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第十六話 ご注文は威力×重量 その三

「これは小銃の原理を応用しておってな。ほれキャシーちゃん、照準をあそこの石像に向けてみ」


 キャシーは言われたとおりに針の切っ先を邪神像改め石像へ向けた。そして老店主は紐を使って魔力を針打ち器に送り込む。


 するとどうだろう、爆音とともにまるで弾丸のように針が発射!


 音を置き去りにして放たれた針は石像に直撃、粉砕。


 同時にキャシーの両腕が衝撃に耐えられず千切れ、あらぬ方向へ吹き飛んでいった。そして支えを失った針打ち器の本体が、田中の頬を掠めて壁に叩きつけられた。


 惨状が広がっていた。


 キャシーも田中も、身じろぎ一つできなかった。


 老店主は粉々になった石像、両手を失って放心状態のキャシー、茫然としている田中、壁にめり込んだ針打ち器と言う順に視線を動かした後、


「ふむ、術式の爆発力をちょっと強くしすぎたかな」

「何が『ちょっと強くしすぎた』だ……あやうく死にかけたわッ!」


 田中は足元まで飛んできた石像の破片を掴むと、老店主目掛けておもいっきり投げた。残念ながら老店主は頭をそらして易々と躱す。


「まあそう怒るでない。わしも初めて試し打ちしたからのう。で、どうじゃ?気に入ったか?」


 ちっとも悪びれた様子のない老店主にもう怒る気すら起こらない。


「打つたびに両腕が吹き飛ぶ武器なんかどう使えっていうんだよ……」

「私のお気に入りの服だったのに……袖が……」


 指とは違い腕は接合しなければならないので、田中はキャシーの腕を拾うと修復を行う。自分の腕が千切れたことよりも、お気に入りの服の袖が破れたことでキャシーは涙目である。


 鋼鉄の針を爆破の術式で打ち出し、目標に高速で叩き込むこの武器。破壊力はさるものながら実践では到底使えるような代物ではない。人に向ければおそらく撃ったほうも撃たれたほうもミンチになるだろう。


「すまんすまん。しかし魔術の発展に犠牲はつきものじゃ。理解してくれたまえ」


 などと言う老店主に一切反省の様子はない。


「とりあえずこれは却下。そしてあとで廃却処分な」

「なんでじゃ⁉」

「危険すぎるからに決まってるだろーが糞じじい!」


 未だくっ付いていないキャシーの左腕を突き付けて、文句を垂れる老店主を強引に黙らせる。


 というかそもそもの話、アンデッドであるキャシーに魔力は一切ないのだから術式を利用した武器など扱えるわけがない。針打ち器などはなっから選択肢にないのだ。


 しぶしぶといった風に老店主は壁にめり込んだ針打ち器を引き抜くと、今度は槍めいた長柄の武器を持ってきた。


 しかしこの槍、やはりと言うべきか持ち手の部分に余計なものが付いている。円錐の頂点を切り取ったようなものが合計四つほど。昔、スペースシャトルの打ち上げ時に見たバーニアスラスターを彷彿とさせる。


 嫌な予感しかしない。


「おい、じじいもしかしてこれも――」

「キャシーちゃん、これを持ってみんさい」


 田中の言葉を遮って老店主は槍をキャシーに持たせた。そして例によって紐の先を握ると――円錐状のものから爆発音がしたかと思うと、キャシーは目にもとまらぬ速度で突きを繰り出した。


「いや、違う!」


 田中は気が付いた。キャシーが突いたのではない。槍が爆発の推進力で勝手に飛んで行ったのだ。その証拠にキャシーの両腕は槍を握ったまま、その穂先は壁に深々と突き刺さっている。またもや両腕が千切れたキャシーは呆然と自分の腕が付いた槍を見ている。


「だからやめろっていってるだろーが!」

「おじい様!さすがにひどすぎます!」

「すまんすまん!爆破の術式を利用して突きの威力をあげようと思ったが、まさかこれほどとは……」


 両腕のないキャシーに詰め寄られさすがに罪悪感を感じているのか、老店主の声が尻すぼみになっていく。構わんもっと言ってやれと思う。


 それにしてもこの老店主、針打ち器といい槍といい爆破の術式にこだわりすぎてはいないか。たしかに人を超える力を出せるには違いないが、それを制御できなくては何ら意味がない。そういう点で遅延術式を盛り込んだ爆破樽は我ながら傑作ではないかと思う。自画自賛である。


「お前さんもわかってるじゃないか。いかにも、爆発の勢いというものは人のチカラでは決して真似できん。お前さんがどんなに振りかぶっても礫で体を抜けはせん。しかし術式なら少し魔力を送るだけでそれが実現する。弾丸は体を貫くほどの圧倒的な破壊力を生み出せる。そこに滾るものを感じはせんか?ロマンを感じはせんか?」

「いや、ぜんぜん」


 再びキャシーに腕を取り付けている田中に即答されて、老店主はがっくりと肩を落とした。ロマンを感じるのは別に構わないが勧めるならもう少しましなものにしてほしいし、キャシーを趣味の実験台に使うのは止めてもらいたい。そのたびに腕を付ける身にもなってくれ。


 まあ趣味で作ったものをよこせと無茶を言っているのは自分たちの方だが、それにしてもである。ここまで趣味全開のものを渡されるとは想定していなかった。もっとこう馬鹿みたいにでかい剣とか尋常なほど鋭い槍とかさす又とか一芸品を想像していたんだが……。


「そんな面白みのないもんなんぞ誰が作るか。だいたいピーキーな性能が趣味につながるとは限らんぞ。こういうもんは発想と魔術と悪戯心が重要なんじゃ……」


 不意に老店主の視線が下を向いた。


「時にタナカ、お前さん剣の柄でも新しくしたのか?前のと違うような気がするんじゃが」

「そんな面倒なことしねーよ。あげたんだよ」


 今度は老店主が驚きに打たれる番だった。両目を見開いたまま瞬きすら忘れている。


「はあ⁉あげたじゃと⁉前々から頭がおかしいと思うとったが、まさかここまでとは……お前さん、とうとう気でも触れたのか?」

「……無茶苦茶言うなこのじじい」


 田中はキャシーの腕の接合を終えると観念したように大きなため息を一つついた。最近ため息ばかりついているなあとふと思う。


「俺よりもちゃんと使ってくれるやつがいたからあげたんだよ。このままずっと俺が使うよりもそっちのほうが良いだろ?」

「それは剣に対してか?それとも前の持ち主に対してか?」


 田中は考える素振りすら見せず即答した。


「両方かな」

「ふむ、相当気に入ったんじゃな」

「気に入ったというよりもキャシーを助けてくれたからな。俺ができる最大限のお礼さ」


 そうかそうか、と老店主は独り言のように何度もつぶやく。そして口の端が波立つように揺れた。


「ちょっと待っとれ。すぐに戻ってくる」


 急に老店主は何かを思いついたようにアトリエの奥へと引っ込んでいった。いったいどうしたのだろう。槍は未だ壁に突き刺さったままである。もしかしてまた使い物にならない武器でも持ってくるんじゃないだろうか。またキャシーの腕が吹き飛ぶんじゃないだろうか。


 田中の胸に沸いた不安はどうしても拭うことはできなかった。





 しばらくして老店主はアトリエの奥から、長さにして2.5メートルほどある木箱を台車に乗せて戻ってきた。箱の大きさからしてポールウェポンなどにしては短く、剣にしては長すぎる。またトンデモ武器なのでは、と田中は身構えた。キャシーも怪訝な顔で木箱を見ている。先ほどのこともあるので警戒するのも無理はない。未だ疑念や不安といったものがドロドロに混ざり合い、タールのような粘度で心の片隅に引っかかっているのだ。


 老店主は木箱のふたを開けると魔術で中身だけを浮遊させて作業台に乗せた。布でぐるぐる巻きにされているが、棹とその先に刃がついていることがわかる。少々棹が短くその分刃がバカでかいけれども、シルエットからおそらくグレイブである。


「グレイブではない」


 老店主はかぶりを振って言い切った。そして布を剥がす。


「これは人も両断できると言われたため、教皇庁より禁止されし三日月斧。バルディッシュじゃ」


 斧ならば、たしかにポールウェポンにしては棹が短いのも合点がいく。金属製の剛竿の先には、戦斧の上下を引き延ばしたような刃渡り90センチメートルもある大ぶりの斧刃が取り付けられている。なるほど、老店主が三日月斧と呼んだように、斧刃が三日月のような形といえなくもない。刃に沿うようにして獲物の血で切れ味が落ちないよう、流すための溝が走っている。


「鍛冶屋が言うには刃は十分焼きを入れて戻しも入れている。それに加えて一等級並みの強化で切れ味と靭性を両立している。こんな代物だからたとえ魔力強化している鎧だったとしても真っ二つにできるじゃろうし、パリィした剣ごと両断できるはずじゃ。

注意点じゃが、あくまでこいつは戦斧、振り回すというよりも上からたたっ斬るというイメージであつかってほしい。竿の部分で攻撃を受け止めるというのも推奨はしない。あとこんなバケモノみたいな刃を乗せるのは木製の竿では無理でな、総金属製となっておる。だから普通の戦士じゃ扱えんし、そのせいで存在を忘れて倉庫に眠らせておったわい」


 たしかにこんな戦斧を扱えるのはキャシーくらいだろう。どういう意図で造ったのか全く分からないがこのバルディッシュなら大剣と同じように――いや、取り回しの良さを考えるとさらに強力な武器となるだろう。大剣は相手が特定危険生物だと特段問題はなかったが、人間が相手となるとどうにも使いにくかった側面がある。だがこのバルディッシュならそういう問題も解消できるだろう。


 キャシーは柄をむんずとつかむと片手で軽々と持ち上げた。そしてバルディッシュをくるりと回して担いで見せる。


「どうですご主人。似合ってますか?」

「ああ。伝説のドラゴンでも倒せそうだよ」


 世辞ではない。


 殺意しか感じられない武骨な武器だが、キャシーが持てば案外しっくりとくるし、教会に飾られている槍を持った天使のようで美しくも思える。


「ご主人、これがいいです。これにしましょう」


 バルディッシュを扱うには狭いアトリエの中で、キャシーは新しいオモチャを買ってもらった子供のように得物を振り回している。眩しい笑顔に立ち眩みすら覚える。まあ、オモチャというには殺意マシマシの代物だけれども。


 地下室の武具類を残してくれた顔も知らぬ魔術師に心の中で礼を言いつつ、これから老店主との価格交渉に挑むとしよう。

おわり

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