第二十五話 楽しい組合の作り方 その二
屑拾いは基本的に金にがめついところがある。組合費を払いたくないから冒険者じゃなく屑拾いを選んだという輩もいるとかいないとか。そんな噂が立つような奴らが、それも名のあるやつらが集まっているのだ。
「組合費をとる……だと……?」
こんな声が上がっても不思議ではない。
「そら無償で事務所は借りれないし、事務員は雇えんからな。それに市への寄付金も必要だから……月々5000エンくらいと考えている」
「高えええんだよおおおおおおおお!」
ローエングラムを除くすべての屑拾いたちが同時に叫んだ。雷にも動じなかったガラス窓がびりびりと震えた。
「冒険者組合ですら登録料だけだぞ!いくら顔役の言うことでも仕事の斡旋もないのに月々の登録料ってふざけてんのか⁉」
金髪の屑拾いが円卓をばんばん叩きながら言い放つ。
それを呼び水にして、屑拾いたちがローエングラムそっちのけで口々に好きなことを言い始める。
「登録料だけじゃないだろ。依頼料からなんぼかひいてるはずだ。そもそも屑拾いって何人いたっけ?50人くらいとしても50×5000で月250,000エン……人件費と賃料考えたら妥当?」
「50人できくか?モグリみたいなやつも含めたらもっとじゃね?」
「組合の業務に戦利品の売買を一任するとかつければいいだろ?業者を統一してマージンで5%くらいとるとか。んでそれを運営費に充てて」
「いやそれ絶対に闇で売りさばくやつ出るわー。というか俺がそれするわー」
「てかパン屋とかは品質とか規格、価格の統一とかを組合主導で統制したりするだろ。じゃあそもそも屑拾いが組合作ったところで利権とかって確保し続けられるのか?冒険者はダンジョンとか資格がいらない隙間産業とかの利権があるじゃん」
「あーダンジョンね。あれいいよねー。でっかい蟹以外ならそんなにヤバいやつなんていないんだし。それに比べて旧市場にいた魚型のやつはヤバかったわ。魚に手足が生えてる謎仕様だったわ。普通に強かったし」
「うわーキモっ!」
「ええいお前ら!好き勝手に話すんじゃない!俺はまじめに建設的な議論をしたくて集めたんだぞ!」
収拾が利かなくなりつつある話し合いに、さすがに我慢の限界らしく額に青筋を浮かべてローエングラムが一喝する。しかしまるで効果がない。とはいえ中には雑談から組合に関する議論に発展している者もいる。
「やはり廃墟街産の物の売買が利権だな。そうすると魔術師組合の調査隊がたまに傭兵を護衛に雇ってるのがめんどうだな」
「組合経由で護衛をだせばいいのでは?そうすれば傭兵を締め出せられるはずです」
「認可登録制度でなりすましの溝さらいを根絶できるんじゃないか?登録時に一緒に登録証とか配るなりなんなりして」
「そうなるとやっぱり売買先を統一するべきってことでは?そして報酬を分配してお給金みたいな形で法人経営みたいにするとか」
「んなもん誰が賛同するか!」
おうやんのかこのやろーと取っ組み合いを始める屑拾い二人を尻目に、聞くに堪えない己の欲望丸出しの会話がなされている。
「俺は美人な受付嬢は絶対に譲らないぞ!」
「冒険者組合にもいねえよ」
「考えても見給え、これは顔役による利権の独占へとつながるぞ」
「独占云々はどうでもいい。美人受付嬢を雇うなら俺は組合作るのに大賛成だ」
田中は頬杖をついて興味なさそうに、それでも一応は会話に耳を傾けている。どう転んでも自身の置き方が変わりそうだ。
美人受付嬢はさておき、やはり目下最大の障壁となるのが組合費だ。この金の用途と金額に合意ができず、あれやこれやと金策方法が飛び交っている。
田中自身も月ごとに組合費5000エンは高いと思う。しかし冒険者と違って依頼というものがない屑拾いから、安定して組合の運営費用を集めるためには一番適当な集金方法だろう。しかしやっぱり高いし、払えない者も必ず出てくる。そしてそういう輩は溝さらいとなって牙を剥いてくる。
さすれば今取っ組み合っている屑拾いが言うように売買ルートを統一して戦利品売却時の何%を組合運営費に充てる……新人屑拾いにはいいかもしれないけど馴染みの取引先をもつベテラン勢が認めるわけがない。
美人受付嬢はどうでもいいとして。
ちらりとローエングラムを盗み見てみる。紛糾する会議を前に頭を抱えて微動だにしないでいる。せっかく用意したプレゼン用の木綿紙も初めの一ページ目だけで無用の長物となっている。というか誰も見ていない。
――あれ、これ詰んでないか?
トイレとかなんとか適当な理由をでっちあげて席を外した隙に帰ろうかなあ、と田中が本気で思い始めたとき――
貸し会議室の扉が勢いよく開いた。
貸し会議室の扉が勢いよく開かれ、その場にいる屑拾い全員の視線が向けられた。視線を好き放題に集めているのは眼鏡をかけた堅物そうな若い女である。肩で荒く息をしながら、大股で円卓まで近寄ってくると、
「何勝手に組合つくろうとしているんですかああああ!」
開口一番耳を塞がんばかりの大声でそう怒鳴り込んできた。
それには百戦錬磨の顔役といえど戸惑いを隠せない。目を数回しばたかせて、
「いや、申請前の打ち合わせなんだが……」と言うだけで精一杯である。
「んなこと関係ないでしょう!要するにあんたら組合を作ろうと画策してるんでしょうが!」
円卓に勢いよく拳を叩きつけた。どうやらこの女、この会議を潰しに来たようである。さすがの顔役も押されてばかりではいられない。居住まいを正して真正面から女を見据える。
「画策どうこうはさておきその前に貴女はどこの誰かな?ここは貸し切りのはずだが」
ようやく自分が名前も言わずに乗り込んできたことに気が付いたのか、女は軽く咳ばらいをする。
「えー、ごっほん。私はエンディミオン管理局管理課のエルディットと言います。担当は主に当市の組合の管理などを。自己紹介はそれくらいで――とにかくあなた方は自分たちが何をしようとしているかわかっているのですか⁉」
これは……とてつもなくめんどくさいタイプの人だ。しかもそれが役人ときた日には無碍にもできない。田中は内心顔役に同情した。同時に話がひと段落するまで絶対に口を挟まないことを心に決めた。
管理局のエルディットは一人で勝手にますますヒートアップしていく。
「そもそもあなたたち屑拾いが組合を作ったところでメリットがないですよ!私の仕事が増えるデメリットしかありません!」
「それ単に仕事したくないだけじゃ……」
たまらず口を開いた金髪の屑拾いだが、エルディットにキッと睨みつけられそれ以上は言葉にならない。顔役からターゲットが変わった瞬間である。
「それは関係ありません!管理業務の円滑化のために無駄な組合の設立を防ぐのも仕事なのですから!」
この役人、堅物そうな印象通りで無駄に勢いと主張が強い。めんどくせえ。真正面から相手するにはとてもめんどくせえ役人だ。
顔役が解せぬという風に顔をしかめた。エルディットが言うところの「無駄な組合」というのが引っかかっているようだ。
「そんなに無駄かねえ?利権を守るために労働者が徒党を組むのは至って自然だと思うんだが」
しかし、エルディットは大きなため息で返答する。心底呆れかえっている。
「あのですね、廃墟街も別にあなたたちのものではないでしょう?利権というなら廃墟街の整備やそこから脱走するミュータントの駆除が義務となりますよ。市からの要請があればちゃんと駆除します?というか人足集められます?」
彼女の言葉の破壊力は想像を絶するものであった。
会議室にいる誰もが、田中を含めて思わず呻いてしまうほどに――
つづく




