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+04 観察B面

須藤要は、朝、県警本部に出向くと、直ぐに資料の確認をした。

不足がないか?仕分けは解りやすいか?

そして、書類を見ていて、ふと気が付いた。


「プリントアウトだけじゃ二度手間になるか?」


机の引出しを探して、私物のUSBメモリースティックを取り出す。

ソレをパソコンに刺して、一度はプリントした資料の元データをメディアにコピーする。

一応、余分なデータが入っていないかの確認も怠らない。


コピー中に、視線の端に動く物がある。

廊下の自販機辺りに、背広姿が見えた。

制服ばかりの署内では背広姿は目立つ。


「仕事前の珈琲くらいは、ゆっくり飲ませてやるべきなんだろうな。」


ジョンソンが来ているのを、見ぬ振りをするに決めた様だ。


その時、須藤をいつもの感覚が襲う。

呼ばれている様な、その感覚。

辺りを見回すと、外に面する窓ガラスに、須藤自身の姿が写っていた。

その姿は首を振って、ジョンソンの方を指差している。

勿論、机に座っている須藤は、微動だにしていない。


《彼》が現れたのだ。


パソコンがメール受信の音を立てた。

差出人を確認して、メールを開く。


『奴には気を付けろ。ギャグでも飛ばして、煙に巻け!』


《彼》からのメールだ。

因みに、送信者も受信者も、同じメールアドレス。つまり須藤要だ。


須藤は、USBを抜き取り、パソコンの電源をオフにする。

先程のメールは、送信も受信も、文章も履歴も残ってはいない。

他者が居る時には届かないし、メールを開いたまま、他者を呼ぶと消えている。

証明のしようがない。


一応は部外秘の巡回資料をクリアフォルダの外側に貼り付け、紙の資料を、持ち帰り用の封筒と共に入れる。


「これで、準備万端かな?」


一区切り出来たので、眉間をマッサージして、ストレッチをする。


「須藤巡査、お待たせしました。」


ジョンソンが須藤に声をかけてきた。

ここは、《彼》の指示通りにする為に、前振りを入れておくべきだと判断する。


「おはようございます。ジョンソンさん。えっと、『ジョンソン局員』の方が良かったですか?」

「『ジョンソン』でも『ジョンソンさん』でも良いですよ。」

「では、『ミスタージョンソン』で。」

「何でやねん!(笑)」


意外と、良い返しが来た。

冗談の通じる奴らしい。

アメリカ人の笑いやゼスチャーは派手だ。

しかし、仕事もしっかりやらなければならない。


「こちらが、昨日お話しした資料です。フォルダに貼ってある分は、今日の巡回予定なので、帰る前に返却して下さい。」


できるだけ見やすく作った資料を、ジョンソンは確認している。


須藤は、私服に着替えてジョンソンと車に向かう。

途中で装備課に寄って、車の鍵を受けとる事を忘れない。

書類に時間を記入するので、出発直前に受けとる事にしたのだ。


車を見たジョンソンから聞かれた。


「県内の巡回なら、パトカーでも良いのではないですか?」

「パトカーだと、目前で事件が発生した時に対処しなければなりませんし、目立ちます。ジョンソンさんを通常の警察業務に関わらせる事はできませんが、パトカーで事件に遭遇した時に、パトカーに乗っていて見ぬ振りもできませんし、『警官ではない』と言う事もできません。」


事前に署長から聞いた説明をする。

ジョンソンは、助手席に座るかと思ったら、後部座席に乗り込んでノートパソコンを広げた。


「前後に分けて座った広いですからね。」


渡したUSBをコピーしたいのだろう。

須藤は納得すると、スマホを車のホルダーにセットし、ハンズフリーを耳に入れる。

シートベルトも忘れない。


「いやぁ~、データファイルにしてもらっていて、助かりましたよ。」

「書面を見て打ち直すのも、二度手間ですからね。では車を出しますから、後ろもシートベルトをして下さい。」


日本人の気配りに感心している様子だ。


いつもの巡回もそうだが、今回も、正直に言って単なるドライブだ。

休憩や食事を、車が停められる場所にしなくてはならないのは、かなり面倒だ。

ジョンソンが居るのに、いつもの様に公園のベンチや、行き付けの定食屋と言うわけにはいかない。


ある程度は、ちゃんとした喫茶店やレストランを選別はしてあるし、経費で落ちるから助かるが。


「日本の警察は、いつも、こんなにのんびり出来るのですか?」


部外者が居るからと言って、確かに異常な光景ではある。


「日本の警察と言うより、うちの班だけが、特別なんですよ。もっとも、いつもは自転車なんで、ペースも遅いですが。」


特別な事が無い限りは、本署の付近を一日かけて回るだけだ。

今回は車だが、いくら何でも、県内全域を廻るわけにはいかないので、いつものルートより少し範囲を広げたが、コースの配分を間違えたらしく、二周以上してしまった。


笑うしかない。明日は、工夫しようと反省した。


「それでも、かなりの実績を上げていると聞いていますよ。」


ジョンソンに誉められ、かえって恥ずかしい。


「須藤巡査の捜索には、どの様なコツが有るのですか?是非とも教えて頂きたい。」


来日の目的から、当然、予想出来た事だが、やはり聞いてきた。

本当の事を話したら、精神状態を疑われるのは、これまでの経験から判っている。


「申し訳ない。お教え出来れば、多くの人が助かるのでしょうが、これは、一種の『勘』みたいな物なので、お役には立てないでしょう。」


須藤は、この様に言うしかない。


「それは、超常的な能力による物ですか?アメリカでは霊媒師の力を借りた捜査も、なくは無いですから。」

「日本でも、アメリカで捜査に協力する霊媒師の特集番組を放映する事が有りますよ。」


ジョンソンの意外なアクションに、須藤は少し驚いていた。

すると、スマホのハンズフリーに、《彼》から声が聞こえる。


「あんなフリをしてきたんだ。冗談半分に『守護霊のおかげ』とでも言ってやれ。」


勿論、ジョンソンには聞こえない。

須藤は、これが『ギャグでも飛ばして、煙に巻け!』の理由だと理解した。

最初に『よく冗談を言う奴』を印象付けしておき、重要な場面でも本当か冗談か判らない対応で不明瞭にする。


「ジョンソンさん。私の場合は、守護霊。西洋風に言えば、守護天使の御導きとでも思って下さい。」


須藤巡査は、如何にも冗談だと、笑いながら話した。


まぁ、毎日、何かが起きる訳ではない。

その日は、特に何もなく、ドライブだけで終わって、彼等は署に帰った。


須藤は、ジョンソンに対する対応を模索しつつ、翌日の巡回ルートを検討し直した。


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