第十七話 ダウジングのススメ その二
マリオンは急に足を止めるとくるりと振り返った。そして再びヘルメットのバイザーを上げると、そこには眉間にくっきりとしわを寄せた彼女の顔。目は深く鋭く、一切の弁解を許してくれそうにはない。
「……お主ら、どうして後を付いてくるのじゃ?」
言葉の一つ一つに警戒心が現れている。人を変質者か何かのように見るのは止めていただきたい。
あの会話の後、キャシーと田中はずっとマリオンの後をつけていた。いや、つけていたというのは語弊がある。全く隠れるそぶりを見せていないからだ。二人はダウジングをするマリオンを堂々と、そして興味津々に眺めていた。
「マリィのおこぼれにでもあずかろうかと」
いけしゃあしゃあと言う田中。
「……やらんぞ。あとマリィじゃなくマリオンじゃ」
「冗談だ。好奇心で見ているだけだから気にするな」
好奇心なのは間違いなく本心である。ダウザーなんて珍しいものが話のタネにならないわけがない。そんなおこぼれだなんて、そんなまさか。考えるわけがないじゃないか!
そんな田中に対して、マリオンは表情にありありと浮かんでいる猜疑深さを隠そうとすらせず、
「おい不審者、私の顔を見て同じことを言ってみろ」
「ソンナノ期待シテナイヨ」
ペストマスクに隠れてはいるが、マリオンは目の前の男が絶対に自分の方を見ていないという確信があった。というかキャシーも意図的に視線を合わそうとしていない点で間違いなく黒である。
マリオンは額を押さえて大きなため息をついた。
「見るだけじゃぞ。邪魔だけはするんじゃないぞ」
いえーいとハイタッチをかわす田中とキャシーを前に、マリオンはもう一度ため息をついた。
もともとは幹線道路だったのだろう、ひび割れて風化しかかっているアスファルトの道路の両脇には廃車を巻き込むようにして木々が好き放題に成長していた。そしてその向こうには荒れ果てたビル群が立ち並んでいる。石とコンクリートしかない灰色の世界に緑が生えているなんて珍しい。
そんな道路脇を、マリオンを先頭に田中たちは歩いていた。
「不思議なことに、ここらでは草木が良く育つんじゃ。栄養もクソもないような場所だというのにな。その分バケモノどももよく集まってくるし、掘り出し物も探せばまだ出てくる……まあガラクタのほうが多いがな」
ずっと不機嫌なままかと思いきや、マリオンは案外よく話しかけてきてくれる。ダウジングロッドが動くたびに小さな感嘆をあげていた二人に、気を良くしているのかもしれない。
今度もダウジングロッドの先端が上へ上へと勝手に動いていく。
ダウジングロッドが導くまま、マリオンは通りに面した一部外壁が崩れている建物へと足を踏み入れた。おそらくもともとは一階部分にコンビニとかが入っていたビルだろう。ただその中はもぬけの殻で商品棚やましてや商品の類は何もない。売り場だった場所には床一面を覆う小さな瓦礫しか残されていなかった。
マリオンはダウジングロッドの先端を睨みつけながら瓦礫の上を歩いていく。と、売り場の中央部に近づくにつれて再び先端部分がひとりでに動き出した。しかも反応が今までで一番大きく、ロッドの先端部と地面とが垂直になるほどである。
おおよその当たりが付いたのか、マリオンはうなずくと瓦礫の隙間に杖を突き刺した。そして印を組んで何やら小さく口ずさむ。魔術だ。ダウジングに注意がいっていたせいかマリオンが魔術師なだということに気が付かなかった。ダウジングロッドに刻まれているルーンがぽつぽつと魔力の輝きを生み出していく。なるほど、あのロッドはダウジングロッド兼発動触媒でもあったのか。
「氷よ――」
マリオンの声とともに周囲の瓦礫が、その下から出現した氷の柱によってまるごと持ち上げられた。彼女が呼び出した氷柱は反対側が透き通って見えるほど純度が高く、それだけでマリオンが腕のたつ魔術師なのだということがわかる。これがへぼだと不純物が混じって真っ白な氷柱が出来上がってしまう。
「お、マジで何か埋まっていたなあ。ちょっと汚いけど」
田中が言う通り、その氷柱の中には薄汚れたボストンバックが収まっていた。所々破れており見るも無残なボロボロ具合である。どうやらダウジングロッドはこれに反応していたらしい。しかし、傍から見てもお宝とはとうてい言えない代物である。
それでも万が一がある。見た目はボロボロとはいえその中には夢や希望が詰まっているかもしれない。マリオンはボストンバックを氷柱から取り出すとジッパーを空けて中身を覗き込んだ。
「マリィさん、中身はどうでしたか?」
マリオンはキャシーの問いかけには応えず、無言でジッパーを閉めた。そしてボストンバックを元あった場所にそっと戻した。
皆まで言うまい。
「まあこういうこともあるさ。さあさ次じゃ次じゃ。ほら、もうロッドが反応しておるぞ!」
妙に棒読み口調なマリオンが言う通り、ダウジングロッドは次なる埋蔵物の気配を感じ取ったのかぴくぴくと先端部が動いている。
……動かしているんじゃないですよね?
「そんなことはない!ほれ、付いて来い」
ついさっきまでどこかに行けと言っていたくせに、マリオンはダウジングが反応する方向へと田中たちを促す。正直に言って当初のわくわく感は田中にはもうない。というかもうすでにオチが見えている気がしなくもない。しかし横目でキャシーを盗み見てみると、瞳をきらきらと輝かせ次なるお宝への期待を膨らましている。
よく考えてみればダウジングは金目の物に反応するというわけではない。交渉や水脈といった地面の下に埋まっている物に反応するのだ。つまりちゃんと小汚いボストンバッグを見つけたのだからダウジングとしては大成功なのでは。初っ端がたまたまゴミだっただけでまだ期待を捨てるには早すぎるのかもしれない。それに自分から興味本位で付いてきたくせに今帰ってしまうのはさすがに恥ずかしい。
田中はマリオンとキャシーの後を大人しく付いて行く。
まあ、オチは見えているのだけれども。
それから三十分後、ガラクタの山を前にマリオンは無言で立ち尽くしていた。
極めつけは横転した廃車の下から掘り起こした、いかにも何かが収まってそうな金属製のアタッシュケース。大きさは30センチメートル×30センチメートルと片手で持てるサイズだが、持ち上げてみれば片手で持てるような重さではない。ずっしりと何かが中に満載しているような感覚である。
その中に石ころが詰まっているのを見た時、マリオンの頭からブチッと何かが切れる音を田中は確かに聞いた。それ以来マリオンに声はかけていない。
キャシーはがらくたの山に腰掛けてあくびをし、ダウジングの宝探しに完全に飽きている。
田中も気まずい空気の中、この場を紛らわせることはできないかと模索している。とにかく沈黙は体にも心にも悪い。そう思った田中はようやく口を開こうとし、
「しかし見事にがらくたばかり出てきますね、ご主人」
キャシーの方が僅かに早かった。しかも正確無比に地雷を踏み抜いた。
マリオンは電光石火の勢いで振り返ると、
「ええいうるさい!集中できんではないか!」
「ひぇっ!」
マリオンの剣幕に驚いたキャシーは飛びのき、田中の背中に隠れた。
何もそこまで声を荒げなくてもいいじゃないか。ほら、例えゴミだろうがダウジングが反応するところは見てるんだから。と田中が諭すように言うがマリオンは聞く耳を持たない。何やら小さくつぶやくとダウジングロッドをそっとなでる。刻まれたルーンが淡い光を放ち、触媒と彼女との間で共鳴を始め――魔力が増幅されていく。
いや待て。さらっと魔術を使ってないか?
「ダウジング自体が魔術的、神秘的なものじゃから魔術でブーストをかけたところで本質的には何も問題はない」
などと強引な論法でマリオンはダウジングを再開する。どうしてこう屑拾いというやつらは頭のねじがおかしい奴らばかりなのだろうか。田中は嘆息する。
つづく




