で身体に打撲の怪我を負ったため、体力測定を行う時期に行うことができなかったのだ。そのため、怪我が完治した後、3日前から放課後に個別で体力測定の記録を測定し始めて今日に至る。こういう経緯だ。


「はい。ありがとうございました」


 俺は先生の目をしっかり見て、頭を下げて感謝の言葉を述べる。


 そして、踵を返し、歩を進め、体力測定の片づけに取り掛かろうとする。


 「赤森君、お疲れ様。はい。これ!」


 「敦宏、まぁ、頑張ってたんじゃない」


 片づけに取り掛かろうと歩を進めた直後、2人の女子生徒から声を掛けられた。


 1人は明るいロングのベージュの髪をした女子生徒で、自動販売機で買ったのであろうスポーツドリンクの入った500ミリリットルのペットボトルを満面の笑みをして俺に差し出してきている。


 その一方で、もう1人の女子生徒は、肩にやや掛かるピンク色のボブヘアにやや目つきの悪い女の子だ。この女子生徒は真ピンクのタオルを俺に手渡そうと差し出している。ついでに、その際に女子生徒は俺から目を逸らしている。謎だ?


 いやいや。そんなことはいま関係なくて。

           

           ・・・・ ・・ 

「なんでここにいるの?朝本さんと香恋が」


 俺は率直に感じた疑問を2人に投げ掛ける。このとき、2人の顔に少し緊張が走ったように見えたのは多分、俺の気のせいだろう。


「「なんでって」」


 2人共同じ言葉を口にする。


「ああ、体力測定の手伝いをさせてくれと言っていたぞ」


 俺たちの会話が聞こえていたのか。まだ、付近にいた先生がそのように教えてくれる。


「・・そうなんだ・・」


 ぼやくような独り言のような言葉が反射的に口から洩れた。


 その言葉を聞いた朝本さんと香恋は居心地が悪そうに2人共、俺から目を逸らす。

えっ、なんで。見たくないのかな。


「それにしても・・、なんであんたがここにいるのよ」


 香恋が朝本さんに視線を向け、突っ掛かるみたいにそう問いただす。


「私は赤森君のサポートをするためにここに来たの」


 朝本さんはいつもよりやや強い語気でそう言い切る。俺のサポートって。それはこちらとしては嬉しくて堪らない言葉だ。


「それで、あなたは?」


 朝本さんも香恋に先ほどと同じような疑問を問い掛ける。


「私は・・」


 香恋は言葉に詰まったのか、何かを言おうとして口籠った。


「私はたまたまよ。たまたま」


 香恋の口調は普段とは異なる。堂々としたものではなく、歯切れが悪いというか、釈然としていない口調だ。香恋らしく。


「たまたまって?」


 朝本さんは実直な疑問を口にする。ちなみに、俺も同様の疑問が脳裏に

ポンッと浮かび上がるように発生していた。


「たまたまここの近くを通っていたら、何かをしようとしている敦宏を見かけたからよ」


 香恋は疑問に理由を付与して答える。それにしても、今、朝本さんと口論?をしている香恋は香恋らしくないな。いつもの凛として堂々とした態度が今は、存在していないからだ。


 このような香恋と朝本さんとの掛け合いを黙視していると、背後からちょんちょんっと軽く右肩をタップするように触られる。肩に触れたものは何かは不明だが、柔らかいものだということは今の時点で理解できる。


「うん?」


 俺は身体全体を背後に振り向かせ、同伴するように顔面も同じ方向に向ける。


「あ、赤森君。これ・・」


 俺が振り向いた先には、名都さんがちょこんっと立っていた。青色のスクイズボトルと茶色のタオルを右手と左手に所持した状態で。


「どうしたの?」


 それを視認した上で、そう尋ねる。


「これ・・、受け取って欲しい」


 名都さんは上目遣いで俺の目を見ながら、スクイズボトルとタオルを俺の胸の前に差し出してくる。


「このボトルキャップ部活のじゃないのかな?」


 俺は見覚えのあるスクイズボトルを指差す。


「うん!気にしないで。他にもたくさんあるから」


 名都さんは笑顔でそう答える。


「わかった。・・ありがとう」


 俺は戸惑いながらも名都さんからスクイズボトルとタオルを両手を使って受け取る。ここで、戸惑った理由はバスケ部でもない俺が部活の備品を使用して良いのか、悪いのかの2つの選択で悩んだからだ。


「いえいえ」


 名都さんは俺が受け取ったのを認知するなり、笑顔でそのようなことを述べる。


 かわいいな。おい。


「「あっ!」」


 背後から何かに驚いた高い声が鼓膜を刺激する。そのためか、俺はその声に反応して無意識に背後を振り返る。


 背後を振り返ると、朝本さんと香恋は2人共、名都さんの方に視線を向けていた。悔しそうな顔をして。香恋なんて目つきが悪いからか、少々睨んでいるようにも見えるのは、俺の気のせいだろう。絶対そうだ。


 てか、なんで2人共、悔しそうな表情をしているんだ?


 それから数秒して。


「私、これからマネージャーの仕事があるんだ。だから、またね」


 名都さんは左手をひらひらっと振りながら俺にそう告げると、駆け足で今いるグラウンドから出ていく。なんかそそくさに出て行ったな。


 名都さんが退出して、朝本さんと香恋は数秒間、黙っていた。いや、言葉が出なかったという方が正しいのだろう。


「とにかく、・・・これ」


 香恋が沈黙を破り、俺にタオルを押し付けるように渡してくる。俺、両手ふさがってるんだけどな。


「私も部活だから」


 香恋はそう言うと、堂々としたいつもの態度でグラウンドの入り口に歩を進めていく。ついでに、香恋に渡されたタオルは名都さんに渡されたスクイズボトルの上に乗っかった形になってる。


「赤森君。はい!」


香恋がこの場から立ち去った後、朝本さんは俺に近寄って来るなり、俺の左ほっぺにぴとッと軽くペットボトルを押し当ててくる。ペットボトルの温度は低く、非常に冷たかった。だが、体力測定をした後の俺にとっては冷たいけど、気持ちよかった。


「赤森君、本当にお疲れ様」


 朝本さんはそう言って右手に所持していたペットボトルを俺に渡す。両手は塞がっているので、積み重ねる形で俺の手に置かれる。


 朝本さんも用事があるのか、事後にグラウンドから退出していった。歩を進めている際に、嬉しそうな表情を顔に出して。


 俺が1人ぼっちにになり、この場に呆然と佇んだ状態になる。まだ、片付けも残っている。まぁ、すぐに済ませられるんだけどね。


 それにしても。これ、どうしよう。手に持ったペットボトルやタオルに視線を向けて、そのようなことを心中でぼやく。


 なんとかしないといけないよね?これ。 

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