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第十七話 ダウジングのススメ その三

「ご主人も屑拾いなのですから同じ穴のムジナではありませんか?」


 キャシーが小声で言ってくるが違う、そうじゃない、何度も言うようだが自分は魔術装置を探しているだけで決して屑拾いではない。そこのところをそろそろ理解してほしい。


「ご主人も頑固ですね。ついでに金目の物をさがしてるんですから一緒じゃないですか。それこそマリィさんのダウジング論と一緒ですよ」

「どこが一緒なんだよ」


 何を言っても無駄なんだろうと半ば思いつつも脱力気味に田中は反論する。今まで何度も繰り返してきた言い合いである。


「一緒だと思いますけどねえ……あ、マリィさん、一人で勝手に行かないでください!」


 いつのまにかマリオンは少し離れたところの荒れ果てた店舗跡の中へ入ろうとしていた。完全に田中たちのことなど頭から抜けているようだ。見つけられるのがあまりにもガラクタばっかりだったからだろうか。


 田中とキャシーは小走りでマリオンの後を追いかける。幸いにも念入りにロッドであたりを探索しているからか二人はすぐにマリオンに追い付いた。


 マリオンがダウジングロッドに連れてこられた店舗跡はさんざんに荒らされたような有様であった。屑拾いたちが荒らしたというよりも大昔に荒らされて、現代にいたると言ったほうが適切である。瓦礫やら石ころやらが、店舗の内側へ向かって飛んできたかのように散らばっている。さっきまで見てきたどの廃墟よりも酷いありさまだ。


 いったいどんな凄惨な出来事がこの町を襲ったのかは、田中には想像がつかない。


「で、今度はどこの瓦礫の下に……埋まってるんですか?」

「今小さくゴミって言わなかった?絶対にゴミって言ったじゃろ⁉」

「気のせいだって。そんなこと言ってると本当にゴミが出てくるぞ。また」


 マリオンは重いため息をついた。そして恨めしそうに田中を見る。


「まったく初対面だというのになんという態度じゃ。同業者が関わり合いになるのを避けようとするのは当然じゃな」

「マジで避けるような風潮があったのかよ。まあいい、そのほうが都合がいいしな」

「ふむ、しかし一人で……いや、二人か。二人でやっていくとしても助け合いも時には肝心、きゃっ!」


 短く可愛らしい声が下かと思うと店の奥にある金属製の扉の前で、突然ダウジングロッドがほぼ垂直に跳ね上がった。さっきまでとは違う激しい反応に思わずマリオンも目を丸くする。というか今の驚きの声はマリオンのか?だとするとその古めかしい口調はもしかして作り物か。


「そんなことよりも、この扉の向こうじゃ。反応が凄まじすぎる」


 田中の疑問をきっぱりと無視してマリオンは金属製の扉を見据えた。おそらく位置からしてスタッフルームだったのだろう。しかし、これほど店内がまるで爆弾でも爆発したように瓦礫で荒れているというのに、未だ扉が残っているのは異様な光景である。もしかしてものすごく頑丈な扉だったりするのだろうか。


「開けてみればわかるじゃろうて」


 マリオンは残っているのが奇跡なドアノブを掴もうとし――


「……止めるんだ」


 田中が堅い声で制止した。マリオンは伸ばそうとした手を反射的に止め、数歩後ずさる。


「どうしたんじゃ?雰囲気がいきなり変わったんじゃが……」


 戸惑った様子でマリオンは田中を見る。田中はマリオンのことなど眼中にもないのか、その場でしゃがみこむと地面をまさぐり始めた。ペストマスクのクチバシ部分が地面に当たるぐらいまで顔を近づけ何かを探しているようだ。


「え、なんじゃ?どうしたんじゃ?」


 田中からは何も回答が得られないと早々に見切りをつけて、マリオンはキャシーへと視線を移した。キャシーは背負ったバルディッシュの柄に手を伸ばしながら厳しい表情で扉をにらんでいる。どうやら状況を理解していないのはマリオンだけのようだ。


 ようやく田中は顔を上げると、小銃に銃剣を取り付けながら話し始めた。


「地面に足跡がある。人じゃない。たぶん……オークか何か、小型のやつだ。あと扉が開いたり閉まったりした形跡がある。用心しろ」


 視線を扉から外すことなく、田中は装填レバーを引いた。初弾が装填され、グリップを通して魔術回路に火が灯る。どうやら開けずに回れ右という選択肢はないらしい。


 マリオンは足音を殺して再度ドアノブに近づき、ゆっくりと手を伸ばす。


「用心……用心か……はあ。そうじゃな。ここまで来て引き下がったら屑拾いの名折れじゃ!」


 カカッと快活に笑ってからマリオンは一思いに扉を開けた。


 同時に飛び出してくる影が三つ!


 中型犬よりさらに一回り小さい体格のオークが小銃を構えたまま微動だにしない田中の脇を、必死の形相で通り抜けていく。そのうち一匹のオークが赤い閃光めいた軌跡と重なる。頭を斬り飛ばされたオークが勢いを殺すこともできず、鮮血をまき散らしながら壁に激突した。


 キャシーはバルディッシュの刃先を地面に下した。刃に沿って彫られた溝をオークの血が滴っていく。おそろしいまでの切れ味である。


 田中はペストマスクの下で眉をひそめた。オークの挙動が良く知るそれとは異なっていた。


 何か嫌な予感がする。田中は銃口を下げず、扉の向こうに広がる闇を見る。一切の光がない黒。いつかの地下鉄を思い出す。


 ごりっ。


 唐突に何か固いものを砕く音が聞こえた。


 田中は目を凝らして闇を見る。


 ぼんやりと朧げにだが、いくつか濃い影が見える。細長い影だ。その影たちは闇の中で一ヶ所に集まって蠢いている。


 濡れた咀嚼音。


 何かを齧り、啜る。


 田中の額を汗が流れた。


 マリオンが小さくつぶやいた。それが明りの魔術だと気が付き、中断させようとするよりも早く彼女は光を闇の中に放り込んだ。


 魔術の明かりに照らされて、赤黒いオークに群がり、貪り食らう何匹もの長細い蛇のような生き物。


 口元を真っ赤に染めたワームが一斉にこちらを振り向いた。


「扉を閉めろおおおッ!」


 田中が叫ぶよりも早く、ワームたちが扉へと殺到する。


 ざざざざざざざざざざざっ。


 マリオンが血相を変えて扉を閉めようとするがワームのほうが早い。わずかな隙間から恐怖に顔を歪ませるマリオンの喉笛を狙って――


 発砲。


 正面から弾丸を浴びたワームは大きくのけ反る。その隙にマリオンは扉を閉めた。


 閉めると同時に田中は唱えていた魔術を発動させた。


「LOCK!」


 同時に金属製の扉がいくつもの激突音とともに大きく凹んだ。しかし間一髪魔術で施錠された扉はそんな衝撃では開かない。


「ご主人!まだ終わってません!」


 田中はキャシーの声を耳にするなり、弾かれたように振り返った。


 扉を閉めるよりも、田中が発砲するよりも早く、ワームが一匹扉を抜けて廃墟の天井へと飛び出ていたのだ。


 ――いつの間に抜かれていた⁉


 田中は舌打ちし、次弾を装填する。


 田中はこのワームという何のひねりもない名前のバケモノを見るのは初めてだ。ただ廃墟街の暗部に潜む、ごみ処理係とも呼ばれるミュータントだと聞いたことがある。


 大きさはおおよそ2メートルほどで手も足もないヒルやミミズのような姿をしている。ペールオレンジの表皮はぬらりぬらりと白っぽい粘液がまとわりついている。もちろん肉食性で、オークの血で濡れたまるで人のように生えそろった歯が妙な不快感を掻き立てる。

つづく

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