↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/384

第十一話 魔術師組合探検隊 その二

 一瞬世界が真っ白に染まり、遅れて雷鳴が轟いた。


 激しい雨粒が瓦礫をこれでもかというほど叩く。


 間一髪で本降りになる前に屋内に入ることができた。身についた水滴を払いながら田中とキャシーはジャンの案内でベースキャンプへと足を踏み入れた。案内されたのは造りのしっかりした横に長い三階建ての建物である。廃墟にしっかりとした作りというのはどこかおかしい気もするが、細かいことを気にしてはいけない。


 どうやら二階部分が本拠地となっているらしく、田中らはそこへと通されるようだ。長い廊下を歩きながらジャンが話し始めた。他愛のない世間話である。


「ほんと本降りになる前に着いて良かったです。そういえば言ってませんでしたけど、俺は護衛の仕事で相方と一緒に廃墟街へ来てるんですよ。なんでもこの建物の地下ででっかい魔法装置が見つかったとか何とか」


 ペストマスクの下で田中の眉がピクリと動いた。


 大きな……魔法装置。


 もしかして……!


「それがどういったものとかは聞いてるのか?」

「さあ、俺は魔術なんて使えないですし、仕事はあくまで護衛だし。だから魔法装置なんて興味もないんで詳しい内容とかは一切わからないですよ」


 ジャンは困ったように頬を掻く。


 それもそうだ。


 田中は深呼吸を繰り返して落ち着こうとする。とにかくこのジャンという屑拾いが護衛しているのは十中八九魔術師組合が派遣した調査隊であろう。学者先生たちからなるこの手の集団は旧世界の魔法装置が発見されると出向いて、いろいろな調査や実験をするのだ。


 どうにかして同じ組合員のよしみで少しくらい見せてはくれないだろうか……。


 淡い期待を抱く田中だが、ほどなくしてそれは打ち崩されてしまう。


 案内されたベースキャンプの中核となっている二階の部屋――というよりはフロアといったほうがしっくりくる――には組合から派遣されたのだろう学者然とした人たちと武装した男たちがともに焚火を囲んでいた。


 身なりからして屑拾いではない。


 屑拾いはその多くが白や灰からなる都市迷彩柄の服装をしている。田中はフード付きのマントが白と灰のツートーンであり、キャシーもよく似た色合いの服装である。理由は簡単でミュータントや同業者、溝さらいといった者たちになるべく見つからないようにするためである。避けられる戦闘は避けようと言うのが屑拾いの考えなのである。他にも魔術強化による発光を嫌って鎧の上から都市迷彩柄の布を張り付けている者や廃墟街産の強化カーボン装甲を身に着けている者もいる。ブリガンダインも人気である。


 一方傭兵や冒険者というのは廃墟街には来ないため、普段通り金属鎧を着ている。


 これが屑拾いかそうでないかを見分ける一番簡単な方法である。


 武装している男たちはもちろん都市迷彩柄のものなど身に付けてはいない。雰囲気からして冒険者でもなく、おそらく傭兵だろう。


 彼らの中から調査隊の隊長と紹介されて出てきたのは髭が印象的な壮年の男性であった。


「こんなところで同じ組合の人間と遭遇するなんて。主の導きか何かですかな」


 隊長が握手を求めてきたので田中は快く握手に応じる。


 本当にこういう時は組合というものが役に立つ。


「かもしれませんね。それにしても組合の調査隊がなんでまたこんな廃墟街の奥なんかに?」


 普段とは違い田中の話し方は幾分丁寧である。


「大がかりな魔法装置が発見されましてな。どういう何のためのどういったものかとかいろいろと調査しなくてはならないんですよ。それが危険なものかどうかも含めて」

「魔法装置ですか……興味深いですね。よろしければ魔術師の端くれとして見学とかできませんか?」


 隊長は途端に渋い表情をする。


「残念ながらそれに応えることはできないんですよ。ほら、いくら組合の人とはいえ権限とか何もないでしょ?私どもにできるのは雨が止むまでの間、立ち入り禁止している地下以外は雨宿りに自由に使ってよいということだけです」

「そうですか……」


 そうとう落胆していることが声音だけでも伝わってくる。が、一歩後ろで控えているキャシーは慰めようなんて無粋なことはしない。自分の主人はどうしようもなく諦めが悪いことを知っているからである。


 田中は気を取り直して隊長に尋ねる。


「ところでここにいる人はどれくらいいるんですか?」

「人数ですか?調査員が六人に護衛が六人、あと組合から業務報告で派遣された魔術師が一人いますけど……」


 隊長は心底不思議そうに答えた。なぜそんなことをわざわざ訊くのか、意図が見えない。ペストマスクで田中の表情は伺えないが、もし素顔だったならば――おそらく隊長は答えようとはしなかっただろう。


「いや、大掛かりな魔術装置と聞いていたのでもっと大規模な調査隊のかなあと思いまして」


 言いつつ田中は部屋の中を見渡す。


 この部屋に調査員が六人と屑拾いが一人、護衛が二人。入口に二人護衛がいて、屑拾いの相方が1人。となると残り一人はいったいどこに……。


「ん?そのマスク、どうしてタナカがこんなところに?」


 どこかで聞き覚えのある声に田中は勢いよく振り返った。眼鏡と髭が特徴的で、裏を返せばそれ以外これといった特徴のない魔術師であるロッドがそこにいた。これほどの偶然なんてあるのだろうか?まさに主の導きといっても差支えはない。


「業務報告に来た魔術師ってのはロッドのことかよ。なら話が早い、ちょっと頼まれごと聞いてくれないか?」

「お前が調査隊のベースキャンプにいなけりゃ喜んで聞いてやったよ。正直、こんな危険地帯にスライムを凶暴化させる体質のやつとは一緒にいたくないんだが」


 田中は嫌がるロッドの肩を組んで決して人様に見せられないような笑みを浮かべた。もっともペストマスクで物理的に見せられないのだが。


「ロッドぉ、お前まだそんな根も葉もない妄言を信じてるのかよ。これだから組合に閉じこもってばかりのやつは……それよりも、アミュレットの時は助けてやったんだしちょっとくらいいいよな」

「お前なあ……そのアミュレットをしれっとぶっ壊しやがってよく言うよ。まあ、ちなみになんだ?」

「魔法装置を見てみたい。あ、一目だけでいいんだよ一目だけで!」


 言う否やロッドは組まれた肩を振りほどき、胡散臭そうに田中を見る。向けられた視線が絶対何か企んでいるに違いないと言外に伝えている。


 勘のいい奴め……。


 その視線にはあえて答えず、代わりに再び田中はロッドの肩をグイと引っ張り、顔を近づけた。そして声を潜めると、


「代わりに一日か二日くらい護衛の仕事してやるよ」と言った。


 ロッドが一瞬だけ目を丸くしたような気がするが次の瞬間には消えていた。そしてロッドも田中と同じように声を潜める。


「なら聞く。お前から見てあの用心棒連中は役に立ちそうか?」

「屑拾い二人はそれなり。残りの傭兵連中は……襲ってくるのが人なら大丈夫じゃないかな」

「やっぱりか……」


 ロッドは大きなため息をついた。やはりあの傭兵たち、廃墟街を歩いた経験が乏しいのだろう。廃墟街を歩くのと外の世界を歩くことは違う。ミュータントと戦うのと人と戦うのもまた違う。いかに腕に自信がある傭兵だとしても、この特殊な環境で護衛として役に立つかと聞かれればおのずと答えは明らかである。


「俺は雨が上がり次第組合へ帰ることになっててな。その時にそこの屑拾い二人を護衛とする予定なんだが……」

「調査隊の面々にはちゃんとお別れの言葉を言っておけよ」


 明言はしないが、つまりそういうことだ。


 ロッドはしばしの間無言で考え込む。田中も何も言わずただロッドの次の言葉を待つ。大方予想はできてはいるが。


「わかった、俺の護衛を引き受けてくれるならブツを見せてやる。見るだけだぞ。それでいいか?」


 断腸の思いといった様子である。


「商談成立だ。いやーロッドは話が早くて助かるわ」


 今日一機嫌のよい声が出た。


 というわけで、


「隊長、明日の朝にでも彼に例の物を見せてやってくれ」


 臨時で田中らを雇うこと。その代わりに魔術装置を見学させること。引き続き屑拾い二名と傭兵四名で護衛を続けるという旨を伝えた時、やはり隊長は難色を示した。勝手に決められては困ると。こちらで用意した用心棒ではない者が護衛したとして、万が一のことがあった場合責任はいったい誰がとるのだとか、などと実に回りくどくロッドに言う。しかしロッドはどこ吹く風。


「私の自己判断なのですから責任の所在は明白でしょうに。それにこのタナカという男はこれ以上もなく怪しい出で立ちですが、れっきとした組合所属の魔術師ですし、廃墟街歩きに関しても相当の手練れです。特に問題はないでしょう。隊長も彼からここでの過ごし方を学ぶいい機会かもしれませんよ」


 つまり廃墟街のことを何も知らないあんたが用意した護衛なんて信頼できない。田中にはそう言っているように聞こえてしまう。深く考えすぎな気もするが、実際のところまあ本心の部分もあるのだろう。


 隊長もロッドの責任の所在が明白という言葉を受けて、しぶしぶといったように許可を出した。


 田中の調査隊の護衛とロッドの帰りの護衛、そして何よりも件の魔法装置の見学が決まったのであった。

つづく

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。