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+03 観察A面

朝、県警本部の廊下。


ジョンソンは、物陰から須藤巡査の行動を観察していた。

と、言っても署内なので、彼が居る室内が見える廊下で、カップ珈琲を飲みながら、たまたま視界に入っていると言う感じを演出はしている。

自販機と、カップのゴミ箱が廊下に有るので、特に変な行動ではない。

先日の下見でも、当該署員が行っていたのを確認している。


「日本の珈琲は、合わないな。」


缶珈琲と自販機のカップ珈琲だけしか飲んでいないが、日本人の口に合わせてあるだろうソレは、ジョンソンの気に入る物ではなかった。しかし、無い物を騒いでも仕方がない。


そんな珈琲をチビチビと飲みながら観察していると、須藤巡査は彼のデスクに座ったまま、頻繁に建物の窓ガラスの方を見ている。

そこに、特別な何かが有る様には見えない。

ガラスに写った自分を見ている様だが、髪型や衣服を気にしている様にも見えない。


意味不明な行動だ。


次に、幾つかの書類をクリアフォルダに入れて、整理している。

机の片付けまで終わると、眉間を押さえてから、背伸びをはじめた。


そろそろ限界か?


空になった紙コップを潰して、自販機の脇に有るゴミ箱に放り込む。


「須藤巡査、お待たせしました。」


たぶん、珈琲を飲んでいたのは、知っていただろう。

チラチラ見える位置に居たのだから。


「おはようございます。ジョンソンさん。えっと、『ジョンソン局員』の方が良かったですか?」

「『ジョンソン』でも『ジョンソンさん』でも良いですよ。」

「では、『ミスタージョンソン』で。」

「何でやねん!(笑)」


一応ジョンソンも、ジャパニーズ漫才は予備知識として見ているので、ボケとツッコミは理解している。

定番の「何でやねん」を返せば、大方はOKだ。

そして本国の様に、安易に他者を呼び捨てにしない風習も理解している。


笑いながら、親密化を図るのは、万国共通だろう。

ただ、日本人の笑顔はアクションが小さく、判りにくい。


そんな温度差のある笑顔を交わして、二人の関係は動き出す。


「こちらが、昨日お話しした資料です。フォルダに貼ってある分は、今日の巡回予定なので、帰る前に返却して下さい。」


須藤がジョンソンに手渡したフォルダの外には、色ペンでルートなどが書き加えられた地図が貼ってあり、中には約束した行方不明者の統計情報が書かれた紙が、A4封筒と入っていた。

巡回ルートは、警備情報に当たるので、流出厳禁なのだろう。

どのみち、日替わり情報ではあるだろうが。


席を立ち上がる須藤巡査についていくと、彼は更衣室で私服に着替えた。


さて、須藤巡査の運転で、県内の巡回警備に同行するのだが、用立てられた車輌は、覆面パトカーだった。


「県内の巡回なら、パトカーでも良いのではないですか?」

「パトカーだと、目前で事件が発生した時に対処しなければなりませんし、目立ちます。ジョンソンさんを通常の警察業務に関わらせる事はできませんが、パトカーで事件に遭遇した時に、パトカーに乗っていて見ぬ振りもできませんし、『警官ではない』と言う事もできません。」


もっともな話しだ。

私を他の仕事に巻き込まれても、何も出来ない。

だから、私服に着替え、覆面パトカーなのだろう。


乗車すると、須藤はスマホを車輌の運転席にあるホルダーにセットし、シートベルトをしめる。

ジョンソンは、対角線上の後部座席に陣取り、同じくベルトをしめる。

彼の視線等を見やすくする為だ。

表向きの理由は、横でパソコンを広げる為なので、鞄からノートパソコンを広げて起動し、USBメモリースティックから幾つかのデータを表示する。

ウイルスチェックにアラートは出ない。


「いやぁ~、データファイルにしてもらっていて、助かりましたよ。」

「書面を見て打ち直すのも、二度手間ですからね。では車を出しますから、後ろもシートベルトをして下さい。」


ジョンソンは、急いでシートベルトをすると、手渡された地図を見ながら、車の行く先を確認した。


警官無線が聞こえて無ければ、県内のドライブにしか見えないだろう。

途中、飲食店で食事をしたり、休憩をとったりして、何回か回っているだけなのだから。


「日本の警察は、いつも、こんなにのんびり出来るのですか?」


事前に署長からも聞いてはいたが、ジョンソンは一応は質問してみた。

無線を聞いている限りでは、何件かの事故や喧嘩通報などが有るゃうだが、この車の中は別世界の様だ。


「日本の警察と言うより、うちの班だけが、特別なんですよ。もっとも、いつもは自転車なんで、ペースも遅いですが。」


須藤は笑って答えた。


「それでも、かなりの実績を上げていると聞いていますよ。」


ジョンソンが聞いた範囲では、須藤巡査も、通常の警官同様に、多忙な仕事をこなしていたそうだ。


ある日、突然に職務を離れて、行方不明者の捜索に行きたいと言い出したが、情報の根拠も無い為に却下された。

ただ、須藤巡査が行こうとした範囲では確かに行方不明者の届け出が有り、それから数日後に消防団などによる30人体制で広範囲の捜索の結果、捜索二日目に衰弱死寸前の要救助者を発見できた。

須藤巡査の指摘していた範囲で。


普通なら、上司は須藤の犯罪関与を疑うが、須藤は派出所での、その実績を買われて県警本部に来た事もあって、須藤の能力を疑っていた上司も、半信半疑になっていた。


次に須藤が捜索を言い出した時に、試しに許可した上司は、彼の能力を認めざるを得なくなった。

僅か数時間で、届け出のあった行方不明者を発見したのだから。

結果的に、須藤巡査が通常業務で動けないと、その分だけ捜索の費用や人件費、救助者の医療費が掛かると判断され、多忙で規律の厳しい警察署内部で、異例の自由度を与えられているのだ。


そして、その実績は、日々、積み上げられている。


「須藤巡査の捜索には、どの様なコツが有るのですか?是非とも教えて頂きたい。」

「申し訳ない。お教え出来れば、多くの人が助かるのでしょうが、これは、一種の『勘』みたいな物なので、お役には立てないでしょう。」


これも、ジョンソンが聞いた通りだ。

彼は、突然に行動を起こすらしい。


「それは、超常的な能力による物ですか?アメリカでは霊媒師の力を借りた捜査も、なくは無いですから。」

「日本でも、アメリカで捜査に協力する霊媒師の特集番組を放映する事が有りますよ。」


ジョンソンの話に食い付いた須藤の反応は、ポジティブだった。


「ジョンソンさん。私の場合は、守護霊。西洋風に言えば、守護天使の御導きとでも思って下さい。」


須藤巡査は、ジョンソンの話に合わせた様に、笑いながら話した。



その日は、特に何もなく、ドライブだけで終わって、彼等は署に帰ったのだった。


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