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第十五話 Re:新米都市警 その一 

 二日前のことだというのに、光景が、手に残った感触が、嫌と言うほど鮮明に残っている。


「新入り!後ろだ!」


 分隊隊長が剣を振り下ろし、とどめを刺しながら声を上げた。そんな大きな声で言われなくても分かっている。私は振り返りつつ遠心力を生かしてロングスピアを横なぎに振るった。柄がぶつかり、固い感触とともにゴキンと骨が砕ける鈍い音が響いた。崩れ落ちたソレの頭部目掛けて私は一切の躊躇いなくロングスピアの切っ先を振り下ろす。手足がビクンビクンと痙攣している。


 躊躇いはないと言ったけど、人間の姿をしているモノの頭を潰すのはやはり気分のいいものではない。ネクロマンサーという人種は本当に好きになれない。どうしてこんなゾンビなんてものを嬉々として作ってしまうのだろうか……。


「新入り――もう新入りとは呼べないな。ニト・ペルオキシ、さすが初陣で、しかも一人で廃墟街から生還してきただけのことはある」


 そのせいで借金持ちになってしまったとは決して言うまい。適当に返事をしつつ私はため息をつくと、顔を上げた。私の周りには分隊長ほか三名の同僚たちによって仕留められたゾンビ六体が倒れている。が、術者の姿はそこにはない。


 それがこの連続ゾンビ大量発生事件の厄介なところであった。




 ゾンビ――それはネクロマンサーが扱うネクロマンシー、言わば死霊術という魔術の一種によって生み出されるリビングデッド、動く死体である。旧帝国のダンジョン等に巣食い冒険者たちに襲い掛かってくるグールとは違い、術者に使役されるタイプのモンスターである。知能はないし複雑な動きはできないが術者の命令(簡単な内容)に従って行動する。


 その性質上、都市の地下で歯車を延々と回し続けるような精神的にしんどい仕事に就かされているケースが多い。ほんとかどうかは知らないけど。


 そして重要なことがある。


 あくまで他人の死体である以上、ゾンビづくりには遺族の合意の元、役所への届け出が必要なのだ。


 そりゃそうだ。昨日死んだ自分のじいちゃんが、怪しい魔術師に棺桶から起こされて歯車を回す仕事をさせられた日には抗議待ったなしである。というか本人からしても死んでもなお働かされるとか地獄に他ならない。


 届け出なきゾンビづくりは基本的には器物損壊といった処罰の対象なのである。あと魔術師組合に属していない場合も違法となる。


 キャシーちゃんはどうなのだろう。ゾンビでもグールでもないアンデッドとはいえ届け出は必要だったのだろうか。機会があればあの鳥頭に問いただしてやろうと思う。




 最近エンディミオン支配領域内の村や町でゾンビが大量発生している。


 いやまあ野良ゾンビというものは昔から少なからずいた。術者が誤って逃がしてしまったり、魔術的要因で自然発生してしまったりといろいろと理由はある。しかし、だ。最近のゾンビ発生事件はそういう偶発的なものとは到底思えない。あきらかに人為的なものとしか思えないほどの発生件数である。そろそろゾンビが出てない村のほうが少ないんじゃないのかと言われるほどだ。さすがに現場の駐在で事態が収拾するわけもなく、私たちみたいに都市警の分隊が事件の捜査とゾンビの駆除と言う名目で何組も派遣されている。そしてつい先日、村の墓地にてゾンビの群れと遭遇し、それをせん滅している。


 まあ若干の知能が残っているグールとは違って、殴らなければ殴り返してこないゾンビなのが幸いである。術者が命令をしていないのかして彼らは墓地をふらふらと歩き回っているだけで一見実害はない。実害はないとはいえ決して見ていて気分のいいものではない。それが自分の血縁者なら直さらである。


 さて、ゾンビに関する話はそれくらいにしよう。


「さてどうしようかな……」


 道端の樽に腰掛けて私は特に何をやるでもなく、虚空を見つめながらため息をついた。


 ここはゾンビ駆除した村とは別の小さい辺境の村である。この村にはゾンビ大量発生の捜査で来たのだが、あいにく村について早々近くの村でゾンビが大量発生したという連絡が早馬でやって来た。どうやらその村には都市警の分隊もおらず、駆除をするにも人手が足りないらしい。馬に乗り慣れていない私を除く分隊員は皆その対処に向かってしまった。


 いや、おいて行かれたからと言って別にさぼっているわけではない。小さい村ゆえ聞き込みはすぐに終わったし、念のため墓地を覗いても特に変わった様子はない。平和そのものである。


 だからこうして朝早くから町の入口をずっと見ている。分隊の皆が帰ってこないかなとか怪しい輩が入って来ないかなと物思いに更けながら。


 村をぐるっと囲んでいる石壁は腰ほどの高さがあり、主に害獣除けだろう。門代わりの粗末な木の扉は開けっぱなしで、入口に陣取っていればかなり遠くの方も見える。


 たとえば朝も早いと言うのに、こちらへやってくる二人組をいち早く見つけることだってできる。


 片方は右目に黒いアイパッチを付けた女の子だ。ただし似合わぬバカでかい大剣を背負っているというのに足取りはとても軽やかである。


 もう片方は都市迷彩柄のフード付きの上着、右肩に小銃をひっさげて、左の腰には一振りの剣を差した中肉中背の男だろう。だろう、というのはあくまで体型から判断しただけであり、顔はペストマスクを被っているためよくわからない。


 ん?


 バカでかい大剣?ペストマスク?


 …………。


 ……あ。


「あんたがゾンビ大量発生事件の犯人でしょ!」

「んなわけあるか!」


 私の鋭い指摘を、その男――タナカは瞬時に否定した。


 わざわざ村の入口で隠れて待ち構えていたのだ、もっとこう盛大に驚いてくれてもいいのにとか思わなくもない。せっかく満を持してこの私が飛び出してきたというのに。


「誰かと思ったらニトか。ほんと都市警ってやつは礼儀がないなあ」

「えー、でも見た目も怪しいし、あんたネクロマンサーでしょ?もう犯人以外にあり得ないじゃない。あと礼儀云々は知らん」

「待て、百歩譲って怪しいとしても――」


 いや、百歩ゆずらないと怪しいのを認めないのかあんたは。


「細かいことはどっか横に置いとけ。そうじゃなくてだな、そもそもゾンビ大量発生事件ってなんだ?そんな事件が起こっていること自体初耳なんだけど」


 そう言ってタナカは首を傾げた。


 いやいやいや知らないわけがないだろう。


「けっこう大事になっている事件よ。私ら都市警だって駆り出されているんだし」


 もしかしてあくまでしらを突き通すつもりなのかしらこの魔術師は。しかし、そんな私の考えがもちろん見当違いだということはすぐにわかった。


「ニトさん、その事件はいつごろから起きていますか?」


 と、キャシーが何気なしに聞いてきた。だいぶ前に読んだはずの資料の内容を記憶の海の底からなんとか引っ張り上げてくる。


 えーっと三週間前……二週間前くらいからだっけ。


「でしたらご主人は犯人ではありません。私たちは別件で遠く離れたところに行ってました。事件の内容がどういったものか詳しいことは知りませんが、おそらく事件が起きている頃私たちは森番と行動を共にしていました。トレースという森番の方が証言してくれます」


 森番ときたか。同じ公務員仲間だけどあまり関わり合いになりたくない部類の輩である。都市警がエンディミオンの住民にあまり好意的な目を向けられていないのは周知の事実だが、それ以上に村人たちに嫌われているのが森番たちである。森林資源に関してなら治安維持局にすら平気で噛みついてくる奴らだ。というか屑拾いのくせに森番が関わるような仕事をしているとは。


「わかったわよ。タナカをしょっ引けないのは残念だけどアリバイがあるなら仕方がないわね」

「いや待て、どうしてそんなに残念そうに言うんだお前は⁉」


 タナカが何か言ってるけどそんな抗議はガン無視しておく。

つづく

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