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第二十一話 ダンジョンに巣食うもの(下) その三

「企んでいるも何も、あれは何人もの魔法使いを斬り倒した兵器だ。墓標のままにしておくのはもったいない。嬢ちゃんもそう思わないか?」


 ネクロマンサーはそれが当たり前のように、安息日に教会へお祈りに行く理由を聞かれた学生のように平然と言った。刃物を突き付けられている人の口ぶりではなかった。背を向けているせいでわからないが、もしかしたら口元には笑みすら浮かんでいるかもしれない。


 違う――違うのだ。キャシーの様相がより一層険しいものになる。お前たちはその兵器をいったい何に使おうと考えているのか?


「思いません。セオリーとしてこんなところで大層に飾られているものは触らずそっとしておいたほうが世のため人のためになると思います」

「平行線だな。まあそういうときにうってつけの解決方法がある」

「ふーん、興味がありますね。いったいなんですか?」

「暴力だ」


 直感だった。


 キャシー左足を軸に、反動をつけて勢いよく振り返りながらバルディッシュを横に振るった。金属同士がぶつかり合う火花とともに魔力の光が散る。身の丈2メートルはあろう大男が鉄の塊のような鉈でバルディッシュの一撃を受け止めていた。殺気を感じられなかったのも当然だ。自我を持たないフレッシュゴーレムが殺気を放つわけがない。


 刃の押し合いをするキャシーの首筋に、音もなく白金の刃が這う。


 キャシーは顔を動かさず、横目で見る。いつの間にか細身の剣を持つ男がいた。フレッシュゴーレムと比べると小柄で貧相な体つきだが、それは比較対象がおかしいだけだ。顔などは見えないが少なくとも人間ではないことくらいはわかる。リビングデッドの類だろう。


「嬢ちゃん、魔術師相手に背中なんて取らないほうがいいぞ。なぜなら見えないところで印を組んでいるかもしれないからな」


 ニヤリと意地悪く笑って見せる。


 高位の魔術師しか扱えない転送魔術に加えて、印のみによる無声発動。


 やはり――並みの魔術師ではない。魔術師組合にもこれほどの手練れはいるかどうか怪しい。


「ゾンビは……全滅したんじゃ?」


 キャシーはフレッシュゴーレムたちの隙を伺いつつネクロマンサーに尋ねる。


「嬢ちゃんのご主人さまが言ってただろ。切り札は最後まで取っとくものだって。おっと動くな。妙な真似はしないほうがお互いのためだぞ。さすがのアンデッドも首を刎ねられたら死にはしなくても、再生には時間がかかるだろ?それこそここからご主人さまを逃がすってときに足手まといになるぞ」


 反論する余地もない。


 前回の戦闘経験から言って、一対一でなら強力な魔力強化をされた武器防具のないフレッシュゴーレムなんて怖くはない。むしろ敏捷性の面からもう一体のリビングデッドのほうが厄介そうである。普通のゾンビは人間のように滑らかな動作で剣を扱えない。ましてや首元ぎりぎりで刃を止めるなんて精密動作などできやしない。切り札というからには特殊な個体なのだろう。しかもこの非常に不利な条件下で二体同時に相手しなければならないと考えると、答えはおのずと導き出せる。


 キャシーはバルディッシュを地面に突き刺し、両手を上げた。


「これでよろしくて?」

「よーしいい子だ。だけど駄賃は我慢してくれ」


 キャシーに動く意思がないことを確認するとネクロマンサーは今度こそステージへと上がった。


 懐から石のような塊を取りだした。表面にはルーン文字が刻まれておりマジックアイテムであることは確かだ。キャシーは初め煙幕かなと思ったが、こんなところで使っても何の意味もないので多分違う。


 ネクロマンサーはその塊を剣に向かって投げた。すると、さっきキャシーが触れようとした時よりも数倍激しい紫電が視界を埋め、ブォンという虫の羽音のような音が部屋中に響き渡った。


 あまりの光量に視界の端がチカチカする。


 今度は古びた赤い布で縛り上げられた骨を取り出した。骨の表面には同じくルーン文字が刻まれている。ネクロマンサーはその布をほどき、剣の近くへと投げた。骨が空中で幾つにも分解し、その一つ一つが蠢き肥大化する。それらが一か所に集まり顫動しながら人型を形成していく。人型といっても人体模型のようなものではなく、様々な骨が人っぽい形に集まっているというのが正しい。そうして出来上がった骨の集合体をスケルトンと呼んでいいのかは定かではないが死に戻りには違いないので便宜上そう呼称する。


 まともな精神状態の人間が作るリビングデッドとはかけ離れている。一言で言い表すと、


「すげーキモい」


 キャシーの喉に刃が薄皮一枚分めり込んだ。


「口を慎みたまえ。あと人が気にしていることを声に出すのは考えものだぞ」


 お前もその見た目を気にしてたのかよ!


「死体を必要としないでどこにでも簡易的に呼び出せるリビングデッドとしてならなかなかいい線いってると思うんだが、いかんせん駆動面や耐久面を考えるとどうしても人の形とゆーのは脆弱すぎる。しかしスケルトンと言えば人型と相場が決まっている!そこんところを補った結果がこの外見なのだよ。それはさておき、さあ行くのだスケルトンよ。その剣を回収しろ!」


 ネクロマンサーの指示通りスケルトンは緩慢な動作で手を伸ばし、しかし今度は紫電が走ることはなかった。何の障害も無くスケルトンは剣を引き抜き、高らかに掲げた。


 その剣に妙な既視感を覚えた。


 両手で扱うには少し短い剣身。びっしりと刻まれたルーン文字。しかし魔力で強化をされていないようで、代わりに艶消しで黒くコーティングされている。自分が世界の理から外れている存在だからこそわかる。あの剣もまたこの世界の道理から外れている過去の遺物だ。


 スケルトンは剣を持ったまま恭しくネクロマンサーの傍にたたずむ。


「よし、任務成功。これでお上も満足いくだろ」


 剣を一瞥し、ネクロマンサーは達成感も露わにつぶやいた。


 そして、


『Warning! Avoid the risk of ――』


 警告を知らせる無機質な声が遺跡全体に響き渡ったのは突然のことであった。

つづく

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